■なぜパスサッカーなのか?(その1)

前回のつづき

 これまで5回に分けて、パスサッカー戦術の基本から応用までを見てきましたが、パスサッカーという戦術の奥深さを理解していただけたでしょうか。

マトモな指導者であれば、この程度の戦術ならクラブチームで毎日みっちり練習して半年ぐらい、代表チームなら合宿とテストマッチ・公式戦を利用して計画的に練度をあげていけば、どんなに長くても1~2年の時間があれば、実戦で使えるレベルまでもっていけると思います。

もっとも、戦術の勉強を怠っている能力の低い指導者であれば、4年かけてもモノにはできません。初めから戦術を知らなければ、選手にトレーニングのしようがありませんから。

そもそもこの連載記事を書こうと思ったのは、日本サッカー協会(JFA)の技術委員会あたりから、「カウンターがダメだったら、今までみたいにポゼッションサッカーをすればいい」みたいな話が聞こえてきたからです。

「二手三手先を考えてサッカーをするということ」の記事で指摘したように、パスサッカーという戦術は選手同士のコンビネーションや連動性が欠かせないため、レベルの高いパスサッカーをやるためにはトレーニングや実戦で普段からこの戦術を使い続けることが必須です。

昨年8月の東アジアカップや11月のイランとのテストマッチにおけるハリルジャパンみたいに、ロングボールを前線へひたすら放り込むカウンター攻撃ばかりやっているチームは、カウンターが機能しないからといって、いざパスサッカーに戦術を切り替えようとしても、クオリティーが落ちていて実戦で使い物にならず、相手の守備をぜんぜん崩せなかったということが起こりやすいのです。

だいたい、これまでカウンターサッカーばかりやっていたチームが、W杯予選のような公式戦の前半でカウンター攻撃が機能しなかったからといって、このシリーズで取り上げたパスサッカー戦術の基本から応用までをすべての選手に説明して理解させ、実戦で使えるレベルにするためのトレーニングもやって、なんてことをハーフタイムのたった15分間で出来ると思いますか?

だから「カウンターがダメだったらポゼッションをすればいいじゃないか」という人は、パスサッカーという戦術をまったく理解していないし、ナメてさえいると言ったのです。

普段からパスサッカーをメイン戦術にしているチームにカウンターサッカーをやらせるのはそれほど難しいことではありませんが、カウンターサッカーばかりやっているチームに質の高いパスサッカーをやらせるには、それなりの手間と時間がかかるというのは戦術論の常識であって、JFAの技術委員会はこのことをちゃんと理解しているのでしょうか?

それに、パスサッカーに戻すといってもザックジャパンのレベルでは全然ダメ。

このシリーズで取り上げたパスサッカー戦術の基本から応用までのうち、ブラジルW杯のザックジャパンは、その半分もできていませんでしたから。

「ザックジャパンは自分たちのサッカー(=ポゼッションサッカー)のせいで負けた」という的外れな主張が、ブラジルW杯後に巻き起こりましたが、そうではありません。ザックジャパンが負けたのは、パス(ポゼッション)サッカーの質が低すぎたからです。

にもかかわらず一部のサッカー記者の間違った主張に引きずられたのか、ブラジルW杯以後JFAによる日本代表の強化方針にブレが見られるようになり、それがアジア最弱レベルのカンボジア相手に試合終了間際まで相手のオウンゴールによる1点しか取れないというような、ハリルジャパンの迷走につながっているように思えます。

ボールを扱う技術や身体能力など「個の能力」面で世界で最も優れた選手を育成し、サッカーは個人競技ではなくチームスポーツなので、チームにも「世界で最も優れた組織戦術」を備えさせ、ボールを自分たちのチームで保持することにより主体的かつ積極的にゲームを進める戦術、つまりパスサッカーであらゆる対戦相手に勝つ。

サッカーチームを強化する上で、これが最も優れた戦略だと思いますし、日本サッカー界が目指すべきものであると当研究所は確信しています。

それに対してカウンターサッカーというのは、世界で最も優れた選手やチーム戦術を準備できなかった弱者が強者に勝つために用いる、一時しのぎの戦術であって、戦術レベルの成功で戦略レベルの失敗をくつがえすことはできないというのは、戦略論の常識でもあります。

当ブログが、「サッカー“戦術”研究所」ではなくて「サッカー
“戦略”研究所」と名乗っているのはそういう意味です。

実際、150年以上あるモダン・サッカーの歴史は、「パスサッカーという戦略の勝利の歴史」だったのです。

世界史上初の代表戦は、キックアンドラッシュのカウンターサッカーを得意とするイングランドと、パスゲームを得意とするスコットランドが激突した1872年のゲームだったと言われています。

それから7年間で両者は16回対戦しましたが、スコットランドの11勝4分1敗という結果に終わったそうです。

スコットランドのサッカースタイルに魅了されたイングランド人、ジミー・ホーガンは「パスサッカーの伝道師」としてオーストリアに招かれ、彼が育てた人材が“ドナウの渦巻き”と呼ばれたパスサッカーをあみだし、オーストリア代表はヨーロッパの強国として台頭します。

ホーガンは次にハンガリーへ渡り、そこでもパスサッカーの種をまき、第二次世界大戦後のハンガリー代表“マジックマジャール”として結実しました。

(伝道師ホーガンは次に、ドイツへ向かうことになります)

当時画期的だったポジションチェンジによる流動的なパスサッカーで無敵の強さを誇ったハンガリーは、聖地ウエンブリーでイングランドを6対3で破り、世界に衝撃を与えました。

(その後ハンガリー人ベラ・グッドマンがブラジルへ渡ってパスサッカーを指導、1970年W杯にかけてのブラジル代表の黄金時代の始まりに)

