■ユーロ2016を観て

 ユーロ2016フランス大会はポルトガルの優勝で幕を閉じましたが、その感想を。

開催地フランスが欧州各国にとって慣れた気候だけあって各チームのインテンシティが非常に高く、パスサッカーだろうがカウンターサッカーだろうが「走れないチームは勝てない」ということ、「ピッチ上の11人が一つのチームとして良くまとまっていること」が上位進出の最低条件であることを、まず感じました。

2018年ロシアW杯が行われる各会場も初夏にしては冷涼な気候となることが予想され、前回W杯でブラジルの蒸し暑い気候がハンデとなったヨーロッパ勢も、自分たちの“ホーム”で本来の力を発揮してくることが予想され、欧州各国が得意とする運動量の多い組織的なサッカーをするチームが有利になりそうです。

日本代表もそのことは頭にしっかり入れておいた方が良いでしょう。

ただ、この大会中に戦術面において何か画期的なイノベーションが起こったようには見えませんでした。強いチームがボールをポゼッションして(ポゼッションさせられて)攻め、弱いチームは守備を固めてカウンター攻撃に一縷の望みを託すという、これまでサッカーの世界で50年100年と繰り返されてきた営みが再び見られたという点で、特に驚きはありません。

参加国がそれまでの16から24に拡大されたことで、かなり実力に差があるチームどうしの対戦が増え、どちらか一方が圧倒的に攻めたてて、もう一方は必死に守って勝ち点1狙いという試合が目立ち始めたという意味で、W杯より高いと言われたこの大会全体の競技レベルが下がってしまったように思います。

失礼ながらアルバニアや北アイルランドは、この大会が前回までと同様16チーム参加のままだったら、そもそも出場していなかったんじゃないでしょうか。

ユーロの参加国拡大は、現在汚職がらみで活動停止処分を受けているプラティニ前UEFA会長が進めたものでしたが、サッカー弱小国からの票が欲しいといった、純粋なスポーツとは関係ない政治的な動機があったとも言われており、これ以上参加国を増やしたらダメでしょうね。

プラティニの肝いりで、2020年に向けて「ヨーロッパ・ナショナルリーグ」が始まるらしいですが、ただでさえクラブでの試合が過密なのに、選手の過労が心配で当研究所としては賛成できません。

 話をユーロ2016の競技面に戻すと、参加国のなかで戦力的に最強だったのはやはりドイツだったと思います。

パスサッカーで相手を圧倒する“横綱相撲”を見せていましたが、どこか不運だったというか、ユーロ2016はドイツの大会ではなかったですね。

決勝トーナメントで優勝候補ひしめく「死の山」に入ってしまったところから始まり、準々決勝イタリア戦ではリードしていたのにボアテンクが余計なミスをして追いつかれ、延長PK戦まで行ってしまったことが各選手に余計な疲労を蓄積させたでしょうし、準決勝フランス戦ではシュバインシュタイガーがやはり不運なPKを献上して、それを最後まで取り返すことができませんでした。

中盤までの攻撃の組み立ては素晴らしいのですがミュラーが不調だったことで、最後にゴールを決めるセンターFWクローゼの後継者が育っていなかったことが露呈してしまったように思います。

 スペインについては完全な世代交代の失敗。それも2014年W杯での過ちを再び繰り返してしまいました。その最大の原因はデル・ボスケ監督でしょう。

ブラジルW杯が惨敗に終わったとき、なぜデル・ボスケを続投させたのか疑問でならなかったのですが、W杯とユーロの優勝監督である彼は、準優勝以下ではスペイン国民から「失敗」と見なされてしまう非常に難しい立場にありました。

(なんか、なでしこの監督だったノリさんを思い出します)

よって成長前の若手を起用することによる一時的な戦力ダウンを受け入れることができず、最後は実績のあるベテラン選手にどうしても依存してしまい、気づいたら“無敵艦隊”が30歳前後の選手だらけになってしまったんじゃないでしょうか。

そもそもデル・ボスケは育成があまり得意ではなかったんでしょうね。

彼が率いたスペイン代表はティキ・タカが代名詞になりましたが、デル・ボスケはFCバルセロナではなくレアル・マドリード派の人です。

これまでクラブ生え抜きの名選手がまったくいなかったわけではありませんが、ディ・ステファノやプスカシュの時代からジダン・フィーゴら銀河系軍団、そして現在に至るまでエル・ブランコはカネに糸目をつけず世界中からスター選手をかき集め、戦術=スター選手で勝ってきたようなクラブであり、特にグアルディオラ監督以降のバルサのように、監督の画期的な戦術で勝っていくようなチームカラーではありませんでした。

