■日本代表、オーストラリアと勝ち点1を分ける(その3)

前回のつづき

 それではまとめです。

日本代表がこの試合の前半戦で見せてくれた攻守にレベルの高いサッカーをこれからも絶対に続けていくべきです。
というか、ロシアW杯へ行きたいなら絶対に続けないといけません。

センターFWが意図的にゴールから遠ざかることで自分をマークするバックを引きつけ、それによってDFラインのウラのスペースを広く保っておき、ゾーンで守るコンパクトな守備ブロックから組織的にプレスをかけてボールを奪い返したら、自軍ゴールへ向かって走りながら後退する相手を攻め、あえて空けておいたバイタルエリアに侵入した味方にボールを受けさせてラストパスを出す基点をつくり、最後はDFラインのウラヘ抜ける味方へスルーパスを出してゴールを決めさせる。

これこそユーロ(欧州選手権)のようなハイレベルな大会で見られる世界最先端のパスサッカーです。

当研究所が日本代表にやって欲しい「パスサッカー」あるいは「ポゼッションサッカー」とはこれです。(下図)


バランスが良い
(クリックで拡大)


しかし、まだまだ改善しなければいけないところはあります。

試合の後半は日本が守備ブロックを下げ過ぎてしまい、「カウンター」または「ポゼッション」の戦術を使い分けて味方の攻撃を再構築できるような、ボールを前へ運べる選手を投入せずに防戦一方になってしまったことについては反省点です。現時点での香川選手はそうした能力が不足しています。

今後のトレーニングでは、コンパクトな守備ブロックを保ったままDFラインを高めに維持し、チームでの組織的なボール奪取力をさらに高め、原口選手のゴールシーンのように、各選手がテンポ良くグラウンダーのパスをつなぐ質の高い攻撃を行うことで得点することを狙い、そのような攻撃を行う回数を1試合の中でどんどん増やしていけば良いのです。

それで1試合のボール保持率が50%を超えてくれば「パスサッカー」あるいは「ポゼッションサッカー」となり、DFラインを引き気味にして保持率が50%を下回れば守備重視の「カウンターサッカー」ということになります。

チーム全体で長い時間ボールを保持していても、選手1人ひとりがボールを持つ時間はできるだけ少なくするのが、世界最先端のポゼッションサッカーなのです。

レーブ氏が監督に就任した2006年時点において、ゲーム中にドイツ代表選手がボールを保持する平均時間は1回につき2.8秒だったそうですが、彼はこれを8年かけてトレーニングで計画的に短縮していき、ブラジルW杯で優勝したときには平均1秒になっていたそうです。

つまり、ドイツ代表はボールポゼッション率が50%を上回ったとしても、1人の選手が1度にボールをキープしている時間は平均1秒ほどしかなく、それだけテンポ良くしかも正確にパスが回るということなのです。

なぜそうするかと言えば、ボールを持ってグズグズしていると、相手ゴール前のスペースがどんどん無くなっていくからで、それはある意味「時間との勝負」だからです。

原口選手のゴールシーンでは、ボールをカットした原口・攻めの起点となるパスを出した長谷部・ラストパスを供給した本田の各選手がボールを保持していた時間はそれぞれ何秒だったか計測してみてください。

どうやら日本サッカー界では、選手がボールを3秒も4秒も持って「どこへパスを出そうかな」とキョロキョロしながらドリブルするサッカーを、1人の選手が1回に長い時間ボールを持つサッカーを「ポゼッションサッカー」だと誤解しているようです。

相手ゴール前に4人も5人もの日本の選手が足を止めてベッタリと張りつき、それによって敵のマーカーをゴール前に集結させ、敵味方の選手で大混雑しているペナルティエリアの周囲を、パスの出しどころが無い選手が左から中央へ、中央から右へと遠巻きにパスを回して、最後は苦しまぎれにクロスをゴール前へ放り込む。(下図)


バランスが悪い


これがブラジルW杯のギリシャ戦やロシアW杯アジア2次予選のシンガポール戦3次予選のUAE戦で見られた「日本式ポゼッションサッカー」なのですが、これでは勝てないということは試合結果によって何度も証明されています。

そうではなくて、原口選手のゴールシーンに象徴される、この試合の前半戦で見せてくれたような攻守に高い組織力を誇る
「パスサッカー」をやってこそ、日本代表が世界で勝利するための道が開かれるのです。あとはこの戦術の完成度をどれだけ高めることができるかが勝負になってきます。

