■より高度なパスサッカー(その3)

 読者の皆様、新年あけましておめでとうございます。本年が日本サッカーにとって良い年となることを祈っております。

さて「年末スペシャル」と銘打って開始した今回の特集記事ですが、自分の仕事が超多忙な年末に、連載ものを始めるのは無謀だと、記事をつくっている途中で気づきました。(苦笑) 日本サッ○ー協会とか、どっかのプロクラブが戦術担当の相談役として雇ってくれるなら執筆に専念できるんですが。 それは冗談としても、一度宣言した以上は必ずやりとげるのが当研究所のポリシーですので、もうしばらくお付き合いください。

        ☆        ☆        ☆

 前回は、たとえ一人ひとりの選手がポジションチェンジを行っても、フォーメーションのバランスを維持しながらパスをつなぎ、攻撃をすることの重要性を見ていきました。

今回は、パスサッカーの「攻撃の最終ステージ」において使われる、相手の守備を崩してゴールを奪うための組織戦術をいくつか見ていきます。

<攻撃の最終ステージ>

 シンガポールやカンボジアといった、さほどレベルが高いとは言えない相手からゴールを奪うのに四苦八苦しているハリルジャパンのどこに問題があるのかと言えば、攻撃の選手がみんな同じタイミングで、同じ動きをひたすらワンパターンで繰り返しているからです。(下図)

図1
ワンパターン
(クリックで拡大 以下同様)

みんなが一斉に味方のボール保持者に向かって手を挙げ、浮き球のパスを相手DFラインのウラへ落とすよう要求するのですが、それが守備側にミエミエで日本代表がどういう攻撃をやろうとしているのか予測が極めて容易になっています。

しかも、あまりにも早すぎるタイミングでDFラインのウラヘ走りこもうとするので、相手DFはウラを取られないよう警戒してラインを下げる結果、ウラのスペースがますます狭くなり、浮き球のパスを出しても前進してきたGKに簡単にキャッチされてしまうか、味方がボールに追いつけず、そのままゴールラインを割ってしまうかのどちらかになっています。

前回記事でも指摘しましたが、バイタルエリアの一つのスペースに多くの味方がひしめきあっているので、フリーでプレーするためのスペースを自らつぶしてしまっていますし、選手配置のバランスもまったく取れていません。

トップ下の香川選手がCFに非常に近い位置にいたり、宇佐美・本田の左右ウイングが中へ中へとポジショニングするケースが多く、それが攻撃が上手くいかない大きな要因となっています。

左右のウイングはもっとピッチを幅広く使う必要がありますし、バイタルエリアでポジショニングする場合は、図の紫の星で示したところにパスの基点をつくって攻撃して欲しいのです。

ブラジルW杯のギリシャ戦が典型的な例ですが、もともとザックジャパン時代からこういうまずい攻撃をやってしまうケースはあったのですが、ハリルジャパンになってから症状が悪化してきています。

その原因はハリルジャパンがやっている「タテに速いサッカー」にあり、日本代表の選手が「タテに速いサッカー」=「浮き球のパスをDFラインのウラで受けるサッカー」と思い込んでいるため、それをワンパターンで繰り返してシンガポールやカンボジアレベルの相手に苦戦しています。

シンガポール・レベルからさえゴールを奪えないようであれば、W杯でギリシャのような欧州の中堅クラスにガッチリ守られたときに、もっとゴールを奪うのが難しくなります。

 それでは、攻撃の最終ステージにおける適切なポジショニングの取り方を解説していきます。(下図)

図2
バランス良い

相手DFが、こちらの3トップが自由にプレーできないよう密着マークしてきたとき、何の疑問も持たずに一緒に並んで立ち止まっているようではプロ失格。 

3トップは相手のマークから逃げるようにあえてゴールから遠ざかり、青丸か紫の星で示したポジショニングを取り続けることが重要です。相手が密着マークするためにさらにDFラインを押し上げてきたら、そこからさらにポジショニングを下げて、あえてゴールから遠ざかります。

相手も背後に広いスペースを空けてそこを使われるのが嫌なので、いつかはDFラインを押し上げるのをやめますが、その瞬間こちらの3トップはバイタルエリアでフリーになれます。しかもそうすることによって相手DFラインのウラが広くなり、ウラのスペースが広くなればなるほどオフサイドにならずに、相手GKに邪魔されずにパスを受けやすくなるのです。(ココ極めて重要)

「パスサッカーの基本編」で「ゴールできる確率が一番高い攻撃の形は、オフサイドにならずに味方の選手とボールを相手DFラインのウラへ送り込み、GKと一対一になることです」と言ったことを良く思い出してください。