実際2008年からペップがバルサのトップチームの監督に就任し、シャビやイニエスタ・ブスケツらバルサのカンテラが育てた選手に優れた戦術を授け、彼らがリーガ・国王杯・チャンピオンズリーグで勝ちまくった時期と、ユーロ2008・2010年W杯・ユーロ2012にかけてのデル・ボスケ率いるスペイン代表の絶頂期がちょうど重なります。

デル・ボスケはレアルのチームカラーのように、ペップが育てたスター選手を代表に持ってきて主軸とし、足りないところはS.ラモスやビジャのように他クラブから補強して代表チームを組んだので、戦術面ではピッチ上の監督であるシャビやイニエスタに頼るところが実は大きかったんじゃないでしょうか。

そして加齢によってシャビやイニエスタに衰えが見え始めるようになると、スペイン代表もブラジルW杯以降、優勝カップから遠ざかるようになってしまったのだと考えています。

このことと密接な関係があるので、ここでちょっとクラブチームの話もしますが、戦術面で近年最も高度でイノベーティブなパスサッカーをやっていたのは、2008年から11年ごろにかけてのグアルディオラ監督率いるバルサだと思います。

ペップ退任以降のバルサは彼が残した遺産で食っていたようでどうしても輝きに欠けましたし、ルイス・エンリケ監督はもともとバルサの人間ではないせいか、良くも悪くもサッカースタイルが少し大ざっぱになった感じがします。

バイエルンに移籍したペップの方も、選手たちのほとんどがバルサのカンテラで育てられたわけではないので、シャビやイニエスタ・メッシらが繰り広げる緻密なパスサッカーをドイツで完全に再現することはできず、逆にバルサの選手よりも体が大きくてフィジカルコンタクトにも強いので、浮き球のロングボールを使った力づくの攻撃も多くなり、やはり彼がバルサを率いていた時よりもサッカーが雑になったように思います。

それはバイエルンの選手を多く抱えるレーブ監督のドイツ代表にも反映され、ユーロ2016では相手ゴールまで30mのゾーンに入ってからどうやって相手の守備組織を崩すかというところで、絶頂期のスペイン代表(=絶頂期のバルサ)と比べて攻撃のクオリティもバリエーションの面でも見劣りがしました。

エジルも素晴らしいプレーヤーですが、チャンスメークの能力で全盛期のシャビやイニエスタの域には達していないように見えます。

 このように、攻撃的なパスサッカーの戦術的な進歩がここ数年停滞もしくは後退しているため、固く守って相手がミスするのをじっくり待つカウンターサッカーのチームが、消去法的に勝ち残るようになってきたんじゃないでしょうか。

それがユーロ2016で優勝したポルトガルだと思います。

しかしポルトガルも相手が格上と見たら割り切ってカウンター戦術に切り替えていただけで、決してカウンター一辺倒だったわけではありませんでしたが、ボールを持たされた時の攻撃は、絶頂期のスペインやこの大会のドイツほどのレベルにはないようでした。

アイスランドのように守備ブロックをつくって引いている相手にずっと守っているわけにもいかずポルトガルの方が前に出て攻めましたが、グループリーグでは3引き分けと苦しめられ、ギリギリの決勝T進出だったことがそれを物語っています。

決勝T1回戦ではカウンターサッカーのスロバキアがドイツと対戦しましたが早い時間帯に先制されてしまい、スロバキアは前へ出て点を取りに行かないといけなくなったのですが、ドイツの守備ブロックの中をプレスディフェンスをかわしてパスをつなぐことができず、苦しまぎれにロングボールを前線に放り込んでもボアテンクを中心にことごとくはね返され、パスサッカーという「プランB」がないスロバキアはまさに打つ手無しのまま、0-3の完敗を喫してしまいました。

「相手に引かれると機能しづらい」「格上に先制されると、ほぼお手上げ」という弱点から逃れられない以上、やはりカウンターサッカーは万能ではないということであり、カウンターサッカーが「これからの世界のトレンド」で未来永劫ずっと続いていくということはないんじゃないかと考えています。

それに世界がシメオネのアトレチコ・マドリードみたいな高度に発達したカウンターサッカーのチームばかりになってしまうと、ユーロやW杯・CLのような世界的な大会で延長まで行っても
0-0のままPK戦とか、よくてセットプレーからお互い1点づつ取り合ってPK戦みたいな試合が続出し、「サッカーがつまらなくなった」というサポーターのフラストレーションがたまるようになると、バックパスをGKがキャッチするのを禁止したり、オフサイドの規定を緩くしたり、延長戦でゴールが入ったらそこで打ち切り(ゴールデンゴール)にしたり、はては「ゴールの大きさを広げろ」とか「延長戦になったら1人ずつ選手の数を減らしていけ」といったアイデアまで出されて、FIFAがあの手この手で点が入りやすくなるようなルール改正を始めるところまでが恒例行事です。

