■日本代表、不安の残る大勝劇

 28日にロシアW杯アジア3次予選の日本対タイ戦が埼玉スタジアムで行われ、日本が4-0で勝利しました。

今回の対戦相手、タイ代表は全員が国内リーグでプレーしています。日本がホームでもアウェーでも勝たなければいけない実力の相手と見ていましたが、4-0で勝利という結果は良かったものの、試合内容は今後に大きな不安を残すものでした。

私も、1990年代からW杯予選やアジアカップでタイとのゲームは何度も見ていますが、相手にこれほど危険なシュートを打たれまくった試合は、ちょっと記憶にありません。

それではいつものように試合内容を詳しく分析していきます。

          ☆        ☆        ☆

 まず日本代表のゲーム全体の進め方がどうだったか見ていきます。

タイのキャティサック監督が「我々が失うものは何もない」と言っていた通り、引いて守るのではなくバックラインを高く上げて前からプレスをかけ、自分たちの実力が日本にどれだけ通用するか真っ向勝負を挑んできました。

しかし、タイはボールを奪われた瞬間のトランジション(攻守の切り替え)が遅い上に、高く上げたタイの守備ブロックはバックの後ろと両サイドにどうしてもスペースが空くので、日本のFWが両サイドを広く使って、そこへロングボールを使ったサイドチェンジのパスを入れることで揺さぶられると、とたんにタイの守備組織が不安定になります。

右サイドで基点をつくった久保選手から正確なクロスがゴール前に入って、香川・岡崎両選手がゴールをあげたところまでは良かったのですが、その後が大問題。

さすがにタイも修正してきて、サイドに張った久保選手へのロングボールが通らなくなると、前半25分ごろから日本は攻撃手段を失ってしまい、逆にパスサッカーで攻めてきたタイにゲームの主導権を握られます。

自分たちが守るべきゾーンを限定するよりも人をつかまえることに重きを置いた、ハリルホジッチ監督の守備戦術である“デュエル”は、タイの速いパス回しにかわされてしまって、なかなかボールを奪い返すことができず、タイから危険なシュートを雨あられと浴びせられることになります。

こうした不安定な状態は後半10分すぎまでハーフタイムをはさんで30分間ほど続きましたが、川島選手のビッグセーブ連発で何とかしのぐという苦しい展開。

サッカーでは「2点差は一番危険なリード」と良く言われますが、もしこの不安定な時間帯に1点でも許していたら自信とモチベーションが倍増したタイの勢いを止められず、2-2あるいは2-3とゲームをひっくり返されていたかもしれません。

どうしてこんなことになってしまったかと言えば、状況に応じた戦術の使い分けができなかったから。

両サイドをケアされてロングボールを使ったカウンターが封じられたということは、逆にピッチの中央が空いてくるはずです。

そこで選手たちが自分の頭で状況判断し、タイの守備ブロックの中でショートパスを使ったポゼッションサッカーで相手を崩すという戦術に転換できれば困難な状況を打開できたはずですが、それができませんでした。

前半25分すぎからタイがやったようなショートパスを使った攻撃を、本来なら日本の方がやりたかったのです。

しかしそれを求めるのは選手たちにとって酷というものかもしれません。

なぜならハリル監督が、中盤でボールをキープしたりパスを出したりすることが得意な選手を先発メンバーとして送り出さなかったからです。

この試合の日本はこんなフォーメーションでした。


図1


                 岡崎
             香川 (FW)           
      原口    (FW)          久保
     (FW)                 (FW)
 

            酒井高   山口  
            (DF)    (DM)   


     長友     森重    吉田   酒井宏
     (DF)    (DF)    (DF)   (DF)


                川島



4-2-3-1とはいうものの、各選手のプレースタイルと役割分担、さらにピッチのどこに誰が長い時間いたかという実質的な面から見れば、DF4人に守備的なMF2人、FW4人の4-2-4みたいな形。しかもボランチの片方の本職はサイドバックです。

酒井高・山口のダブルボランチでは、相手選手のギャップにいる味方へ正確なグラウンダーのショートパスを出せるだけの能力が現時点では不足していますし、岡崎・香川・久保・原口のFW4人は、どちらかと言えば自分がパスをもらってドリブルを仕掛けたりシュートしたいタイプの選手たちです。

結局ボールをキープしてある程度タメをつくって、そこから質の高いパスを出すという役割を担える選手が誰もいません。

だから前半25分すぎ以降、個でもチームとしてもボールをキープすることができず、ボランチから後ろで相手にボールを奪われてピンチを招きたくないので、タイにプレスをかけられると前方へ長いボールを蹴るしかなくなり、両サイドに張った久保・原口の両選手がマークされてそこで基点ができなくなると日本は攻め手をまったく失い、タイの猛攻にアップアップの状態になってしまったわけです。