あえて3トップがゴールから遠ざかることで、相手がDFラインを押し上げるように仕向けたのは、そういう形をつくりやすくするためです。

相手DFラインをペナルティエリアのラインから5m上げさせるだけでも、ゴールが奪えるかそうでないかの大きな違いが出てきます。それは後でわかります。

ゴールが欲しくて欲しくて焦るあまり、相手ゴールに近い方へ近い方へとポジショニングする日本人プレーヤーが大変多いのですが、それが逆にゴールから遠ざかってしまう原因なのだということに早く気づいてほしいですね。

そして3トップがバイタルエリアにポジショニングして、そこを基点にパスを出せるような態勢を整えておけば、守備側はDFラインの前後どちらのスペースを使って攻めてくるのか予測が困難になり、一層ウラヘの飛び出しが効果的にできるようになるのです。

また前回記事で指摘した、左右のウイングがピッチを横に広く使うことで攻撃に幅をもたらし、フォーメーションや選手配置のバランスを取っている点、そして一つのスペースでプレーできる選手は原則として一人であり、あえてバイタルエリアに味方が誰もいないスペースを残している点も極めて重要です。これもあとあと効いてきます。

 それではパスサッカーで相手の守備をどう崩しゴールを奪うか、その例をいくつか見ていきましょう。(下図)

図3
攻撃1

ハリルジャパンは、味方のボール保持者の前に敵選手が立ちふさがっているタイミングで、3トップが一斉にウラへ走りこむので、ボール保持者も浮き球のロングボールをワンパターンで放り込むしかなくなっています。それが攻撃が単調で効果的でない最大の理由であり、当研究所が「ウラヘ走りこむタイミングが早すぎる」と口を酸っぱくして言っていることの意味です。

そうではなくて、例えばトップ下の香川選手がバイタルエリアで味方からパスを受けるかドリブルでバイタルエリアに侵入し、3トップへグラウンダーのパスを通せる“道”が見えた瞬間が、DFラインのウラヘダイアゴナルランを始める最適のタイミングなのです。そうすることによって、相手にとって予測困難な多彩な攻撃が可能となります。

例えば図中の(1)、右ウイングが相手バックラインの一番外側からウラヘ向かってダイアゴナルランし、トップ下がそこへスルーパスを出して、ゴールを決めさせます。バルサも非常に良く使う形で、相手の左サイドバックにとって、ボール保持者のMFと自分の背後でダイアゴナルランする右ウイングを同時に視界に入れることができないため、防ぐのが非常に難しいプレーです。こういう攻めの形をつくれる日本人選手がほとんどいないのがとても残念。

(2)こちらの左ウイングが相手の右サイドバックの前からウラヘ向かってダイアゴナルランし、トップ下はそこへスルーパスを狙います。左ウイングがピッチ中央方向へ切れ込んだので、左サイドバックがオーバーラップをかけてスルーパスを受けることを狙い、攻撃に幅をつくっていることに注意。

(3)トップ下がバイタルエリア中央のスペースへボールを持って侵入してきたので、CFがそこから押し出されるようにウラヘ向かってランし、スルーパスを受けてゴールを決めます。「一つのスペースでプレーする選手は一人」という基本原則を守っているプレーとも言えます。岡崎選手、ウラヘ向かってランするベストタイミングはこれです。

スルーパスを出すとき、相手DFラインの5m後ろでボールスピードが弱まるようにパスすると、GKが前へ出てきてキャッチするより先に、味方がボールを受けてシュートできる確率が高まります。 ここで図2で示したように相手DFラインをペナルティエリアのラインより5m上げさせたことが大きな意味を持ってきます。


図4
攻撃2

右ウイングがバイタルエリア右のスペースへドリブルでカットイン、もしくはそのスペースでトップ下からパスを受けた瞬間が、残りの選手がウラヘダイアゴナルランを開始するタイミングです。攻撃の選手が一か所に密集せずバイタルエリア右のスペースをわざと空けておいたことで、右ウイングがそこで基点をつくってスルーパスを出すことができました。右ウイングがピッチ中央へカットインしたことで失われたフォーメーションのバランスは、右サイドバックがオーバーラップすることで保たれています。

ゴール前のスペースを自分たちでつぶさないように、あえて少ない人数で攻撃をかけていますが、その分一人ひとりの選手がしっかりと効果的に動かなくてはいけません。足を止めてボールホルダーを見ているだけの選手は世界で勝者になれませんし、日本代表にも必要ありません。

