■日本代表

■日本代表、不安の残る大勝劇(その3)

前回のつづき

 選手個々で特筆すべき活躍だったのは、まず香川選手。
ゴール前で久保選手のクロスを受け、シュートフェイントで相手2人を滑らせてから冷静に先制ゴールを決めてくれました。久保選手がクロスボールを蹴る態勢に入った瞬間、もう数歩ゴールから遠ざかってポジショニングすることで自分の前にシュートを打つためのスペースを空けておけば、後ろに戻りながらクロスを受ける必要が無くなるので、もっと楽にゴールできたのではないでしょうか。
ショートパスのコンビネーションからゴール前で山口選手にボールを落してダイレクトシュートを導き出すなど、チャンスメークの面でもまずまず良かったと思います。

当研究所が4-2-3-1のトップ下に求めることは、

(1)ゲームの流れを的確に読み、チームがゴールを必要としているときは中盤で攻撃を組み立てるための前方へのパスを出し、相手に攻められてチームが苦しいときは、味方と協力しながらトップ下が中心となってボールをキープすることでチームに一息つかせるような、いわゆる「ゲームメーク」の仕事。

(2)攻撃の最終局面で、味方のゴールにつながるラストパスを出したり、自分でゴールをあげたりする、いわゆる「結果を出すプレー」。

香川選手の場合、どちらか片方ができるともう一方ができなくなってしまうことが多く、このタイ戦は(2)はできていたのですが、(1)についてはまだまだ課題が多いです。

味方が良い形でボールを奪い返した瞬間、相手の守備態勢が整っておらず、さぁゴールするためにこれから攻め込むぞという局面で、トップ下がボールをキープするためのヨコパス・バックパスをして落ち着かせてしまったのでは、チームから攻撃の勢いがそがれてしまいますし、逆に、中盤でパスがつながらず反撃の手段が見つからないため、チームが敵から波状攻撃を受けてアップアップの状態なのに、トップ下がダブルボランチから遠く離れたゴール前で張っていて、味方からのパスを待っているというのも大きな問題です。

香川選手は、ゲームの流れを的確に読み、今(1)と(2)のどちらの仕事をやるべきなのかを正しく選択するというところに課題を抱えています。(1)(2)を両方そつなくこなすのは大変だとは思いますが、名波・中田英・中村俊・遠藤・本田など代表の歴代ゲームメーカーが乗り越えてきた課題であり、それが日本代表のトップ下、10番のポジションの役割ですのでがんばって欲しいです。同じ課題は清武選手も抱えています。

岡崎選手の正確なヘッドからのゴールは素晴らしかったですね。
ただし、相手バックのレベルが格段に高いプレミアだと、空中戦で競り負けてしまって、あのシュートをワクの中に入れさせてもらえないことがほとんどです。それを解決しないとW杯本大会で代表のセンターFWは任せられません。足のシュート精度が低すぎることも長年の課題です。

久保選手は、右サイドからのクロスで香川・岡崎両選手のゴールをアシストし、スローインを受けてからの正確なミドルシュートで苦戦するチームを助ける、1ゴール2アシストの大車輪の働きは評価が高いです。ダブルタッチで相手を抜くドリブル突破という武器は、ウイングというポジションでこそ威力を発揮しますから、チャンスがあったらチャレンジして欲しいです。
ハリルジャパンの守備戦術にも問題はありますが、相手ボールのときは久保・原口の両ウイングがダブルボランチのラインまで下がって、DF4人MF4人のコンパクトな守備ブロックをつくって守っていたら、あれほどタイに攻められることもなかったと思います。

川島選手は、相手がボールを蹴るギリギリの瞬間まで我慢してからの横っ飛びで見事なPKストップ。タイのワク内シュートもビッグセーブで何本も防いで守備面で最大の貢献。
PKのときに相手が蹴るだいぶ前にヤマをかけて飛び、それを見切った相手にパネンカで逆を取られ失点してしまうようなGKとどっちが実力が上か、プロの監督なら練習中のプレーを見たらわかると思うのですが、ハリルホジッチさんの選手を見る目を疑ってしまいます。
「守備力に自信がないからゴール数で貢献しようというセンターバックを使ってくれる監督さんはまずいない」と以前書きましたが、吉田選手は「守備力を上げるためならどんな犠牲も払う」という努力をしたからこそクラブでレギュラーを取れたわけです。浦和の西川選手もGKとしての守備力向上という課題から逃げてはいけないと思います。

吉田選手は、コーナーキックからの見事なヘディングで久々のゴールをあげてくれましたが、後半に自分の真上に上がったボールから目を離してしまったことでボールのゆくえを見失い、危険なシュートを浴びてしまったことは反省点です。