いつも思うのですが、ハリル監督は代表各選手のプレースタイルや長所短所を正確に把握できていないので、彼の戦術は、隣り合ったポジションの選手同士でどう連携し、どう役割分担して、チームを機能させるかという思想が希薄ですね。

攻守にわたってチーム組織のレベルが低く、ただ11人の選手をピッチ上に並べて、あとは選手個々の能力で攻撃も守備も何とかしろという色合いが濃いです。

この試合も、久保選手から岡崎・香川両選手へのクロスだけが、得点につながった唯一の連携であって、タイにゲーム中に修正されてサイドで久保選手が基点をつくれなくなると、それすら機能しなくなってしまいました。


図2

                久保
           


      原口       香川       清武
               (倉田)      (浅野)


             山口   倉田   
                  (本田)


     長友     森重    吉田   酒井宏
            (昌子)

                川島


図2は、当研究所がタイ戦の前に推奨していた先発メンバーです。

(当ブログ過去記事・日本代表、UAEにリベンジ!(その3)

この11人を選んだ理由は、もちろん隣り合ったポジションの選手同士でどう連携し、どう役割分担して複数の戦術を使い分けながら、組織的に相手の守備を崩していくかを考えての事です。

右サイドハーフに清武選手を入れた理由は、ボールキープ力があって適度なタメがつくれ、パス能力も高いからです。セットプレーからの精度の高いキックも期待できます。

UAE戦では大迫選手のポストプレーで前線に基点をつくり、みんなが前を向いて攻め上がる時間をつくっていましたが、彼はタイ戦には出られません。

岡崎選手は、欧州四大リーグレベルのバックが相手だと大迫選手のようにはポストプレーが収まらなくなってしまいますから、今のところロシアW杯本大会を見据えて長期戦略で使える選択肢ではありません。

そこで足のシュートの正確性を買って久保選手のワントップとしましたが、彼も大迫選手ほどポストプレーが得意ではないでしょうから、センターFWにラストパスを供給する選手が必要となります。

その役目を果たすのが清武選手です。

ボランチの一角に倉田選手を入れたのも、UAE戦でボールをキープしながら前へ運び、大迫選手へ良いスルーパスを出せていたからで、山口・倉田・清武の三角形もしくはそこに香川選手が加わることで、チームとしてもボールをキープして、そこからゴールにつながるパスを出していけば、この試合のようにタイの猛攻に一杯一杯の苦しい展開にはならなかったはず。

(個人的にはヘーレンフェーンの小林祐選手を山口選手と組ませたかったのですが)

このスタメンであれば、カウンターサッカーに戦術を切り替えたい場合でも問題ありません。

しかし図1のようなシステムでは、個としてもチームとしてもボールがキープできませんし、複数の戦術を使い分けようにも、ほぼロングボールを使ったタテポンサッカーしかできない先発メンバーになっています。

そうした意味において、ハリル監督の選手起用法や戦術の引き出しの少なさに、強い不安を感じざるを得ません。

実際、後半12分に久保選手のゴールで3-0とした後も日本の戦いぶりがなかなか落ち着かなかったのですが、後半20分過ぎに本田選手を入れてからタイの猛攻が収まります。

本田選手を左ウイングに入れたのは適材適所だったとは決して思えませんが、少なくとも本田選手のところでボールキープができるようにはなりました。

サッカーではボールはピッチ上に1個しかありませんから、こちらがボールをキープしているかぎり、相手に攻められることはありません。

これによって日本は一息つけるようになり、後半30分すぎに清武選手が入ったことによってより一層こちらがボールを安定的にキープできるようになって、吉田選手のゴールでタイにトドメを刺せたわけです。

スタメンとして清武選手を中盤のどこかに入れておけば、こんな苦しい展開にはならなかったでしょうし、どんなに遅くとも、こちらがまったく攻め手を失ってアップアップだった前半30分すぎまでに、ボールがキープできる選手を入れるべきでした。

ハリル監督は、チームのどこに問題があるのか気づくのも、それに対して正しい解決策を見つけるのも、いつも遅いです。

この試合、ダブルボランチの一角として酒井高選手を起用したのですが、これも適材適所とは思えません。

ハンブルガーSVのギスドル監督のマネをしたのでしょうが、そもそも彼はサイドバックであって、パス能力を含めた純粋な攻撃的ボランチとして評価するなら、どう考えてもヘーレンフェーンの小林祐選手の方が上じゃないでしょうか。

長谷部選手をはじめボランチにケガ人が続出していて、当初バックアップメンバーとして小林選手が登録されていたはずですが、新たに高萩選手がケガをしたにもかかわらずハリル監督は誰も追加招集をせず、日本に帰ってきて今野選手の骨折がわかり、急場しのぎに酒井高選手を起用して、タイ相手に苦戦したわけですよね。

だーから、小林祐選手をUAE遠征からチームに帯同させるべきだと言ったのですが、どうしてこうなったのでしょうか。

(当ブログ過去記事・長谷部キャプテンが負傷離脱か?

