■タイに勝利も、課題山積

 ロシアW杯アジア最終予選の2試合目となるタイとのゲームがバンコクで行われ、日本代表が2-0で勝利しました。

今回の対戦相手・タイ代表は、全員が国内リーグでプレーしているチームです。日本がホームでもアウェーでも勝たなければいけない相手と見ていましたが、アウェーで2-0という結果は良かったと思います。

ただ、日本がW杯へ行くために2ゴールで十分だったかどうかは、最終予選の全試合が終了した時にわかることになります。

試合内容の方は、UAE戦よりは少し良くなったものの、全体的に悪かったです。ではどこが悪かったのか詳しく見ていきましょう。

        ☆        ☆        ☆

 その前にレフェリングについて触れておきますが、この試合のイラン人審判のジャッジは「正常の範囲内」だったと思います。日本が勝ったからそう言っているのでは決してありません。

相手の選手が倒れれば、何でもかんでも日本のファールを取っていたUAE戦のカタール人レフェリーとはまったく違い、日本とタイの選手がぶつかった場合、どちらの原因でファールが起きたかをおおむね正しく判断できていました。

タイの選手がハンドで日本のシュートを防いだシーンが一度ありましたが、タイのホームゲームですし、「故意ではなかった」と判断されてスルーされることはままあることです。

森重選手のイエローカードはやや不可解でしたが、遅延行為と判断されても致しかたないですし、「やぶをつついて蛇を出す」ような余計なアピール行為でした。

        ☆        ☆        ☆

 それでは日本代表の試合内容がどうだったか、攻撃から見ていきます。

前回UAE戦では日本の選手たちが得点を焦るあまりゴール前にべったりと張りつき、サイドバックも含めて5トップ・6トップのような形になってしまう時間が長くなっていました。

それによって自分をマークする敵選手を相手ゴール前に集結させてスペースが完全に無くなり、「ゴール前に2階建てバスを置く」ような状況を日本みずからつくってしまっていたことが、点が取れない最大の原因だったと指摘しました。(図1)

図1
バランスが悪い
(クリックで拡大)

この試合では、同じ間違いをしないように修正しようという姿勢が選手たちからうかがえ、先制ゴールをあげたところまではまずまずでしたが、前半20分すぎから攻撃が機能しなくなるとだんだん我慢しきれなくなり、再び前線に4人も5人もの選手が張りつくという悪いクセが顔をのぞかせました。

特にトップ下の香川選手が「結果」を出すことに焦りすぎていて、相手センターバック2枚の前方のスペースにすでに浅野選手らがいるのにそこへポジショニングして、あいかわらず4トップみたいな形になってしまうことが日本の攻撃が機能しない最大の原因です。(図2)

図2
4トップ


パスで攻撃を組み立てるという重要な役割を担うはずのトップ下が3トップに吸収されてしまうので、ダブルボランチは両サイドへパスを展開するより他に選択肢がなく、日本の攻撃がサイドからゴール前への浮き球のクロスという単調な攻撃を繰り返す原因になっています。

そうではなくて、トップ下がダブルボランチと組んで1辺が7m程度の三角形をつくり、敵のダブルボランチの前でいつも練習でやっている「鳥かご」のようにパスを回して攻撃を組み立て、ここぞというタイミングでトップ下が敵ダブルボランチの背後にいる味方へパスを出したり、自分がそのスペースに侵入してパスを受けてシュートを打ったり、スルーパスを出したりしてチャンスメークをするべきなのです。

なぜ適切なサポート距離が約7mなのかと言えば、敵の守備ブロックがコンパクトな状態のとき、DFライン4人とMFライン4人のタテヨコの距離が、だいだい10~13mぐらいだからです。

7mより狭くなれば相手に近すぎてパスをカットされる危険性が高まりますし、それより距離が遠くなってもパスをカットされやすくなり、適切な距離感で味方をサポートしながらパス交換するのが難しくなります。

30℃近い熱帯気候のため、体力的にきつかったとは思いますが、上の図2のように3トップが相手ゴールに背を向け、背後から自分をマークしている相手DFの30㎝前で足を止め、パスコースを探している味方のボールホルダーを見ているだけという時間も長く、それがボールを長く保持していたわりに効果的な攻めができず、ゴール数が増えなかった原因の一つです。

日本人選手の長所は、スピードとアジリティ、そして足元の技術だと思います。

しかしそういうタイプの選手にとって一番不利なのは、
止まっている相手、その前で止まっている自分、止まったボールという状況です。このような状況で、スピードやアジリティが生かせないのは当たり前。