清武選手は、コーナーキックから吉田選手のゴールをアシスト。セットプレーから正確なキックが蹴れる数少ない選手として貴重です。チームがボールをキープできない状態が続き苦しかったところで、彼が適度にボールをキープすることでタイに行っていたゲームの流れを引き戻したことも評価できます。
ただ、返す返すも日本に帰って来てしまったことが残念。海外でプレーするための障害をクリアできるのであれば、サッカー選手としての実力をあげるためにも、今年の夏あたりにブンデス中堅クラブあたりにセレッソが保有権をもったままレンタル移籍できないものでしょうか。

 逆に、長友選手はゴール前でのクリアが味方に当たってしまったのは不運でしたが、そこから大慌てしすぎてしまいましたね。ボールを蹴ろうとして立ち足がすべり、空振りして倒れたことで、さらに焦って相手を倒してしまいました。ゴールの中にGKとフィールドプレーヤーが2人カバーしていましたから、あそこまで焦る必要はなかったように思います。

森重選手は前半35分、ティーラシンに股間を抜かれるミドルシュートを打たれてしまいました。両足をそろえて立つから股間を抜かれてしまうわけで、片足を前に出して構えておけば、たとえ自分の正面にシュートが来ても足に当てて防げたはずです。
彼のフィードが基点となったゴールがありましたが、ドリブルで前方へ持ち上がってからのパスミスで相手からショートカウンターを浴びてしまうなどミスが多かったです。

山口・酒井高・酒井宏の各選手は、3m前方にいる相手選手にボールをぶつけ、逆襲を食らうようなパスミスが非常に目立ちました。 
ただ、酒井高選手はボランチが本職ではありませんし、中盤にボールをキープしてタメをつくれるような選手を誰も置かなかった監督さんの選手起用のミスもありましたから、責めるのは酷というものかもしれません。
酒井高選手がボールを持ったとき、山口選手が後方に下がってカバーのポジションを取ることが多かったのですが、酒井選手のナナメ後方をバック2枚がカバーしているのであれば、酒井選手のナナメ前方にポジショニングして、トップ下と共に酒井選手に複数のパスコースをつくってあげると、スムーズに中盤でボールが回るようになると思います。

        ☆        ☆        ☆

 それではまとめです。

タイに4-0で勝利という結果は良かったのですが、日本代表のゲーム内容には問題が山積です。

久保選手にロングボールが入って右サイドで基点をつくり、そこからゴール前へクロスを入れて香川・岡崎両選手がゴールをゲットしたまでは良かったのですが、タイが日本の両ウイングをケアすることでそこへのパスが通らなくなると、ロングボールを使ったカウンターサッカーしかできないハリルジャパンはたちまち行き詰ってしまいました。

それならば、タイの守備ブロックの中でショートパスを使ったポゼッションサッカーで相手を崩すという戦術に転換できれば困難な状況を打開できたはずですが、それができませんでした。

タイにプレスをかけられると、個でもチームとしてもボールをキープできないので、ロングボールを前へ大きく蹴るか、3m前の相手にパスをぶつけて奪われ、タイの猛反撃にいっぱいいっぱい。

日本は、DF5人と守備的MF1人にFW4人で組む4-2-4みたいなフォーメーションだったので、そもそも中盤がスカスカでボールをキープしてタメをつくれるような選手が誰もいませんでしたから、カウンターとポゼッション戦術の使い分けなど望むべくもありません。

こういうスタメンを平気でピッチに送り出してしまうハリルホジッチ監督のプレーヤーの特徴・長所短所を見抜く能力に、強い疑問を感じざるをえません。

昨年から当研究所がヘーレンフェーンの小林選手を呼ぶことを推奨している理由は、それが正しいか間違っているかは別として、今回のタイ戦みたいなことが起こらないように、二手三手先のことを考えたからです。

昨年6月のキリンカップでボスニアに負けたことで、浦和の柏木選手や川崎の大島選手のような、小柄で守備力の低いプレーヤーをボランチにいれてしまうと、W杯に出てくるような攻撃力の高いチームが相手だと守りきれないということが露呈しました。それはロシアW杯3次予選のUAE戦・イラク戦でも失点の一因となってしまいます。

そこで遅まきながらハリル監督は、長谷部・山口両選手でダブルボランチを組ませるようになったのですが、今度は逆に中盤でのボールキープ力やパス展開力が不足し、日本の攻撃力が低下してしまうという問題が出てきました。

じゃあ、体が大きくて守備力があって、しかも足元の技術が高く、ボールキープが出来てパス能力もあるボランチを育成すればいいじゃないか、それならオランダでプレーしている小林祐選手が候補の一人になるのではないか、と当研究所は考えたわけです。

今オランダ代表はボロボロですけど、ちょっと前でいえばファンボメルみたいなプレーヤーに成長してくれないかなと思ってます。香川・清武両選手の成長が頭打ちになるようであれば、トップ下のスナイデルでも構いません。

(当ブログ過去記事・オマーン戦・サウジ戦に向けた日本代表発表!) 

