■サッカーで強くなるために一番重要なこと

 ハリルホジッチ監督が招聘されたとき、ザックジャパンのときよりも日本代表を強くしてほしい、少なくともザックジャパンの実力を土台にして、そこからチームの競争力を着実に上積みしていって欲しいと多くのサポーターが願ったはずです。もちろん私もその1人。

ところがハリルジャパンになってW杯アジア予選をすでに12試合戦ったわけですが、ザックジャパン時代より強くなったようには見えません。

W杯のアジア最終予選に限ってみても、攻撃的なポゼッションサッカーをかかげたザックジャパンは5勝2分1敗、8試合で総得点16・失点5という数字が残っていますが、「堅守速攻」のはずのハリルジャパンは最終予選4試合でもう既に4失点もしています。

ザックジャパン時代とは対戦相手が違いますし、UAE戦では相手に疑惑のゴールもありましたから単純に比較はできませんが、それを割り引いても日本代表のゲーム内容はザックジャパン時代から確実に落ちてしまったように見えます。

特に10月6日に埼玉スタジアムで行われたイラク戦における
日本代表の試合内容に、悪い意味で私は大きな衝撃を受けました。

組織的なゾーンディフェンスがまったくできないどころか、最終ラインでこちらのバックが相手選手とハイボールをヘディングで競っているとき、残りのバックはそれをボーッとみているだけで、チャレンジ&カバーの基本であるコペルトゥーラの隊形さえつくることができていません。

ベテランを中心としたハリルジャパンの主力メンバーは、ザックジャパン時代に相手ボールホルダーの位置によって体の向きをどう変えるかまで細かく指導を受けながら、コンパクトな守備ブロックをつくってゾーンディフェンスで守るやり方をみっちりと練習したはずですし、2013年8月にウルグアイとテストマッチをやったとき、日本のバックが相手のロングボールに一発でやられてスアレスやフォルランにゴールを次々と許してしまったので、ザッケローニ監督からコペルトゥーラをつくってチャレンジ&カバーをするやり方もちゃんと習ったはずなのに、たった2年でプロのサッカー選手が守備戦術を基本からキレイサッパリと忘れてしまっていたのには、本当に驚かされました。

どうしてこうなってしまったのでしょうか?

考えられる一つの原因は「研究万能主義」です。

日本サッカー界では、対戦相手を研究することが非常に重要視されており、その研究結果をもとに、次の試合で対戦する相手に応じた対策が立てられ、それを各選手に覚えさせて試合に臨むというプロセスが繰り返される傾向がとても強いように思います。

対戦相手を研究して対策を立てておくことが何よりも重要で、それさえやっておけば試合に勝てるという「研究万能主義」の裏返しとして、対戦相手の情報を入手できなかったり、相手に自分たちが研究されることを日本のサッカーチームは異常に恐れる傾向にもあるようです。

そのような研究万能主義には、大きな落とし穴があります。

図1
ムダ!
(クリックで拡大 以下同様)

図1のように、試合をやるたびに対戦相手を研究し、それに応じた対策を立てて試合に臨み、その試合が終わると次の対戦相手を研究して別の対策を立てるというプロセスを繰り返していると、ある試合のために準備された対策はその試合が終わったとたんにゆっくりと忘れられていき、選手個人としてもチームとしてもサッカーの実力がなかなか上積みされていかないという問題です。

例えば、UAEを研究して対策Aが立てられ、試合が終わると今度はタイを研究して対策Bが立てられて代表選手はそれを覚える代わりに、対策Aはだんだんと忘れ去られる。タイとの試合が終わると今度はイラクを研究して対策Cが立てられて選手が覚えさせられる代わりに対策Bは忘れられていく。

日本代表にしろJリーグの各クラブにしろ、日本サッカー界はこうしたプロセスの繰り返しなんじゃないでしょうか。

だから、ハリルジャパンになって「デュエル」とか「縦に速いサッカー」という「対策B」が立てられた結果、ザックジャパン時代に選手たちが必死に覚えたコペルトゥーラもゾーンディフェンスのやり方も、「もう覚えておく必要がなくなった対策A」として忘れ去られてしまったのではないかと思います。