日本が世界で勝つためには、後ろに下がりながら守る相手に対し、前進する自分、テンポの良いパスやスピードに乗ったドリブルで前へ進むボールという状況をつくらなければいけないのです。

そのために一番やってはいけないことは、「俺がゴールするからクロスを寄越せ」とばかりに、敵のマーカーをひっぱりながら相手のペナルティエリアの中で味方のボール保持者を見ながら足を止めて4人も5人もの選手がべったりと張りついていたり、相手の4バックの前でこちらの3トップが足を止め、ボール保持者を見ているような状況をつくりだすことです。

そうではなくて、3トップができるだけゴール前へ侵入するタイミングを遅らせて相手バックラインのウラをわざと広く空けておき、バイタルエリアにいる自分に敵のDFが密着マークしてきたら、あえて自分たちが攻めるべきゴールから遠ざかるようにポジショニングしながら、バイタルエリア内でフリーになり続けることができるよう常に移動する。

それでも相手は自分をマークするためにバックラインを押し上げてくるでしょうが、永遠に押し上げつづけることはできません。バックラインのウラが広く空きすぎるとウラを取られやすくなるので、いつか相手はバックラインを押し上げるのをやめます。そのとき自分がバイタルでフリーになれるのです。

そこで「鳥かご」のように三角形をつくってテンポ良くパスを回すことで相手のプレスをかわしたトップ下やボランチがボールを持って前を向ければ、相手バックはこちらがわざと広く空けておいた後方のスペースへ向かって下がりながら守るという、守備側にとって苦しい状況をつくり出せます。

そこでバイタルでフリーになっている3トップの誰かが、バックラインのウラヘダイアゴナルランしてトップ下やボランチからスルーパスを受けるとか、バイタルでフリーになっている3トップの誰かにパスを当てて、そのリターンをもらったトップ下がワンツーでバックの背後に抜けて、GKとの一対一からゴールを決めるとかすれば、日本人選手のスピードやアジリティを最大限に生かした攻撃ができるはずです。(図3)

図3
バランスが良い


 ところが「ゴール」や「勝ち点3」という結果が欲しくて焦りまくっている日本の選手は、ゴール前にべったりと張りついて5トップとか6トップみたいな無茶苦茶なフォーメーションになり、その結果世界の誰よりも勝利やゴールを渇望しているにもかかわらず、世界で一番ゴールから遠ざかってしまっているという大変皮肉な状況に陥っています。

そうなってしまう原因は、選手たちがゲーム中に心の余裕を持ち、攻守両面で個人戦術・チーム戦術のセオリーにのっとって冷静にプレーするということができず、「試合に勝ちたい」「ゴールが欲しい」「負けるのが怖い」という自分の感情や不安で頭の中が100%になったままプレーしているからです。

多くの選手が精神的にイッパイイッパイでプレーしているので、相手のバックラインを高くすることで得点チャンスを増やすため、あえてゴールから遠いところにFWが居たり、バイタルエリアのスペースを広く保つために、あえてゴール前にいる味方の数を少なくするというアイデアが生まれることもなく、「ゴールに近いところに沢山の味方がいないと点が取れないんじゃないか」と不安になって、間違ったポジショニングを取ってしまうのです。

選手が冷静さを取り戻して修正することができないなら、ベンチにいる監督が試合中に修正の指示を出すべきなのに、それができていません。

 UAE戦があんなことになってしまって大変不運だったとはいえ、この試合の日本の選手たちに冷静さや精神的な余裕は一切なく、全身に無駄な力がはいりまくりで、めちゃくちゃなプレーをしている選手も多かったですね。

スルーパスを出せば、キックが強すぎて味方が追いつけず、ボールがピッチの外まで一直線。

スルーパスというのは、前進してくる相手GKよりもウラヘ抜け出した味方が先にボールに追いつけるよう、相手のバックとバックの間は確実に抜けるパススピードだけれども、相手DFラインの背後5mぐらいのところでボールの転がりが弱まるように、力を加減して出すものです。

パスが出たけどちょっと大きすぎる。でも自分の方が相手DFより先にボールに追いつきそうだ。だからスライディングしてきた相手より先にシュートを打たなければというアイデアしかないので、力いっぱいシュートを打ってゴールのはるか上を超えていく大ホームラン。