図5
攻撃3

図4で、右ウイングがオーバーラップした右サイドバックへ出したスルーパスが長すぎて、パスを受けたもののシュートするための角度がなかったため、右SBがクロスに切り替えた場面です。

サイドを突破されたことで、相手チームはDFラインをペナルティエリアの中まで下げざるを得なくなりますが、その瞬間DFラインの前に当研究所が「クロスの道」と呼ぶ、一本の道のようなスペースが空くことがしばしばあります。

空中戦に強いスアレスが加入してから少し変わってきましたが、メッシやイニエスタ・シャビなど背の高くない選手が多いバルサは浮き球のクロスはあまり使わず、この「クロスの道」のど真ん中にグラウンダーのパスを通してMFにシュートを狙わせることを、サイド攻撃の重要な戦術の一つとしています。

もちろん、相手DFラインとGKの間にスペースが十分あれば、そこへグラウンダーのクロスを通して、3トップの誰かがゴールへプッシュするというプレーも有効です。


ここからは、レベルをワンランクあげた攻撃戦術です。

図6
攻撃4

相手チームがコンパクトな守備ブロックをつくっているとき、相手のサイドハーフの前あたりから、MFラインとDFラインの二つのラインを同時にブチ抜く「ツーラインパス」を出し、相手のウラヘダイアゴナルランするウイングにボールを受けさせてシュートを決めるというものです。

守備側は、ボール保持者であるトップ下から一番近くにいる左ウイングへのパス(図中の(1))を予測したその裏をかくスルーパスですが、バイタルエリア中央からCFが出て行ってあえてスペースを空けておいたことで、そこにスルーパスを通すことを可能にしています。

バイタルエリア中央で攻撃の選手が密集していればいいというわけではないという例の一つですね。

バルサではイニエスタが得意としているプレーで、香川選手もTVインタビューでこのプレーを狙っていると語っていましたが、浮き球のパスではあまり効果的とは言えません。パスの受け手が直接シュートを打てる可能性が高くなるグラウンダーのスルーパスの方が何倍も価値があります。

イニエスタみたいにグラウンダーでビシッと、MFとDFの二つのラインを同時にブチ抜くスルーパスを正確に出せるようになれば、香川選手もバルサから声がかかるかもしれません。


図7
攻撃5


 次は、DFラインの前でワンツーを使って相手を崩す戦術です。

(1)トップ下が、バイタルエリア左のスペースに侵入した左ウイングへパス。

(2)パスを出したトップ下はバイタルエリア中央のスペースへ走り込み、左ウイングからのリターンパスを受けます。

(3)リターンパスを受けたトップ下は、相手DFラインの前からミドルシュートし、ゴールを決めます。

これも、あえてバイタルエリア中央のスペースを空けておき、「一つのスペースでプレーする選手は一人」という基本を守っていたからこそ成功するプレーです。

香川選手もゴールという結果が欲しいのでしょう、CFと一緒にずっとバイタルエリア中央に居ることが多いのですが、それでは3トップに質の高いパスを供給するトップ下の役目を果たす選手がいなくなり、チームがフォーメーションのバランスを失って攻撃が機能しなくなるばかりか、香川選手自身も逆に得点から遠ざかることになります。

そうなってしまうと、香川選手のような技術のあるプレーヤーをトップ下に置いておく意味がありません。

この戦術のように、ここぞという時にだけバイタルエリアに侵入して、スルーパスを出したりシュートを打つといった仕事をやり、それ以外はバイタルエリアのスペースをあえて空けておくことも必要です。


図8
攻撃6

つづいて、DFラインのウラでパスを受けるワンツーを使って相手を崩す戦術です。

(1)バイタルエリア左のスペースへ左ウイングが侵入し、トップ下からパスを受けます。

(2)パスを受けた左ウイングはバイタルエリア中央のスペースにいるセンターフォワードへパスし、DFラインのウラヘランします。

(3)オフサイドに気をつけながらCFからのリターンパスを受けた左ウイングは、GKの位置を良く見てシュート、ゴールを決めます。

これも「一つのスペースでプレーする選手は一人」という基本を守っているからこそスペースを有効活用でき、それによって相手を崩してゴールを奪うことに成功しています。

この戦術のように、CFがDFラインの前のスペースでゴールにつながる決定的なアシストができると、相手DFもそれを警戒してタイトにCFをマークするためにラインを押し上げざるを得なくなり、その結果ウラのスペースが広くなって、CFがウラヘ抜けてパスを受けシュートするプレーがやりやすくなるのです。

いつも相手のDFラインと一直線に並んで、ウラヘウラヘウラヘのマンネリでは、CFが相手DFを惑わしてゴールを奪うことはできません。レスターシティでゴール不足に悩んでいる選手にも、早くそれに気づいて欲しいですね。