確かに小林選手は経験が少ないですし、攻撃的なボランチとして覚えなければいけないことはまだいっぱいあります。しかし「経験が無い」と言って代表に呼ばなければ、永久に経験を積むことはできません。

彼が代表に招集されて、長谷部・山口・今野選手らのプレーを間近で見ることで得られるものもあるでしょうし、W杯予選でも2-0あるいは3-0で日本が勝っているゲームの後半のような、プレッシャーがかからない場面で使ってあげて、少しづつ実戦経験を積ませることもできます。

ところが、失敗が許される昨年11月のテストマッチにせっかく彼を招集しても後半から20分間プレーさせただけで、それ以降は呼ばれもしません。これでは成長できないでしょう。

それで今回のタイ戦では、サイドバックが本職の選手をボランチに入れて、ボールキープも攻めのパスも出せずに苦戦しているのですから、ハリル監督の選手を見る目、二手三手先を考えてチームを強化していく手腕を疑ってしまうのです。

 この試合は、日本の選手が個の能力で相手を上回っていたから勝てただけで、W杯本大会でこちらより個の能力が高い相手と当ったときにこんな低レベルのサッカーをしていたら行き詰ってしまう可能性が高いです。

それに比べれば、選手個々の能力で劣りながらチーム組織でそれを補い、シュート数で日本を上回る攻撃で冷や汗をかかせた、キャティサック監督のパスサッカー戦術は見事だったと思います。

もしタイ人選手の個の能力が本格的に上がってきたら、5年後10年後にタイに圧倒的にボールをポゼッションされた上に、試合結果でも負けてしまうという悪夢のような未来がやってきかねません。

狭いスペースにいる味方に正確なパスを通すことが要求されるパスサッカーという戦術が、足元の技術やパスセンスに優れたプレーヤーを育てるという側面があります。

パスサッカーを掲げたザックジャパンが、ACミランの本田・ドルトムントの香川・インテルの長友といった選手を成功に導き、
日本の成功を見たキャティサック監督のタイ、マフディ監督のUAE、ポステコグロウ監督のオーストラリア、ファンマルバイク監督のサウジなどが続々とパスサッカーに転換する中で、なぜパスサッカーで成功した日本が、今から10年前のアジアでよく見られた、個の能力頼みのタテポンサッカーへ退化しようとしているのかサッパリ理解できません。

霜田さんがJFA技術委員会のトップだったとき、ザックジャパンがブラジルで負けたのはポゼッションサッカーというたった一つのことが原因だという間違った分析をし、ポゼッションサッカーを毛嫌いして、カウンターサッカーしか戦術の引き出しがないハリル監督を招聘したツケが、このタイ戦でも表面化しました。

霜田さんは「日本サッカー百年の計」を誤ったのではないでしょうか。

◇    ◇     ◇     ◇     ◇     ◇    ◇

          2017.3.28 埼玉スタジアム2002

            日本 4 - 0 タイ

        香川 8'
        岡崎 19'
        久保 57'
        吉田 83' 



        GK 川島        GK カウィン

        DF 長友        DF トリスタン
           森重           アディソン
           吉田           コラピット
           酒井宏         ピーラパット

        MF 酒井高      MF ティーラシン      
           山口           ワッタナ
           香川           タナポーン
          (清武 74)        チャナティップ
                         シロク
        FW 原口          (ヌルン 73)
          (本田 66)    
           岡崎       FW アディサック
           久保
          (宇佐美 84)





サッカー ブログランキングへ
↑いつもポチッと応援ありがとうございます。



  

■日本代表、不安の残る大勝劇(その2)

前回のつづき
 
 ハリルジャパンがたった一つの攻撃戦術しか使えず、タイにゲーム中に修正されると、とたんに攻撃が行き詰ってしまったという問題は非常に重要なので、もう少し続けさせてください。

サッカーというスポーツにおいて、たった一つのことしかできない選手あるいはチームというのは、そのたった一つの事を世界の誰も阻止できないというのでないかぎり、それ自体が弱点となります。

選手個々のレベルで言えば、左右どちらか一方の足でしかシュート・パス・ドリブルをすることができない選手、あるいはドリブルばっかりでパスができない選手、パスしかできずシュートを打てない選手、いつも相手バックのウラでパスを受ける動きしかできない選手のプレーを守備側の選手が予測し、対応することは容易です。

