■日本代表、不安の残る大勝劇(その2)

前回のつづき
 
 ハリルジャパンがたった一つの攻撃戦術しか使えず、タイにゲーム中に修正されると、とたんに攻撃が行き詰ってしまったという問題は非常に重要なので、もう少し続けさせてください。

サッカーというスポーツにおいて、たった一つのことしかできない選手あるいはチームというのは、そのたった一つの事を世界の誰も阻止できないというのでないかぎり、それ自体が弱点となります。

選手個々のレベルで言えば、左右どちらか一方の足でしかシュート・パス・ドリブルをすることができない選手、あるいはドリブルばっかりでパスができない選手、パスしかできずシュートを打てない選手、いつも相手バックのウラでパスを受ける動きしかできない選手のプレーを守備側の選手が予測し、対応することは容易です。

チームレベルで言えば、どんな状況でもカウンターサッカーしかできないチーム、逆にどんな状況でもポゼッションサッカーしかできないチーム、サイド攻撃しかできないチーム、逆に中央突破しかできないチームに対して、相手チームが対策を立てるのも容易です。

しかし左右どちらでもシュートできる選手、チャンスにシュートもアシストもできる選手、状況に応じてポゼッションサッカーとカウンターサッカーを使い分けることができるチームの出方を予測するのは困難ですし、たった一つの事しかできない相手と対戦するときよりも、対策を立てるのに倍以上の労力が必要となります。

だから選手レベルでもチームレベルでも「たった一つのことをワンパターンで繰り返す」ということ、それ自体が弱点となるのです。

このタイ戦におけるハリルジャパンもまさにそうでした。

タイの守備ブロックの両サイドにスペースが空いていて、右に大きく張った久保選手にサイドチェンジの長いボールが入って基点をつくり、そこからゴール前へクロスを入れて香川・岡崎両選手がゴールをゲットしたまでは良かったのですが、タイが日本の両ウイングをケアすることでそこへのパスが通らなくなると、ロングボールを使ったカウンターサッカーしかできないハリルジャパンはたちまち行き詰ってしまいました。

図1
間違い5
(クリックで拡大 以下同様)

図1の前半30分のプレーを見てください。

タイがゲーム中に修正してきたことで前半25分すぎから日本のカウンターサッカーがだんだんと行き詰っていくのですが、日本の攻撃がうまくいかない場合に典型的に見られる悪い形、4トップ・5トップになっています。

このゲームでは、ゴール前に4トップがベッタリ張りつくことはあまりなかったのですが、相手のバックラインと横一直線に並ぶという、バイタルエリアでの攻めに深みをつくれない非常に悪いポジショニングを取った4トップが、ロングボールを要求しながら一斉にウラのスペースへ走りこもうとするケースがしばしばありました。

そこでバックやボランチがロングボールを入れるのですが、マークされている両ウイングには通らず攻め手を失っていきます。

ならばとグラウンダーのパスを出そうとするのですが、4-2-4みたいな形になっているので日本の中盤に人がおらず、パスの受け手のポジショニングが悪いので、無理にパスを通そうとして直前にいるタイの選手にボールをぶつけてしまい、何度もタイの逆襲を浴びてしまうことに。

しかし相手が両サイドをケアしているということは、ピッチ中央にスペースができるわけで、図1を見ればそれが明らかです。皆さんはスペースを見つけられましたか?

バックやボランチがボールを持ったタイミングで、周囲の選手がグラウンダーでパスを受けられる正しいポジションを取ることによって、ピッチ中央のスペースを上手く使ったパスサッカーに戦術を切り替えて攻めることができれば、これほど苦戦することはなかったはずです。

図2
間違い6

図1と同じ場面ですが、ピッチ中央に広いスペース(図のA)ができています。このスペースを日本の選手たちに早く気づいて欲しいのです。

例えば山口もしくは香川選手のどちらかがAで酒井高選手からパスをもらって前を向き、バイタルエリア(赤のエリア)に侵入した原口もしくは岡崎選手にパスをすれば、そこでラストパスを出すための基点ができますし、Aでパスをもらった香川選手がドリブルして相手バックを引きつけてから、ウラヘ抜ける久保選手にスルーパスを出すという選択肢もあります。

図2を見ればわかるように、ダブルボランチとトップ下でつくる三角形の距離が遠すぎます。

まだボランチの酒井高選手がボールを持っているこのタイミングでは、トップ下の香川選手が酒井高選手をサポートするためにもっと近く(Aのあたり)まで寄って行き、山口選手とともに三角形をつくってパスを回すようにすれば、もっと楽にチームでボールをキープして攻めることができるようになるでしょう。