ザッケローニ元監督は、どんなアクシデントがあるかわからないので、ケガ人が出たら必ずすぐさま追加招集をかけていたように思いますが、ハリル監督はリスクマネジメントもヘタクソですね。

 これまで何度も指摘しましたが、ハリル監督は、代表各選手の特徴、長所・短所、選手間の優劣を見抜く能力が低く、それゆえチームが機能するように選手を適材適所のポジションに配置することができていません。

どの選手をピッチに送り出すかを決める際に一番重要なのは、その選手の現時点における実力であり、将来どれくらい「伸びしろ」(潜在能力)があるかも重要です。

監督さんがその選手を手元に置いて、練習中のプレーを見れば、ちゃんとそれが見抜けるはずなんです。

しかしハリル監督は選手の実力を見抜く洞察力が不足しているため、選手起用の失敗が怖くて、直前に試合でプレーしている実績のある選手しか使えないのでしょう。

だから「経験が無い」「実戦勘がない」などと理由をつけて、W杯3次予選・開幕戦のUAEとのゲームに、一番実力のあるGKではなく二番手のGKを出して、ゴール前FKとPKから2失点して負けてみたり、「経験」で「スピードや体力の衰え」をカバーしきれなくなった選手をいつまでたっても機能しない左右のウイングに入れて、チームを不調に陥れているのです。

経験や過去の実績はあくまでも過去のものであって、それがあるからといってその選手が次の試合でも必ず成功できることを約束してくれるわけではありません。

確かに小林祐・倉田両選手は代表のボランチとして、清武選手は右サイドハーフとして経験がないかもしれませんが、タイ代表の攻撃力を考えたら守備で大穴が空くとは思えませんし、代表で経験が無いと言ってもエールディビジとJリーグとブンデスでプレーしてきた経験はあるでしょう。タイリーグとのレベルの差を考えても、そんなに使うのが怖いですかね?

「経験がないこと」を理由に、若い選手の起用を恐れていたら、いつまでたっても代表の選手層が厚くなりませんし、チームが使える戦術の幅も狭くなり、世代交代も停滞してしまいます。

いやUAEとの開幕ゲームに若い大島選手を起用したじゃないかという人がいるかもしれませんが、若い選手にチャンスを与えたのは正解だったとしても、その選手の適性に合わないポジションで起用したことが間違っています。

大島選手は体格が小さくて守備力がほとんどありません。その選手を守備的MFで使ったので、UAEの攻撃を防ぎきれず、2失点にからんでしまったのです。適材適所で使ってあげなければ大島選手がかわいそうです。

代表サポの一部に「日本の選手がヘタクソだから、誰が監督をやっても同じ」などと、大変自虐的なことを言う人がいるようですが、私はそうは思いません。

タイリーグのオールスターチームに対し、圧倒的に個の能力が高いブンデス・プレミア・ベルギーリーグのレギュラークラスを戦力として与えられているわけですから、どんな凡庸な監督でも勝って当たり前なんですよ。

この試合を4-0で勝てたのは、日本の選手がタイに比べて個の能力で勝っており、局面局面での一対一に勝てたからですが、個の能力で相手に上回っていなければ勝てないというようなサッカーでは、日本と個の能力で互角か、上の相手と試合をした場合、行き詰ってしまうことは火を見るより明らかです。

それではドイツやアルゼンチンなど世界の強国が出場するであろうW杯の本大会で、良い成績を残すことは難しいでしょう。

残念ながら選手個々の能力において日本よりも上回っているチームがW杯の出場国にはまだまだ多いという現状を踏まえて、私が日本代表監督に望むことは、そうしたハンデを克服できる優れた戦術を代表チームに授け、勝たせることができるような能力です。

「試合内容なんてどうだっていい、サッカーは勝てば良いんだよ、勝てば」とか「チームが勝ったら、ぜんぶ監督のおかげ」と考えているような方には、このゲームのどこが問題なのかサッパリ理解できないのではないかと思いますが、試合内容だけを見れば、タテポンサッカーで点が取れず、デュエルもパスサッカーでかわされて大苦戦した昨年9月のイラク戦のVTRを見ているかのようでした。

このような組織力の低い、個の能力頼みのサッカーでは、タイよりはるかに個の能力が高いイラクやオーストラリア・サウジとの対戦が不安で仕方ありません。

(当ブログ過去記事・日本代表、イラクに冷や汗の勝利

選手個々の評価は次回にします。



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