ブラジルW杯後に「ザックジャパン負けたのはポゼッションサッカーのせいだ」という、ポゼッションサッカー悪玉論を主張する人たちが日本サッカー界にかなりいましたが、そういう人たちも、ポゼッションサッカーという「対策A」が失敗したのだから、対策Aのことはキレイサッパリ忘れて、次のW杯に備えてカウンターサッカーという「対策B」を代表選手たちに覚えさせろという考え方なのかもしれません。

 もちろん対戦相手を研究して相手に応じた対策を立てることは大事だとは思いますが、相手を研究しさえすれば絶対に勝てるというものではありませんし、それさえやっておけばW杯でドイツやアルゼンチンにも必ず勝てるというのであれば、世界のどのチームだって苦労はしません。

「研究万能主義」におちいってしまったチームのように、1試合ごとに対処療法的に、その場しのぎの対策を立てては忘れ、対策を立てては忘れというプロセスを繰り返すよりも、サッカーの試合に勝つために必要な基礎や応用力を日本のすべてのサッカー選手に、せめてユース年代を卒業する年齢までには確実に身につけさせることの方がよほど大事だというのが当研究所の考え方です。

図2
基礎が大切

図2は当研究所が考える、サッカーに勝つために選手が身につけておくべき能力です。

サッカー選手に必要とされる一番の基礎となるものは、ボールを自由に扱う技術(自分の意図通りにボールを蹴る・止める・ドリブルする・ヘディングする・フェイントをかける)・身体能力(瞬発的なスピード・アジリティ・ジャンプ力・持久力)・コンタクトスキル(相手とコンタクトして自分のボールを守るあるいは敵から奪う能力)の3つです。

当研究所は普段、足元の技術の話はほとんどしませんが、それを軽視しているわけではありません。

自分の思い通りにボールを蹴る・止める・ドリブルするということができない人は、戦術うんぬん以前の話であって、それは個人練習でもかなりの部分でスキルをあげることはできますし、それぞれでちゃんと練習しておいてくださいね、それができない選手は代表チームにはまったくお呼びではありませんということです。

そうした基礎をしっかりマスターした上で、個人戦術や2~4人の少人数グループの戦術というワンランク上の基礎を覚えます。

個人戦術で言えば、味方からパスを受ける時は出来るだけ半身で受けたり、自分の前に立ちはだかる敵選手がいない限り相手ゴールに向かって最短距離をドリブルする、守備では、相手ボールホルダーと自分が守るべきゴールとの線上に立ち片足を前に出して半身で構えるというところから始って、少人数グループの戦術ではパスをつないで攻撃する時は必ず三角形をつくり、守備のときも相手のボール保持者にチャレンジする味方をカバーするために残りの2人でトライアングルをつくって守る(コペルトゥーラ)ということを、どんな試合でも忘れずに必ず実行できるようにしておきます。

その次のステップが、11人の選手によるチーム戦術の習熟です。

コンパクトな守備ブロックをつくってゾーンディフェンスで守ったり、最近セットプレー時以外ほとんど見かけませんがマンマークで守ったり、攻撃ではパス(ポゼッション)サッカー、あるいはカウンターサッカーでゴールを狙ったりと、チームが意図した結果(勝利あるいは引き分け)を出せるように11人の選手が1つのチームとして統一された戦術のもとで戦うことができるようにならなければなりません。

そして最後は応用力です。

前述の3つのレベルの基礎を土台として、それに日本人選手の特徴やストロングポイントを生かして戦うような独創性をプラスしたり、例えば事前のスカウティングで相手がポゼッションで来ると思ったのにカウンターサッカーで来たので、当初のゲームプランを変更してこちらがポゼッションサッカーで自陣に引いた相手の守備ブロックを崩してゴールを奪うみたいに、選手たちが自分たちの判断でピッチ内の状況に応じて柔軟に対応し試合に勝つことができるような応用力を身につけさせます。