チームレベルで言えば、どんな状況でもカウンターサッカーしかできないチーム、逆にどんな状況でもポゼッションサッカーしかできないチーム、サイド攻撃しかできないチーム、逆に中央突破しかできないチームに対して、相手チームが対策を立てるのも容易です。

しかし左右どちらでもシュートできる選手、チャンスにシュートもアシストもできる選手、状況に応じてポゼッションサッカーとカウンターサッカーを使い分けることができるチームの出方を予測するのは困難ですし、たった一つの事しかできない相手と対戦するときよりも、対策を立てるのに倍以上の労力が必要となります。

だから選手レベルでもチームレベルでも「たった一つのことをワンパターンで繰り返す」ということ、それ自体が弱点となるのです。

このタイ戦におけるハリルジャパンもまさにそうでした。

タイの守備ブロックの両サイドにスペースが空いていて、右に大きく張った久保選手にサイドチェンジの長いボールが入って基点をつくり、そこからゴール前へクロスを入れて香川・岡崎両選手がゴールをゲットしたまでは良かったのですが、タイが日本の両ウイングをケアすることでそこへのパスが通らなくなると、ロングボールを使ったカウンターサッカーしかできないハリルジャパンはたちまち行き詰ってしまいました。

図1
間違い5
(クリックで拡大 以下同様)

図1の前半30分のプレーを見てください。

タイがゲーム中に修正してきたことで前半25分すぎから日本のカウンターサッカーがだんだんと行き詰っていくのですが、日本の攻撃がうまくいかない場合に典型的に見られる悪い形、4トップ・5トップになっています。

このゲームでは、ゴール前に4トップがベッタリ張りつくことはあまりなかったのですが、相手のバックラインと横一直線に並ぶという、バイタルエリアでの攻めに深みをつくれない非常に悪いポジショニングを取った4トップが、ロングボールを要求しながら一斉にウラのスペースへ走りこもうとするケースがしばしばありました。

そこでバックやボランチがロングボールを入れるのですが、マークされている両ウイングには通らず攻め手を失っていきます。

ならばとグラウンダーのパスを出そうとするのですが、4-2-4みたいな形になっているので日本の中盤に人がおらず、パスの受け手のポジショニングが悪いので、無理にパスを通そうとして直前にいるタイの選手にボールをぶつけてしまい、何度もタイの逆襲を浴びてしまうことに。

しかし相手が両サイドをケアしているということは、ピッチ中央にスペースができるわけで、図1を見ればそれが明らかです。皆さんはスペースを見つけられましたか?

バックやボランチがボールを持ったタイミングで、周囲の選手がグラウンダーでパスを受けられる正しいポジションを取ることによって、ピッチ中央のスペースを上手く使ったパスサッカーに戦術を切り替えて攻めることができれば、これほど苦戦することはなかったはずです。

図2
間違い6

図1と同じ場面ですが、ピッチ中央に広いスペース(図のA)ができています。このスペースを日本の選手たちに早く気づいて欲しいのです。

例えば山口もしくは香川選手のどちらかがAで酒井高選手からパスをもらって前を向き、バイタルエリア(赤のエリア)に侵入した原口もしくは岡崎選手にパスをすれば、そこでラストパスを出すための基点ができますし、Aでパスをもらった香川選手がドリブルして相手バックを引きつけてから、ウラヘ抜ける久保選手にスルーパスを出すという選択肢もあります。

図2を見ればわかるように、ダブルボランチとトップ下でつくる三角形の距離が遠すぎます。

まだボランチの酒井高選手がボールを持っているこのタイミングでは、トップ下の香川選手が酒井高選手をサポートするためにもっと近く(Aのあたり)まで寄って行き、山口選手とともに三角形をつくってパスを回すようにすれば、もっと楽にチームでボールをキープして攻めることができるようになるでしょう。

Aにポジショニングした香川選手に相手がマークに行ったとしても、その分どこかに別のスペースができるはずで、そのスペースをすばやく見つけて山口選手らが使い、パスをもらえば良いのです。そうやって効果的に動くことで初めて相手の守備を崩すことができます。

この瞬間、相手4バックの前のスペースには十分すぎる数の味方がいますので、トップ下まで同じスペースに侵入する必要はありません。

香川選手は相手4バックの前のスペースへ侵入するタイミングが少しづつ早く、ダブルボランチと距離が離れすぎている時間が長いことも、中盤で上手くパスが回らない一つの原因です。