オーストリア・ハンガリー流のパスサッカーは、エルンスト・ハッペルによってオランダに持ち込まれ、その後リヌス・ミケルスによって“トータル・フットボール”という画期的な戦術が生み出されることになります。

ヨハン・クライフを主軸とするアヤックスは、1971年からチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)三連覇を達成し、ミケルスとクライフがFCバルセロナへ移籍することで、オランダ流のパスサッカーがスペイン・カタルーニャへと移植されました。

選手から指導者となったクライフは92年、バルサの監督としてクラブに初となるチャンピオンズカップをもたらし、2000年代前半から、ライカールト・グアルディオラ両監督のもとでバルサは黄金時代を迎え、シャビやイニエスタらバルサの選手を主力とするスペイン代表も、ユーロ2008・2010W杯・ユーロ2012で次々と優勝トロフィーを掲げてみせます。

グアルディオラ監督はバイエルン・ミュンヘンへ移籍してブンデスリーガにバルサ流のパスサッカーを持ち込んで圧倒的に支配、バイエルンの選手を要所に配したドイツ代表は、2014年W杯で優勝を果たしました。

これが現在に至るまでのサッカーの歴史です。

 これに対してカウンターサッカーをメイン戦術とするチームは成功が長続きせず、一発屋の傾向が強いですね。

1950年のW杯決勝で“マラカナンの悲劇”を起こしたウルグアイは、もう60年以上世界の頂点に立っていませんし、“カテナチオ”で有名なインテルミラノも1960年代半ば以後、国際的にほとんど成功できていません。モウリーニョ監督による成功も短期間に終わりました。

時代錯誤的なマンマーク・ディフェンスでユーロ2004を優勝したギリシャ代表も、それ以来鳴かず飛ばず。

カウンターサッカーを独自に進化させた戦術で一世を風靡したクロップ監督のドルトムントでしたが、相手に研究されて引かれてしまうと“ゲーゲンプレス”も機能しなくなってしまいました。

どちらかと言えば守備的なスタイルを取るモウリーニョ監督のチェルシーも、バルサを中心にパスサッカーが獲得してきた成功と比べると見劣りがします。

このようにサッカーの歴史は、自分たちのチームでボールを保持することで攻撃を創造するパスサッカー戦術の勝利の歴史であって、カウンターサッカーは、勇気をもって積極的に前へ出て攻めるパスサッカー戦術という太陽に照らされることでしか輝けない月のような存在なのです。

「二手三手先を考えてサッカーをするということ」の記事で、パスサッカーは「強者のための戦術」あるいは「強者になりたい者のための戦術」であると言いましたが、私はサッカーの世界史を踏まえ、日本代表やJリーグクラブに世界の強者になってもらいたいから、パスサッカーを日本のメイン戦術にするべきであるという、ブレのない一貫した哲学を提唱しているのです。

Jクラブや学生チームで、カウンターサッカーをメインにやるところがあっても良いと思いますが、そのチームがどういうサッカースタイルを採用するかで、どういうタイプの選手が多く生まれてくるかが決まります。

パスサッカーをやれば、敵選手に囲まれた狭いスペースでもボールを失わない、高い技術を持った選手が数多く育ちやすいですし、ロングボールを放り込むカウンターサッカーをやれば、フィジカルコンタクトに強い反面、細かい足技が苦手な選手が多く育ってくる可能性が高いです。

実際、バルサはカンテラからトップチームまで同じサッカースタイルを取っているので、メッシやシャビのようなタイプの選手が生まれてくるのです。

選手育成の観点からも前者の方が優れていると考えますし、JFAの指導のもと、クラブや学校など多くの育成組織で子供たちの発達段階に応じて、基本からパスサッカー戦術を教えるようにしておけば、彼らが成長して代表選手として招集されても、短時間の練習で高いレベルのパスサッカーがすぐできるようになります。

もちろん、バルサ式のパスサッカーをそのままコピーしたようなチームをつくる必要はありません。

パスサッカーという戦術の普遍的な基本を踏まえつつ、日本人の特徴にあった独自のパスサッカーを試行錯誤して、粘り強くつくりあげていくべきです。

この連載記事はそのために書いたつもりです。

ただ、日本人選手に世界最高の「個の能力」を獲得させたり、代表チームに「世界最高の組織戦術」を備えさせるまでには、まだまだ時間がかかりますので、一時しのぎとして現実的な妥協策を取らなければならないときも出てくるでしょう。

それでも「やり続けなければ決して上手くなれず、途中で止めてしまうとレベルが下がる一方」というパスサッカー戦術の本質を決して忘れることなく、自分たちと互角か格下相手には、パスサッカーをメイン戦術にして勝利を目指し、自分たちより格上の相手や、互角以下の相手でもピッチ内の状況によってはカウンターサッカーで攻めるといった具合に、適切に戦術を使い分けるべきだと思います。

しかし、日本のサッカーがメイン戦術として据えるべきなのはパスサッカーであり、カウンターサッカーはあくまでも一時しのぎなのであって、その逆をやろうとしてもうまくいかない理由については、これまでさんざん解説してきたとおりですし、そうなりかけているからこそ、ハリルジャパンはシンガポールやカンボジア相手に苦戦しているのです。

つづく



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■コメント

■分かりやすい [ナマキ]

歴史的事実から見てくと、パスサッカーが結果を出してて分かりやすいです!

日本の問題点はパスが逃げになってる所。

シュートの姿勢、意識の低さ

そもそもカウンター=ロングボールではないし。

もっと一点とか勝利に貪欲なプレーヤーが増えて欲しいです!
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