図2のピラミッドで示されたサッカー選手に求められる基礎から応用力までを日本人選手がしっかり身につけ、その選手が現役でプレーし続けるかぎり絶対に忘れることなくちゃんと実践できていれば、対戦相手の情報があろうがなかろうが、試合の相手がドイツだろうがアルゼンチンだろうがオーストラリアだろうがUAEだろうが勝てるはずです。

サッカーの基礎から応用までが確実に身についていれば、仮に日本代表選手全員が欧州でプレーしていて、W杯の予選の数日前にしか日本へ帰国できなくても、時間がないと言って大あわてしなくて済むはずなんです。

ただでさえ時間が限られているのに、長時間ミーティングをやって選手1人ひとりに対戦相手に応じたこまごまとした対策をいちいち覚えさせて、その試合が終わってしまえば忘れてしまうというプロセスを繰り返すのは壮大なムダです。

そうではなくて、試合の2~3日前に集合した選手に向って監督が、「今度のイラク戦は勝利が必要だ。しかし相手のカウンター攻撃にスキを与えないためにもコンパクトな守備ブロックをつくってゾーンで守る。DFラインはノーマルに設定しろ。 攻撃戦術は基本的にはパスサッカーで行くが、押し込まれているときに上手くボールが奪えたらコレクティブカウンターを狙え」とか、

「オーストラリアとのアウエー戦はできれば勝ちたいが最悪でも勝ち点1が欲しい。コンパクトな守備ブロックをつくってゾーンで守るのは同じだがDFラインをやや引き気味にさせられるかもしれないから覚悟しておけ。ただし下がりすぎるな。攻撃はコレクティブカウンターからゴールを狙うことになるだろうが、相手に先制されて引かれたらポゼッションサッカーで落ち着いて攻撃し同点に追いつけるように努力しろ」と指示すれば、

代表選手23人が同じピクチャーを頭の中に描いてすぐにでも試合に臨むことができ、W杯予選前の貴重な時間を対戦相手に応じた特別な練習や以前やった戦術を選手たちがちゃんと覚えているかどうか再確認するために使うことができるのです。

さらに欧州四大リーグで高いレベルのサッカーを経験した選手たちが引退後に指導者になることで、その選手が持つ高い基礎力・応用力が日本の子供たちに受け継がれ、日本サッカーの競争力を着実に積み上げていくことができます。

そうした地道な積み重ねを何年も繰り返して初めて、日本代表のW杯優勝が現実的な目標として見えてくるのではないかと思うのですが、ハリルジャパンはザックジャパン時代からサッカーの実力を上積みしているようには見えません。

むしろ今まで出来ていたことさえできなくなってしまっていて、それがW杯予選で思うような成績につながっていない原因なのではないでしょうか。

日本サッカー協会の田嶋会長は「育成日本の復活」を掲げていますが、それは正しいと思います。

しかしながら対戦相手を研究してつくった、その場しのぎの対策を試合のたびに選手に丸暗記させ、一夜漬けの勉強よろしく試験(試合)が終わったらすっかり忘れてしまうということを繰り返していたのでは、日本サッカーに本当の意味での実力をつけさせることはできません。

図2で示したサッカー選手に求められる基礎から応用力までのピラミッドを、すべての日本のサッカー選手がユース年代を卒業するまでに確実に身につけることの方が重要だと当研究所は考えています。

 最後に付け加えれば、「W杯の予選は内容よりも結果」とか「泥臭いサッカーをしても試合に勝つ」みたいなコメントを日本のサッカー選手からしばしば聞くのですが、強い違和感を覚えます。

彼らの言う「試合内容」や「泥臭いサッカー」が具体的に何を指しているかわかりませんが、図2のピラミッドで示した「サッカーで勝つために必要な基礎から応用」を、あるチームなり選手なりがどれくらい試合中に実行できているか、これが当研究所が考える「試合内容」であり、これは「勝利という結果」を得るために欠かせないサッカー選手の実力の裏付けとなるものであって、「勝利という結果」を得ることと引き換えに捨てるべきものでは絶対にありません。