もし相手に攻められる苦しい時間帯が続くようであれば、ボールを奪い返した後、ダブルボランチとトップ下の三角形を中心にチームでボールをキープするようにすれば、味方に一息つけさせることができるようになります。

アウェーのUAE戦では、ロングボールをワントップの大迫選手に当て、彼のポストプレーで前線に基点をつくっている間に、みんなが押し上げる時間をつくるというカウンターサッカーに頼りすぎていると警告しました。

普段ロングボールを使ったカウンタサッカーばかりやっていると、高いポジショニング能力や選手どうしの連動性が要求されるパスサッカーにいきなり切り替えようとしても困難だというのは、当研究所で口を酸っぱくしていってきたのですが、このタイ戦もまたそんな感じでした。

(当ブログ過去記事・二手三手先を考えてサッカーをするということ(その2)

ハリルホジッチ監督を招聘した霜田さんは、「戦術を使い分ければ良い」などと簡単に言うのですが、カウンターサッカーしか戦術の引き出しがないハリル監督は、そもそも使い分けができていません。

霜田さんを中心とする日本サッカー協会の技術委員会が「ブラジルでザックジャパンが負けたのはポゼッションサッカーのせい」という間違った分析をし、ポゼッション(パス)サッカーを毛嫌いして、カウンターサッカーしか戦術の引き出しが無いハリル監督を招聘したツケがこのタイ戦でも表面化しているように思います。

ボールをキープして質の高いパスを出せる選手を中盤に入れない監督さんの選手起用法も大いに疑問です。

 つづいて守備戦術の問題点を見ていきます。

図3
間違い2


図3を見てください。やはり日本がうまくゲームを進められなくなり始めた前半25分ごろのプレーです。

4-2-3-1(4-2-1-3)のフォーメーションで、DF4人・MF4人のコンパクトな守備ブロックをつくり、自分たちが守るべきスペースを限定してゾーンで守るためには、原口・久保の左右ウイングがAのポジションを取らなくてはいけません。

ところが人をつかまえるハリル監督の戦術のせいか、左右ウイングが自分とマッチアップしている相手のサイドバックに引きずられて、4-2-4みたいな陣形になってしまっています。

そのため、久保選手の背後に広大なスペース(赤いエリア)ができています。

図4
間違い3

そのスペースへタイのバックからグラウンダーのパスが出て、左サイドハーフのシロクが受けに来ます。彼とマッチアップしている酒井宏選手が“デュエル”に行きますが、ピーラパットがオーバーラップをかけ、サイドで1対2の数的不利をつくられる
1秒前。


図5
間違い4


ボールを受けたシロクに前を向かれてしまい、ピーラパットにパスが出ます。日本の右サイドを崩されてこちらのバックが相手と
3対3のピンチに。

幸い、シロクのパス精度が低く、ボールを受けたピーラパットがもたついている間に戻ってきた山口選手が応対して事なきを得ましたが、個の能力がもっと高い相手だと失点する確率が高いと思います。

ハリル監督の守備戦術デュエルは、人をつかまえることに重きを置いているので、この場面に限らず、相手の動き方によって両サイドあるいはピッチの中央とあちこちに広いスペースができており、そこにいる敵選手にパスが入ると、日本の選手がプレスをかけに行っても間に合わないというシーンがしばしば見られます。

ヨーロッパ四大リーグなどでゾーンディフェンスを見慣れた私にとって、こういう守備戦術はすごく気持ち悪いですし、実際この試合でもタイのパスサッカーにプレスがハマらず、なかなかボールを奪い返すことができずに苦戦を招いていました。

昨年11月のオーストラリア戦で非常に上手くいった、コンパクトな守備ブロックをつくってブロック内で相手が使えるスペースを限定し、そこから約束事に従ってプレスをかけていった方が良いと思うのですが、タイよりも個の能力が高い相手にこの戦術では不安を感じます。

 思いのほか記事が長くなってしまいました。タイ戦における選手個々の評価は次回にしましょう。

次回につづく



サッカー ブログランキングへ
↑いつもポチッと応援ありがとうございます。



  

■日本代表、不安の残る大勝劇

 28日にロシアW杯アジア3次予選の日本対タイ戦が埼玉スタジアムで行われ、日本が4-0で勝利しました。

今回の対戦相手、タイ代表は全員が国内リーグでプレーしています。日本がホームでもアウェーでも勝たなければいけない実力の相手と見ていましたが、4-0で勝利という結果は良かったものの、試合内容は今後に大きな不安を残すものでした。