Aにポジショニングした香川選手に相手がマークに行ったとしても、その分どこかに別のスペースができるはずで、そのスペースをすばやく見つけて山口選手らが使い、パスをもらえば良いのです。そうやって効果的に動くことで初めて相手の守備を崩すことができます。

この瞬間、相手4バックの前のスペースには十分すぎる数の味方がいますので、トップ下まで同じスペースに侵入する必要はありません。

香川選手は相手4バックの前のスペースへ侵入するタイミングが少しづつ早く、ダブルボランチと距離が離れすぎている時間が長いことも、中盤で上手くパスが回らない一つの原因です。

もし相手に攻められる苦しい時間帯が続くようであれば、ボールを奪い返した後、ダブルボランチとトップ下の三角形を中心にチームでボールをキープするようにすれば、味方に一息つけさせることができるようになります。

アウェーのUAE戦では、ロングボールをワントップの大迫選手に当て、彼のポストプレーで前線に基点をつくっている間に、みんなが押し上げる時間をつくるというカウンターサッカーに頼りすぎていると警告しました。

普段ロングボールを使ったカウンタサッカーばかりやっていると、高いポジショニング能力や選手どうしの連動性が要求されるパスサッカーにいきなり切り替えようとしても困難だというのは、当研究所で口を酸っぱくしていってきたのですが、このタイ戦もまたそんな感じでした。

(当ブログ過去記事・二手三手先を考えてサッカーをするということ(その2)

ハリルホジッチ監督を招聘した霜田さんは、「戦術を使い分ければ良い」などと簡単に言うのですが、カウンターサッカーしか戦術の引き出しがないハリル監督は、そもそも使い分けができていません。

霜田さんを中心とする日本サッカー協会の技術委員会が「ブラジルでザックジャパンが負けたのはポゼッションサッカーのせい」という間違った分析をし、ポゼッション(パス)サッカーを毛嫌いして、カウンターサッカーしか戦術の引き出しが無いハリル監督を招聘したツケがこのタイ戦でも表面化しているように思います。

ボールをキープして質の高いパスを出せる選手を中盤に入れない監督さんの選手起用法も大いに疑問です。

 つづいて守備戦術の問題点を見ていきます。

図3
間違い2


図3を見てください。やはり日本がうまくゲームを進められなくなり始めた前半25分ごろのプレーです。

4-2-3-1(4-2-1-3)のフォーメーションで、DF4人・MF4人のコンパクトな守備ブロックをつくり、自分たちが守るべきスペースを限定してゾーンで守るためには、原口・久保の左右ウイングがAのポジションを取らなくてはいけません。

ところが人をつかまえるハリル監督の戦術のせいか、左右ウイングが自分とマッチアップしている相手のサイドバックに引きずられて、4-2-4みたいな陣形になってしまっています。

そのため、久保選手の背後に広大なスペース(赤いエリア)ができています。

図4
間違い3

そのスペースへタイのバックからグラウンダーのパスが出て、左サイドハーフのシロクが受けに来ます。彼とマッチアップしている酒井宏選手が“デュエル”に行きますが、ピーラパットがオーバーラップをかけ、サイドで1対2の数的不利をつくられる
1秒前。


図5
間違い4


ボールを受けたシロクに前を向かれてしまい、ピーラパットにパスが出ます。日本の右サイドを崩されてこちらのバックが相手と
3対3のピンチに。

幸い、シロクのパス精度が低く、ボールを受けたピーラパットがもたついている間に戻ってきた山口選手が応対して事なきを得ましたが、個の能力がもっと高い相手だと失点する確率が高いと思います。

ハリル監督の守備戦術デュエルは、人をつかまえることに重きを置いているので、この場面に限らず、相手の動き方によって両サイドあるいはピッチの中央とあちこちに広いスペースができており、そこにいる敵選手にパスが入ると、日本の選手がプレスをかけに行っても間に合わないというシーンがしばしば見られます。

ヨーロッパ四大リーグなどでゾーンディフェンスを見慣れた私にとって、こういう守備戦術はすごく気持ち悪いですし、実際この試合でもタイのパスサッカーにプレスがハマらず、なかなかボールを奪い返すことができずに苦戦を招いていました。

昨年11月のオーストラリア戦で非常に上手くいった、コンパクトな守備ブロックをつくってブロック内で相手が使えるスペースを限定し、そこから約束事に従ってプレスをかけていった方が良いと思うのですが、タイよりも個の能力が高い相手にこの戦術では不安を感じます。

 思いのほか記事が長くなってしまいました。タイ戦における選手個々の評価は次回にしましょう。

次回につづく



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