 第一回の記事を読み、そんな素晴らしいサッカーをこのオーストラリア戦でやったハリルホジッチ監督をどうして解任しなければならないのか?と疑問に思った人もいたのではないでしょうか。

その答えは、こういうサッカースタイルは彼が目指していたものではないからです。 

ハリルホジッチ監督がもともと武器としていた戦術は、守備は「デュエル」。

コンパクトなブロックで相手が使えるスペースを限定しながらゾーンで守るのとは正反対で、選手それぞれがバラバラに相手との一対一を仕掛けて勝ち、ボールを奪い返す守備のやり方。

レスターで大活躍したカンテのように個の守備力が高い選手が豊富にいるフランスのクラブならともかく、今の日本代表には現実的な守備戦術ではありません。

攻撃戦術もさほどレベルの高いものではなくて、単純なロングボールを前線に放り込んで一発でウラを狙うタイプのもので、これがハリルホジッチ式の「タテに速い攻撃」と呼ばれるものです。

しかしこれも昨年10月のイラン遠征でまったく機能せず、2次予選でシンガポールやカンボジアのように自陣にベタ引きでカウンターを狙ってくるような相手とばかり対戦したので、「センターバック2枚を残してあとは全員総攻撃だー!!」みたいな、相手ゴール前にこちらの4トップ5トップが張りつく「日本式ポゼッションサッカー」をやるようになっていったのです。

そして3次予選の初戦。

UAEに対してハリルジャパンは守備は「デュエル」、攻撃は「日本式ポゼッション」でいって初戦を落としてしまい、続くタイ戦で攻撃は少し改善されたものの、守備はあいかわらず「デュエル」で決定的なシーンをタイにつくられるなど不安定な戦いぶり。

つづくホームのイラク戦で、ハリルホジッチ監督は攻撃戦術をガラッと変えます。

この試合は清武選手を中心としたコレクティブカウンターから先制するなど前半は良い試合内容だったのですが、しばらくすると清武・柏木両選手が相手4バックの前のスペースに張りつき、吉田・森重の両CBからロングボールを放り込んで一発でDFラインのウラを狙っていく「タテに速い攻撃」をひたすら繰り返したのですが、これがやっぱり機能しません。

こういう攻撃は選手のポジショニング・ミスが原因なのかと思ったら、試合後の選手コメントから見て監督さんからの指示だったみたいですね。

守備もフィジカルの強いイラクの選手に一対一で劣勢となり「デュエル戦術」が崩壊、ボールを何度も奪われて逆にイラクにポゼッションされ、FKから簡単に失点する始末。もう少しのところでイラクと致命的な引き分けを演じてしまうところだったのです。

当研究所はタイ戦のあとにハリルホジッチ監督を解任すべきだと主張しましたが、それはその1試合だけを見て発作的に思いついたことではありません。

2次予選の初戦シンガポールとの試合からずっと彼の監督としての能力を評価し続け、出した結論なのです。

そして日本のW杯予選敗退にもつながりかねなかったあのイラク戦の戦術大転換、その戦術のあまりの低レベルさに当研究所は再度、忍耐の限界に達しました。

この試合の後、本田・清武選手から「タテに速い攻撃をしろという監督の指示を聞きすぎた」「遅攻と速攻を繰り返したり、自分たちで考えながらやらないと」などといった反省の声が一斉にあがり、岡崎選手からは「デュエルにとらわれすぎて相手にかわされてしまった」というコメントもありました。

そしてこのオーストラリア戦では「デュエル」を捨てて、コンパクトなブロックを90分間つくる「ゾーンディフェンス」で守り、攻撃は一発のロングボールで相手のウラを狙う「タテに速いサッカー」をやめ、前半の原口選手の先制ゴールシーンのように、グラウンダーのショートパスをテンポ良くつないで相手を崩す、欧州でみられるような世界標準の「パスサッカー戦術」に再び大転換したわけです。


               攻撃            守備

UAE・タイ戦まで    日本式           デュエル 
              ポゼッションサッカー

イラク戦        ロングを多用した      デュエル
             ハリル式
             タテに速いサッカー
            (清武中心の
          コレクティブカウンターは除く)