私も、1990年代からW杯予選やアジアカップでタイとのゲームは何度も見ていますが、相手にこれほど危険なシュートを打たれまくった試合は、ちょっと記憶にありません。

それではいつものように試合内容を詳しく分析していきます。

          ☆        ☆        ☆

 まず日本代表のゲーム全体の進め方がどうだったか見ていきます。

タイのキャティサック監督が「我々が失うものは何もない」と言っていた通り、引いて守るのではなくバックラインを高く上げて前からプレスをかけ、自分たちの実力が日本にどれだけ通用するか真っ向勝負を挑んできました。

しかし、タイはボールを奪われた瞬間のトランジション(攻守の切り替え)が遅い上に、高く上げたタイの守備ブロックはバックの後ろと両サイドにどうしてもスペースが空くので、日本のFWが両サイドを広く使って、そこへロングボールを使ったサイドチェンジのパスを入れることで揺さぶられると、とたんにタイの守備組織が不安定になります。

右サイドで基点をつくった久保選手から正確なクロスがゴール前に入って、香川・岡崎両選手がゴールをあげたところまでは良かったのですが、その後が大問題。

さすがにタイも修正してきて、サイドに張った久保選手へのロングボールが通らなくなると、前半25分ごろから日本は攻撃手段を失ってしまい、逆にパスサッカーで攻めてきたタイにゲームの主導権を握られます。

自分たちが守るべきゾーンを限定するよりも人をつかまえることに重きを置いた、ハリルホジッチ監督の守備戦術である“デュエル”は、タイの速いパス回しにかわされてしまって、なかなかボールを奪い返すことができず、タイから危険なシュートを雨あられと浴びせられることになります。

こうした不安定な状態は後半10分すぎまでハーフタイムをはさんで30分間ほど続きましたが、川島選手のビッグセーブ連発で何とかしのぐという苦しい展開。

サッカーでは「2点差は一番危険なリード」と良く言われますが、もしこの不安定な時間帯に1点でも許していたら自信とモチベーションが倍増したタイの勢いを止められず、2-2あるいは2-3とゲームをひっくり返されていたかもしれません。

どうしてこんなことになってしまったかと言えば、状況に応じた戦術の使い分けができなかったから。

両サイドをケアされてロングボールを使ったカウンターが封じられたということは、逆にピッチの中央が空いてくるはずです。

そこで選手たちが自分の頭で状況判断し、タイの守備ブロックの中でショートパスを使ったポゼッションサッカーで相手を崩すという戦術に転換できれば困難な状況を打開できたはずですが、それができませんでした。

前半25分すぎからタイがやったようなショートパスを使った攻撃を、本来なら日本の方がやりたかったのです。

しかしそれを求めるのは選手たちにとって酷というものかもしれません。

なぜならハリル監督が、中盤でボールをキープしたりパスを出したりすることが得意な選手を先発メンバーとして送り出さなかったからです。

この試合の日本はこんなフォーメーションでした。


図1


                 岡崎
             香川 (FW)           
      原口    (FW)          久保
     (FW)                 (FW)
 

            酒井高   山口  
            (DF)    (DM)   


     長友     森重    吉田   酒井宏
     (DF)    (DF)    (DF)   (DF)


                川島



4-2-3-1とはいうものの、各選手のプレースタイルと役割分担、さらにピッチのどこに誰が長い時間いたかという実質的な面から見れば、DF4人に守備的なMF2人、FW4人の4-2-4みたいな形。しかもボランチの片方の本職はサイドバックです。

酒井高・山口のダブルボランチでは、相手選手のギャップにいる味方へ正確なグラウンダーのショートパスを出せるだけの能力が現時点では不足していますし、岡崎・香川・久保・原口のFW4人は、どちらかと言えば自分がパスをもらってドリブルを仕掛けたりシュートしたいタイプの選手たちです。

結局ボールをキープしてある程度タメをつくって、そこから質の高いパスを出すという役割を担える選手が誰もいません。

だから前半25分すぎ以降、個でもチームとしてもボールをキープすることができず、ボランチから後ろで相手にボールを奪われてピンチを招きたくないので、タイにプレスをかけられると前方へ長いボールを蹴るしかなくなり、両サイドに張った久保・原口の両選手がマークされてそこで基点ができなくなると日本は攻め手をまったく失い、タイの猛攻にアップアップの状態になってしまったわけです。

いつも思うのですが、ハリル監督は代表各選手のプレースタイルや長所短所を正確に把握できていないので、彼の戦術は、隣り合ったポジションの選手同士でどう連携し、どう役割分担して、チームを機能させるかという思想が希薄ですね。