図9
攻撃7

相手チームの守備ブロックが崩れ、MFのラインがDFラインに吸収されて一直線になり、ゴール前が敵味方の選手で密集状態になってしまうケースもあります。そういう場合は無理にスルーパスやワンツーを成功させようとはせず、良くコントロールされたミドルシュートでシンプルにゴールを狙った方が得策です。

バルサでもこういうシチュエーションではミドルを打ってゴールを決めるケースが多いように思います。

守備側が、DFとMFで二つのラインをつくり守備ブロックを形成する理由は、バイタルエリアのスペースをなるべく狭くして、正確なミドルシュートを打たれないようにするためです。

ですから、相手のブロックのつくり方がまずくて、守備側の選手がゴール前で一直線になっているような状況では、遠慮なくミドルシュートを打つべきです。


<グラウンダーのパスと浮き球のパスの使い分け>

パスサッカーの基本編からここまでグラウンダーのパスを使うことの重要性を何度も強調してきましたが、浮き球のパスを絶対に使ってはいけないということではありません。それにもちゃんとした使い道があります。

つまる

パスサッカーは基本的に、グラウンダーのパスを選手の足元でつないで攻撃を組み立てていくことになりますが、そればかりやっていると相手からプレスをかけられて、相手の守備ブロックがどんどんコンパクトになっていき、バイタルエリアのスペースが非常に狭くなってしまうこともあります。(上図)

相手が自陣にベタ引きでウラのスペースが初めから狭くなっている場合は使えませんが、相手がDFラインを高く保っている場合に、グラウンダーのパスをつなぎすぎて相手の守備ブロックがコンパクトになりすぎていると感じたら、相手DFラインの背後ヘ浮き球のロングボールを放り込んで、ウラヘ抜け出した3トップにそれを狙わせると、ウラを取られたくない相手DFがバックラインを下げることでバイタルエリアが再び広く空いてきます。そこで再び、相手DFラインより前でグラウンダーのパスを中心に攻撃を組み立て、これまで述べてきたような戦術で相手の守備を崩すわけです。(下図)

広げる

バルサもたまにこれをやりますが、圧倒的にグラウンダーのパスをつなぐ割合が多いからこそ「浮き球のロングによる奇襲攻撃」が効くのであって、ハリルジャパンみたいに、いつも浮き球のロングボールをウラへウラヘウラヘとやっても、相手に初めから読まれていてぜんぜんウラをかくことができません。

パスサッカーをやる場合は、グラウンダーのパスが70%で浮き球のパス30%ぐらいが、1試合における適切な割合でしょうか。

日本人選手は、浮き球のロングとなったらそればっかり、足元の細かいパスとなったらそればっかりになってしまう傾向がありますが、相手の守備ブロックがどれだけコンパクトになっているか、相手DFラインのウラのスペースが狭いのか広いのかを、視野を広く持って常に確認しておき、それを基に、今はグラウンダーのパスで攻撃を組み立てるべきときなのか、それとも浮き球のパスで奇襲をかけるべきかを判断して、パスを目的ごとに適切に使い分けることができるように、優れた戦術眼を養ってほしいです。

 浮き球のパスに関してもう一つ、図8で示したようなワンツーでDFラインを抜きたい場合、どうしてもグラウンダーのパスが出せない状況であれば、相手DFの頭を越してその背後にボールがポトリと落ちるようなチップキックの浮き球のパスで、ワンツーを完成させるというやり方も有効だと思います。グラウンダーのパスが通せるならその方がベターなのは言うまでもありませんが。

 以上、相手の守備組織を崩してゴールを奪うための、パスサッカーの攻撃戦術について見てきました。

これ以上のレベルとなると、メッシやネイマールクラスの個人技がないと厳しいかなと思うんですが、これまで解説してきた戦術はサッカーの基本スキルを組み合わせたものばかりで、日本人選手でも練習すれば実戦で十分使えるはずです。

私が監督なら、大学生チームにでもお願いして4-4の守備ブロックを自陣にベタ引きにしてもらい、前述の戦術でそれをひたすら崩してゴールを奪う練習を自分のチームにやらせます。

逆に、この程度の基本的な戦術さえこなせないようなら、W杯で上位を狙うのは難しいんじゃないでしょうか。

ザックジャパンも、パスサッカーのこのレベルの攻撃戦術さえ常にできるというわけではありませんでした。ザックジャパンはパス(ポゼッション)サッカーという戦術のせいで負けたのではありません。パスサッカーの質が悪かったから負けたのです。


つづく



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