で、守備的なサッカーへの不満がMAXになったころに、革新的な戦術を掲げる攻撃サッカーのチームが現われてカウンターサッカーのチームを全部なぎ倒し、世界中からの羨望の眼差しのもと王者に君臨するというサイクルが世界のサッカーシーンでは繰り返されてきました。

例をあげれば、3-5-2(5-3-2)フォーメーションが発明された1980年代から90年代にかけてはどちらかといえば守備的なサッカーの時代で、94年W杯はプレーメーカーを置かない4-4-2でブラジルが優勝したものの、「守備的で面白くない」とパレイラ監督はブラジル国民からさんざん叩かれ、ユーロ96はPK戦が続出してネドベドやポボルスキが大活躍したチェコも含め守備的なチームが多かったと批判されました。

98年W杯も4-3-2-1の“クリスマスツリー”でどちらかというと慎重に守備を固めたフランスが優勝するのですが、2000年代に入ってくるとだんだんと攻撃サッカーの方が優勢になってきます。

アンリやトレゼゲなどアタッカーに良い選手が出てきたフランスがより攻撃的な4-2-3-1でユーロ2000を優勝、2002年W杯では3-6-1ながらロナウド・リバウド・ロナウジーニョら“3R”を擁した攻撃サッカーのブラジルが優勝、ユーロ2004ではクリスマスツリーにマンマーク・ディフェンスを組み合わせたギリシャがカウンターサッカーで優勝したものの「一発屋」で終わり、2006W杯ではリッピ監督がレジスタにピルロ、2列目にトッティを起用し、トーニやジラルディーノといったFWがそこにからむイタリアにしては攻撃的なサッカーで優勝、そしてユーロ2008から2010年W杯・ユーロ2012にかけて、ティキタカ・バルサの攻撃サッカーをベースとするスペインが黄金時代を築き、2014年W杯はペップのパスサッカーを取り入れたバイエルンの選手を要所に配したドイツ代表が、対戦相手やシチュエーションに応じてパスサッカーと堅守速攻を臨機応変に使い分けて優勝したわけです。

ユーロ2016ではポルトガルが優勝したことでこれから守備的なサッカーが優勢な時期が続くのかそれはわかりませんが、たとえそうだとしてもいずれ画期的な戦術のイノベーションが起こり、攻撃サッカーが再び優勢になるサイクルが戻ってくると思います。

そのイノベーションを起こすのが、スペイン代表の新監督となったロペテギなのか、世界のどこかにいる今はまだ無名の人物なのか、それとも将来ペップがバルサに戻ってきて成し遂げるのか、それもまだわかりませんが、私はリスクを冒してでも前へ出て攻める「攻撃サッカー」の戦術的な進化の方を応援します。

両チームとも守備をガッチリ固めて相手が前へ出てきてミスするのをひたすら待ち、120分プレーしても0-0のまま、いつもPK戦で勝負が決まるというのではつまらないですし、サッカーというスポーツの進歩・発展にもつながりません。

 日本サッカー界としては、まず世界最高レベルの「個の能力」を持つ選手を育成し、チームにも選手の特徴を生かした最高の戦術を授け、世界のどのチームに対してもゲームの主導権を握って勝つという「サッカーの王道」を長期戦略で目指しつつ、そうした目標が達成されるまでの現実策として、格上の相手と対戦するときや互角以下の相手でも試合展開によってはカウンターサッカーに切り替え、場面場面で適切に戦術を使い分けていった方が良い、という当研究所のこれまでの見解は変わっていません。

「その方が効率が良いから」といって、つねに多数派と同じ楽な方向へ楽な方向へと走って行っても、それでは日本サッカーが他の国との違いをつくり出し、世界をあっと言わせるような好成績をあげることはできないと思います。

3-5-2の鬼プレスからのカウンター攻撃というコンテ監督のイタリアとか、まだまだ話のタネは尽きないのですが、今日はこのあたりにしておきましょう。



サッカー ブログランキングへ
↑いつもポチッと応援ありがとうございます。


  

■コメント

■ [tk]

ブログ初期の90年代のポーランド代表あたりを取り上げた記事で「カウンターサッカーが一番好み」と仰ってたと思うのですが、その辺はお変わりないのでしょうか。

個人的にはコレクティブなカウンターが好きだけど、サッカーの将来を考え攻撃的なサッカーを支持してるとすれば、より興味深い記事だなと思います。
■コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

 



管理人多忙につき、マメにレスを差し上げられません。
ゴメンナサイ。
もちろん、すべてのコメントは拝見させていただきますが、サイトポリシーに違反したものは、予告なく削除します。
悪しからずご諒承ください。

プロフィール

スパルタク

  • Author:スパルタク
  • FC2ブログへようこそ!

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク






   

ブログ内検索