攻守にわたってチーム組織のレベルが低く、ただ11人の選手をピッチ上に並べて、あとは選手個々の能力で攻撃も守備も何とかしろという色合いが濃いです。

この試合も、久保選手から岡崎・香川両選手へのクロスだけが、得点につながった唯一の連携であって、タイにゲーム中に修正されてサイドで久保選手が基点をつくれなくなると、それすら機能しなくなってしまいました。


図2

                久保
           


      原口       香川       清武
               (倉田)      (浅野)


             山口   倉田   
                  (本田)


     長友     森重    吉田   酒井宏
            (昌子)

                川島


図2は、当研究所がタイ戦の前に推奨していた先発メンバーです。

(当ブログ過去記事・日本代表、UAEにリベンジ!(その3)

この11人を選んだ理由は、もちろん隣り合ったポジションの選手同士でどう連携し、どう役割分担して複数の戦術を使い分けながら、組織的に相手の守備を崩していくかを考えての事です。

右サイドハーフに清武選手を入れた理由は、ボールキープ力があって適度なタメがつくれ、パス能力も高いからです。セットプレーからの精度の高いキックも期待できます。

UAE戦では大迫選手のポストプレーで前線に基点をつくり、みんなが前を向いて攻め上がる時間をつくっていましたが、彼はタイ戦には出られません。

岡崎選手は、欧州四大リーグレベルのバックが相手だと大迫選手のようにはポストプレーが収まらなくなってしまいますから、今のところロシアW杯本大会を見据えて長期戦略で使える選択肢ではありません。

そこで足のシュートの正確性を買って久保選手のワントップとしましたが、彼も大迫選手ほどポストプレーが得意ではないでしょうから、センターFWにラストパスを供給する選手が必要となります。

その役目を果たすのが清武選手です。

ボランチの一角に倉田選手を入れたのも、UAE戦でボールをキープしながら前へ運び、大迫選手へ良いスルーパスを出せていたからで、山口・倉田・清武の三角形もしくはそこに香川選手が加わることで、チームとしてもボールをキープして、そこからゴールにつながるパスを出していけば、この試合のようにタイの猛攻に一杯一杯の苦しい展開にはならなかったはず。

(個人的にはヘーレンフェーンの小林祐選手を山口選手と組ませたかったのですが)

このスタメンであれば、カウンターサッカーに戦術を切り替えたい場合でも問題ありません。

しかし図1のようなシステムでは、個としてもチームとしてもボールがキープできませんし、複数の戦術を使い分けようにも、ほぼロングボールを使ったタテポンサッカーしかできない先発メンバーになっています。

そうした意味において、ハリル監督の選手起用法や戦術の引き出しの少なさに、強い不安を感じざるを得ません。

実際、後半12分に久保選手のゴールで3-0とした後も日本の戦いぶりがなかなか落ち着かなかったのですが、後半20分過ぎに本田選手を入れてからタイの猛攻が収まります。

本田選手を左ウイングに入れたのは適材適所だったとは決して思えませんが、少なくとも本田選手のところでボールキープができるようにはなりました。

サッカーではボールはピッチ上に1個しかありませんから、こちらがボールをキープしているかぎり、相手に攻められることはありません。

これによって日本は一息つけるようになり、後半30分すぎに清武選手が入ったことによってより一層こちらがボールを安定的にキープできるようになって、吉田選手のゴールでタイにトドメを刺せたわけです。

スタメンとして清武選手を中盤のどこかに入れておけば、こんな苦しい展開にはならなかったでしょうし、どんなに遅くとも、こちらがまったく攻め手を失ってアップアップだった前半30分すぎまでに、ボールがキープできる選手を入れるべきでした。

ハリル監督は、チームのどこに問題があるのか気づくのも、それに対して正しい解決策を見つけるのも、いつも遅いです。

この試合、ダブルボランチの一角として酒井高選手を起用したのですが、これも適材適所とは思えません。

ハンブルガーSVのギスドル監督のマネをしたのでしょうが、そもそも彼はサイドバックであって、パス能力を含めた純粋な攻撃的ボランチとして評価するなら、どう考えてもヘーレンフェーンの小林祐選手の方が上じゃないでしょうか。

長谷部選手をはじめボランチにケガ人が続出していて、当初バックアップメンバーとして小林選手が登録されていたはずですが、新たに高萩選手がケガをしたにもかかわらずハリル監督は誰も追加招集をせず、日本に帰ってきて今野選手の骨折がわかり、急場しのぎに酒井高選手を起用して、タイ相手に苦戦したわけですよね。

だーから、小林祐選手をUAE遠征からチームに帯同させるべきだと言ったのですが、どうしてこうなったのでしょうか。

(当ブログ過去記事・長谷部キャプテンが負傷離脱か?