ボールを自分の思ったとおり蹴る・止めるというところから始って、コンパクトな守備ブロックによるゾーンディフェンスで失点をゼロに抑えたり、相手の守備ブロックをかいくぐってDFラインのウラヘ味方とボールを確実に送り込んでゴールするために、11人の選手が連動した組織的なサッカーをするのは何よりも勝利という結果を得るためであって、サッカーで勝つために必要な基礎から応用力までをしっかりと身につけている集団こそが、真に実力のある強いチームなのです。

現代サッカーの戦術も、どうしたら効率よく試合に勝てるかをイングランド・ブラジル・オランダ・イタリア・スペインのようなサッカー先進国の人々が、150年近くかけて試行錯誤した結果生み出されたものであって、それに逆行するようなサッカーをしてしまえば、そのチームは退化することになり、勝利から遠ざかってしまう可能性が高いです。(既存戦術の常識を覆すような意図があるなら別ですが)

今から140年ほど前の近代サッカーの母国イングランドでは、今風に言えば、1-2-7のようなシステムでサッカーが行われていたそうです。つまり7トップです。

それから10年後に2-3-5の逆ピラミッドが生まれ、さらにその50年後3-2-2-3のWMシステムが誕生します。これでFWが3人にまで減りました。

第二次大戦後ブラジルとハンガリーで4-2-4が発明されますが、そこから4-3-3や4-4-2・3-5-2へと進化していってFWが2人になり、2000年代には4-2-3-1が考案されてとうとうFWはたった1人に。ついにメッシやトッティによるゼロトップが登場するわけですが、サッカー戦術の進化の歴史は、FWの数がどんどん減ってきた歴史とも言い換えることができます。

なぜなら、ゴール前にたくさんのFWがベッタリ張りついていると、攻撃のためのスペースがなくなり逆に得点しづらくなるからで、あえてゴール前のスペースを広く空けておいた方が点が取れるというのは、1-2-7からスタートして4-2-3-1からゼロトップに行きついたサッカー戦術の進化の歴史が、それを証明しているのです。

ところがロシアW杯アジア予選のシンガポール戦やUEA戦が典型的なんですが、日本代表はゴールが欲しくて欲しくてたまらないときに、4トップ5トップみたいな形になってゴール前にベッタリと張りつき、そこへひたすらサイドからクロスを放り込むサッカーをやってしまいます。(図3)

バランスが悪い


これが日本代表選手たちが言うところの「内容よりも結果」のサッカー、「泥臭いサッカー」なのだとすれば、サッカー戦術の進化の歴史に逆行していますし、事実W杯には絶対に出てこないレベルのシンガポールに引き分け、UAEには負けと、肝心の結果がまったくついて来ていません。

日本のサッカー選手がしばしば口にする「W杯の予選は内容よりも結果」というコメントは、まるで「サッカーがヘタクソであればあるほど、勝利という結果がついてくる」と言っているように聞こえ、強い違和感を覚えずにはいられません。

 大切なことなのでもう一度繰り返しますが、日本のサッカーが世界で勝つために一番重要なのは、「対策」と称した1試合かぎりの対処療法を覚えては忘れ、覚えては忘れを繰り返すことではなく、ユース年代を卒業するまでにすべての日本人選手が、サッカーの基礎から応用までを高いレベルでしっかりと身につけることです。

それができていれば、対戦相手がどこだろうと、刻々と変化するピッチ内の状況に応じて選手たちが自分の頭で考えて最善のプレーを選択し、高い確率で勝利という結果を得られるはずです。

選手たちがサッカーの基礎から応用までを高いレベルで実践できているゲームこそ「良い内容の試合」であって、サッカーの基礎や応用(=試合内容)を犠牲にすれば、勝利という結果がついてくると信じている選手がこの日本にいるのであれば、それは大きな、大きな誤解です。




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