オーストラリア戦    グラウンダー使った   ゾーン
               パスサッカー
               (前半のみ)


イラク戦からオーストラリア戦にかけて日本の戦術がガラッと変わったことに気づかずに、「ハリルが縦に速いサッカーって言っているから、就任してからオーストラリア戦までずっとそうだったんだろ」ぐらいにしか思っていない、ろくにサッカーの中身を見ていない記者や解説者が本当に多いんですが、このことをちゃんと見抜くことができていたのは後藤健生さんぐらいじゃないですか。

オーストラリア戦の守備のやり方は、以前どっかで見たことあるなと思っていたのですが、リオ五輪の手倉森ジャパンと似ていないでしょうか。

そして日本の選手のフィジカルコンタクトのやり方も大きく変わり、自分の太ももの外側を相手に当ててボールを奪い返すというもの。

これでイラクとのボールの奪い合いでボロボロだった日本の選手たちが、イラクよりフィジカルコンタクトに強いオーストラリアの選手たちにガチガチ当たっていき、コンパクトな守備ブロックをつくることで1人ひとりが守るべきスペースが狭くて済むということの相乗効果もあって、前半はオーストラリアからボールを何度も奪い、決定的な仕事をさせませんでした。

中盤の守備の要、山口・長谷部両選手もこの守り方に手応えを感じたのではないでしょうか。

これもアジア予選で選手がイラン・イラクにフィジカル負けしたことで手倉森さんがチームに導入し、リオ五輪の初戦ナイジェリア戦では選手たちがビビッてズルズル下がってしまったのですが、気を取り直して挑んだコロンビア戦やスウェーデン戦で効果を発揮したやり方です。

(当ブログ過去記事・手倉森ジャパンが化けた?

タイ戦のあとに緊急入閣した手倉森コーチが縁の下の力持ちとなって良い仕事をしてくれたんじゃないかと推測しています。

ヘソを曲げて再びイラク戦以前の戦術に戻されても困るんですが、ハリルホジッチ監督は大事な試合で戦術の選択を何度も間違えており、チームの強化が全然進んでいないということはイラク戦までのW杯予選11試合を見れば明らか。

戦術だけでなく選手の起用法もまずくチームが不振に陥る原因になっています。

彼がこだわっていた本田選手の右ウイング起用ですが、ドリブルするとき左足しか使えずスピードも低下してきているというプレーの内容を見れば、右ウイングというポジションに本田選手が向いていないのは明らかで、当研究所は1年前からセンターFWや攻撃的なボランチへのコンバートを提案してきたのですが、オーストラリア戦での本田選手は「偽の9番」的に動いてチームに先制ゴールをもたらすアシストをするなど素晴らしい貢献をしてくれました。

「ハリルの大バクチが当たった」と書いたマスメディアがありましたが、プレーの特徴を見極めれば本田選手のセンターFW起用はギャンブルでもなんでもなくて「論理的必然」であり、気づくのが遅すぎます。

絶不調の香川選手を彼がボロボロになってしまうまでトップ下で起用し続けるなど、ハリル監督はプレーの特徴や長所短所・能力の優劣を見極めて代表選手を適材適所のポジションで使ってあげるということができていません。

実はオーストラリア代表、この試合のために用意していたゲームプランが失敗していたように思われます。

日本対イラク戦のスカウティングビデオから、ポステコグロウ監督は日本はオーストラリア戦も「デュエル」で来ると予測していたのではないでしょうか。そこでダイアモンド型にした4-4-2でピッチ中央を厚くし、イラクに一対一でボロボロに負けてもなおデュエルを挑んでくる日本を中盤の攻防でコテンパンにやっつけゴールを奪うという腹づもりだったのではないかと思います。

ところがハリルジャパンは全然予想していなかったゾーンディフェンスで守ってきて、日本の守備ブロックの中へ入れる「攻めのパス」がまったくつながらずに大苦戦、そうこうしているうちに先制ゴールを浴びてしまうなどゲームプランを完全に狂わされてしまいます。

サウジからメルボルンへの移動も欧州ーアジア間に匹敵する移動距離であり、オーストラリアの選手も疲労が抜けきっていませんでしたから、できれば日本としては勝っておきたい試合でした。