ザッケローニ元監督は、どんなアクシデントがあるかわからないので、ケガ人が出たら必ずすぐさま追加招集をかけていたように思いますが、ハリル監督はリスクマネジメントもヘタクソですね。

 これまで何度も指摘しましたが、ハリル監督は、代表各選手の特徴、長所・短所、選手間の優劣を見抜く能力が低く、それゆえチームが機能するように選手を適材適所のポジションに配置することができていません。

どの選手をピッチに送り出すかを決める際に一番重要なのは、その選手の現時点における実力であり、将来どれくらい「伸びしろ」(潜在能力)があるかも重要です。

監督さんがその選手を手元に置いて、練習中のプレーを見れば、ちゃんとそれが見抜けるはずなんです。

しかしハリル監督は選手の実力を見抜く洞察力が不足しているため、選手起用の失敗が怖くて、直前に試合でプレーしている実績のある選手しか使えないのでしょう。

だから「経験が無い」「実戦勘がない」などと理由をつけて、W杯3次予選・開幕戦のUAEとのゲームに、一番実力のあるGKではなく二番手のGKを出して、ゴール前FKとPKから2失点して負けてみたり、「経験」で「スピードや体力の衰え」をカバーしきれなくなった選手をいつまでたっても機能しない左右のウイングに入れて、チームを不調に陥れているのです。

経験や過去の実績はあくまでも過去のものであって、それがあるからといってその選手が次の試合でも必ず成功できることを約束してくれるわけではありません。

確かに小林祐・倉田両選手は代表のボランチとして、清武選手は右サイドハーフとして経験がないかもしれませんが、タイ代表の攻撃力を考えたら守備で大穴が空くとは思えませんし、代表で経験が無いと言ってもエールディビジとJリーグとブンデスでプレーしてきた経験はあるでしょう。タイリーグとのレベルの差を考えても、そんなに使うのが怖いですかね?

「経験がないこと」を理由に、若い選手の起用を恐れていたら、いつまでたっても代表の選手層が厚くなりませんし、チームが使える戦術の幅も狭くなり、世代交代も停滞してしまいます。

いやUAEとの開幕ゲームに若い大島選手を起用したじゃないかという人がいるかもしれませんが、若い選手にチャンスを与えたのは正解だったとしても、その選手の適性に合わないポジションで起用したことが間違っています。

大島選手は体格が小さくて守備力がほとんどありません。その選手を守備的MFで使ったので、UAEの攻撃を防ぎきれず、2失点にからんでしまったのです。適材適所で使ってあげなければ大島選手がかわいそうです。

代表サポの一部に「日本の選手がヘタクソだから、誰が監督をやっても同じ」などと、大変自虐的なことを言う人がいるようですが、私はそうは思いません。

タイリーグのオールスターチームに対し、圧倒的に個の能力が高いブンデス・プレミア・ベルギーリーグのレギュラークラスを戦力として与えられているわけですから、どんな凡庸な監督でも勝って当たり前なんですよ。

この試合を4-0で勝てたのは、日本の選手がタイに比べて個の能力で勝っており、局面局面での一対一に勝てたからですが、個の能力で相手に上回っていなければ勝てないというようなサッカーでは、日本と個の能力で互角か、上の相手と試合をした場合、行き詰ってしまうことは火を見るより明らかです。

それではドイツやアルゼンチンなど世界の強国が出場するであろうW杯の本大会で、良い成績を残すことは難しいでしょう。

残念ながら選手個々の能力において日本よりも上回っているチームがW杯の出場国にはまだまだ多いという現状を踏まえて、私が日本代表監督に望むことは、そうしたハンデを克服できる優れた戦術を代表チームに授け、勝たせることができるような能力です。

「試合内容なんてどうだっていい、サッカーは勝てば良いんだよ、勝てば」とか「チームが勝ったら、ぜんぶ監督のおかげ」と考えているような方には、このゲームのどこが問題なのかサッパリ理解できないのではないかと思いますが、試合内容だけを見れば、タテポンサッカーで点が取れず、デュエルもパスサッカーでかわされて大苦戦した昨年9月のイラク戦のVTRを見ているかのようでした。

このような組織力の低い、個の能力頼みのサッカーでは、タイよりはるかに個の能力が高いイラクやオーストラリア・サウジとの対戦が不安で仕方ありません。

(当ブログ過去記事・日本代表、イラクに冷や汗の勝利

選手個々の評価は次回にします。



サッカー ブログランキングへ
↑いつもポチッと応援ありがとうございます。


当ブログ関連記事・2016年を振り返って



  

プロフィール

スパルタク

  • Author:スパルタク
  • FC2ブログへようこそ!

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク






   

ブログ内検索