そうではなくて、自分が先にボールに追いつくことができた、でも相手DFが自分の左から右へ向かってスライディングしてきたので、自分のキックモーションよりも相手のスライディングタックルの方が早くそのまま力いっぱいシュートを打てば相手にぶつけるか大きく上にフカしてしまう、そこでキックフェイントから自分の足の裏でボールを手前に引いて、相手のスライディングタックルを空振りにしてやり、相手がスライディングしてきたのとは逆方向の、左前方へちょんとボールを蹴って自分がシュートするためのスペースをつくり、前へ出てきた相手GKの動きを見ながらボールをゴールの枠内へ流し込むみたいな相手との冷静な駆け引きが、日本の選手はまったくできていません。

正確なシュートを打つために、良い態勢で打つことを心掛け、もし良い態勢で打てないなら無理をして打たず、フェイントなどを使って良い態勢からシュートを打つためのスペースをつくれないか別のアイデアを試すというような発想が、日本サッカー界にはほとんどありません。

シュート時に心の余裕や冷静さを欠いていることが、1試合にシュートを20本も30本も打って2点ぐらいしか決まらない最大の要因だと思います。

日本人はマジメすぎ、物事を100%完璧にやろうとしすぎて心の余裕や冷静さを失ってしまい、それが「絶対に失敗したくない。失敗が怖い」という感情を生んで、過緊張で頭が真っ白になりとんでもないオウンゴールを引き起こしてみたり、イレ込みすぎてプレーが空回りし、シュートがとんでもない方向へ飛んで行ってしまったりするのではないでしょうか。

ブラジルW杯やリオ五輪が典型的な例ですが、日本のサッカーチームが国際大会の初戦や、もう一つも負けられないというプレッシャーがかかる大事な試合で結果を出すことができない最大の要因は、日本人選手がメンタル面で問題を抱えているからだと思います。

大事な試合で失敗がゼロになるようにベストを尽くすのは当たり前なのですが、いくらベストを尽くしてもミスは起こる、ならばベストを尽くしてプレーした結果、どういう結末になろうが受け入れるしかないと開き直り、心の余裕や冷静さを保つことを心掛け、「無心」でプレーしたり、適度にリラックスしてサッカーを楽しんでプレーしたりした方が、逆に良い結果がついてくると思います。

日本人選手の、こうしたメンタル面の問題を改善しないかぎり、日本サッカーが国際大会で成功するのは難しいです。
 
 次に日本代表の守備面はどうだったかを見ていきます。

この試合は、ちゃんとした守備ブロックをつくろうと努力はしていたようですが、タテにもヨコにも大きく間延びしており、しかもDFの4人が、SBとCBの間が5mでCBとCBの間は18mみたいに、ヨコに等間隔で並んでさえいませんでした。これでは効果的な守備はできません。

山口選手が機転を利かせ、危ないスペースでフリーになったタイのボール保持者を早め早めにつぶすようにしていましたが、こういう守備をゾーンディフェンスとは言いませんし、無失点で済んだのはタイの攻撃力が低すぎて助かっただけで、タイ以上の攻撃力があるチームだと、何失点するかわかりません。

コンパクトな守備ブロックをつくる場合、図2で示したようにDF4人・MF4人の横幅はペナルティエリアのそれと同じ程度、それぞれ10~13mの等間隔で4人が横に並び、DFラインとMFラインとの間も10~13m程度の距離を保たなければなりません。

そして相手のボール保持者がサイドにいるなら、守備ブロック全体をボールサイドへスライドさせて守ります。

過緊張で選手の頭が真っ白になり、こういう守備戦術の約束事がぜんぶ吹き飛んでしまったのかもしれませんが、そういうときはハリルホジッチ監督がベンチにどっかと座りっぱなしではなくて、テクニカルエリアに出て逐一、修正の指示を出すべきです。

日本が優勝したアジアカップ2011や、圧倒的な強さで勝ち抜いたブラジルW杯アジア最終予選など、ザッケローニ時代は監督さんがすぐさまテクニカルエリアに飛び出して両手を胸の前につき出し、アコーディオンを縮めるようなしぐさをして、「間延びしているぞ、守備ブロックをコンパクトに維持しろ」と指示が出たんですがね。

たった2年で、どうして選手たちがコンパクトな守備ブロックのつくり方、ゾーンディフェンスのやり方を忘れてしまったのか。手倉森ジャパンの守備組織よりひどい状態です。

選手個々の評価は次回としましょう。

次回へつづく



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