そこで清武選手のように、中盤でボールを前に運ぶことができて本田・原口・小林の3人に攻めの起点となるようなパスを数多く配球できる選手をトップ下に起用していれば、ゲームプランが狂って苦しんでいた相手から前半にもう1点ぐらい取れていたかもしれませんし、アンカーのジェディナクを守備に奔走させることで相手の攻撃の起点を封じ、それによってこの試合全体のボールポゼッション率を50%ぐらいまで挽回できれば、日本はもっと楽にゲームを進めることができたのではないでしょうか。

相手のフォーメーションに完全に合わせてマッチアップでズレが生じないように守るだけがサッカーではありませんし、90分間香川選手を起用しつづけたことで特に後半は防戦一方になってしまったことについても、ハリル監督の選手起用法に疑問が残りました。

香川選手がパスの起点となるジェディナクを抑えていたのだからあれでいいんだという報道も見かけましたが、ならば同じタスクを清武選手に与えながら前述のような攻めの中心になってもらえば良いでしょうし、90分間守るだけでいいのなら香川選手でなければいけない必然性はなく、もっと守備が得意な選手をトップ下に入れたら良かったのではないでしょうか。

せめて同点にされたあとからでも、ボールを奪い返したあとに日本の選手が攻め上がることができるように中盤でボールを前へ運ぶことが可能な選手を入れるべきでしたが、ハリルホジッチ監督はゲームの流れを見て、適切な交代選手を使っていくということが相変わらずできていません。

ハリルホジッチ監督は頭が固くて思考に柔軟性が乏しく、プレーの中身で評価するのではなくレスターやドルトムントに所属しているからという「ブランド重視」でベテラン偏重の選手起用を繰り返し、若手への世代交代にも失敗しかかっています。

自虐的でドMな一部のサポーターから「日本の選手がヘタクソだから、誰が監督をやっても同じ」という意見があがっていますが、そんなことはありません。より優秀な監督を呼んでくることが最低条件になりますが、リーダー(監督)が変わればチームも試合の内容・結果もガラッと変わるはずです。

 以上のことを総合的に判断して、より能力の髙い人材が確保できているなら今のタイミングでハリルホジッチ監督を解任すべきだと思います。

その用意ができていないなら手倉森さんをとりあえず暫定監督にしてその間に優秀な人材を探して次期監督にすえ、もし手倉森さんが次のサウジ戦以降、結果・内容ともに満足のいく采配ができるようなら彼に任せても良いかもしれません。

もちろん手倉森さんに代えて100%W杯へ行けるという保証はありませんし、当然リスクはあります。

しかし私がJFA会長や技術委員長なら、現時点でハリルホジッチ氏を解任しないことの方がリスクが高いと判断しますし、このまま彼に代表チームを任せることでW杯にいけなくなったり、JFA会長や技術委員長としての「サッカーを見る目」や信用に傷がつくことの方を恐れます。

次の日本対サウジ戦は非常に重要な試合となりましたが、サウジ代表のファンマルバイク氏は手堅いサッカーをやってくる手ごわい監督さんで、監督の能力の差が試合の勝敗を決めるという事態は絶対に避けなければいけません。

◇    ◇     ◇     ◇     ◇     ◇    ◇

     2016.10.11 イティハド・スタジアム(メルボルン)

       オーストラリア 1 - 1 日本


    ジェディナク52'(PK)        原口 5'


    GK ライアン          GK 西川
   
    DF スミス           DF 酒井高
       スピラノビッチ         吉田
       セイズンバリー        森重
       マクゴーワン          槙野

    MF ジェディナク       MF 山口
       ルオンゴ            長谷部
       ムーイ             小林
      (レッキー 81)        (清武 81)
       ロギッチ            香川
                        原口
    FW ギアンヌ           (丸山 90+)
      (クルーズ 57)
       ユリッチ         FW 本田
      (ケーヒル 70)        (浅野 84)




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■コメント

■ [名無しさん]

いつも勉強させてもらってます。
センターfwの空けたスペースに速攻するのはスタンダードですが、代表では久々な気がします(笑)
ザックの初期は左サイドでそんなシーンみた覚えもありますが。
リオ手倉森の時は近いイメージでしたが、なんだかやたらとワンタッチの崩しに拘ってたように見えました。監督の指示か選手が雑なのかはわからないですが、、、
いずれにせよ、ハリルは限界な感じありますね。
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