■より高度なパスサッカー(その2)

 前回は、より高度なパスサッカーをやる上で必要不可欠な戦術である“コペルトゥーラ”によって、ボールを失ったときに相手のカウンター攻撃を浴びるリスクをできる限り低くするための
セーフティネットを構築しておくことの重要性について、見ていきました。

そこで賢明な読者の皆さんは、「常にコペルトゥーラをつくりながらパスをつないで攻撃するためには、無秩序なポジションチェンジはできない」ということに、お気づきになったはずです。

FCバルセロナに代表されるオランダ流のパスサッカーをやるチームは、両サイドバックが攻め上がるとき以外は、4-1-2-3なり4-2-3-1といったフォーメーションをなるべく維持しながらパスをつないで前進していく傾向があります。

フォーメーションを大きく崩して良いのは、ゴールを奪うために行う「攻撃の最終ステージ」に突入するときで、つまりバイタルエリアでボールを持って前を向いた選手が、相手DFラインのウラヘダイアゴナルランする味方へスルーパスを出し、その選手がそのままシュートするか、両サイド方向に抜け出した選手から中央にいる味方へグラウンダーのパスでマイナスのクロスをするか、そうした攻撃の最終局面に突入するまでは、ピッチ上の選手配置をなるべく維持しながら攻撃していくことになります。

もしポジションチェンジを行う場合は、ある選手が動くことで誰もいなくなったそのポジションを別の選手が埋めるように動くことで、フォーメーションと選手配置のバランスの維持を図ります。

わかりやすく言えば、ポジションチェンジでそのポジションにいる選手の背番号は変わっても、右ウイングやアンカーといったポジションそのものがなくなることはなく、フォーメーションやピッチ上の選手配置自体はあまり変わらないということです。

それではどうやってポジションチェンジを行うときにフォーメーションやそのバランスの維持を図るのか、カンボジア戦終盤の日本代表(下図)を使って、いくつか例をあげてみましょう。

カンボジア戦
(クリックで拡大 以下同様)



<フォーメーションのバランスの維持>

 まずタテの関係のポジションチェンジです。

pc1

吉田が右ボランチの方へ攻めあがったので、彼がボールを持っていてもいなくても、右ボランチの山口が下がって右センターバックのポジションを取ります。そして吉田をカバーリングするためにコペルトゥーラの形を取っています。(上図)


pc2

次に山口がトップ下の方向へ攻め上がったので、彼がボールを持っていてもいなくても、トップ下の香川が下がって右ボランチのポジションと入れ替わり、山口をカバーするためコペルトゥーラ。(上図)


pc3

センターフォワードの本田がボールを受けるためにトップ下の方へ下がってきたので、トップ下の香川がセンターフォワードの位置に入り、フォーメーションのバランスを取ります。(上図)

つづいて、ヨコの関係のポジションチェンジです。

pc4

相手が2トップで来たのに対し、こちらがセーフティに3人のDFでボール回しをしていたところ、左サイドバックの藤春がボールを受けて攻め上がったため、槙野が左サイドバックの位置に入り、空いた左センターバックのポジションを吉田がスライドして埋め、右センターバックのポジションにはボランチの山口が下がってくることで3バックを維持し、相手の2トップに対して数的優位を確保します。もちろん槙野は藤春をカバーリングするためコペルトゥーラ。(上図)


pc5

アタッキングサードで香川がボールを持って前を向いたとき、右サイドハーフ(ウイング)の南野が、パスを受けるためにピッチ中央方向へポジションチェンジ。センターフォワードの本田は、空いた右サイドハーフのポジションを埋めることで、右サイドの攻撃の幅を確保するとともに、敵に守備の的をしぼらせないよう、香川に複数のパスコースを用意してやります。(上図)

もし私が監督だったら、選手一人ひとりがどれだけポジションチェンジをしてもフォーメーションを崩すことなくパスをつないで、チーム全体を相手ゴールに向かって前進させることができるように、こういうポジションチェンジのトレーニングをみっちりとやります。

 なぜポジションチェンジをしても、フォーメーションそのものは維持する必要があるのか理由は二つあります。一つは質の高い守備のため、もう一つは質の高い攻撃をするためです。

まず一つ目の理由ですが前回解説したように、ボールを失ったときに相手のカウンターから失点するリスクをできる限り少なくするため、常にコペルトゥーラをつくりながらパスをつないで攻撃する必要があるからです。

ポジションチェンジによって、ボールホルダーの左右ナナメ後方をカバーリングする選手がまったくいなくなってしまうと、ボールを奪われた瞬間、相手のボール保持者へプレスをかけるのが遅れ、自由に前方へのドリブルやパスを許してしまう結果、失点のリスクが高まります。

岡田ジャパンが南アフリカW杯直前のテストマッチで守備が崩壊した原因はまさにそれでした。

岡田ジャパンは、センターバックを除くフィールドプレーヤー8人が自分の好き勝手にポジションチェンジしていたので、両サイドバックはもちろんダブルボランチまでがガンガン攻め上がって行き、相手にボールを奪われた瞬間、こちらのセンターバック2枚が敵選手4~5人の前で丸裸という、とんでもなくヤバい形になっていることもしばしばでした。

アジア予選レベルではそれでも良かったのですが、W杯の直前に本番を見据えて強豪国とのテストマッチを組んだとたん、センターバックの前のバイタルエリアや両サイドに空いた広大なスペースを相手に自由に使われることで大量失点を重ね、守備が完全崩壊。南アフリカW杯本大会では「固く守ってカウンター」という戦術への急転換を強いられることとなりました。

 ポジションチェンジをしてもなるべくフォーメーションを維持し、選手配置のバランスを取ることがなぜ重要なのか、その理由の二つ目はスペースを有効に使い、効果的な攻撃をするためです。

パスサッカーの基本編で、3人以上の敵選手に囲まれたスペースでのボールの受け方、スペースの使い方についてお話をしました。(下図)

適切


3人以上の敵選手に囲まれたスペース(図の白い部分)を「一つのスペース」と数えるようにすると、例外的な状況はあるものの、基本的に「一つのスペース」を利用してプレーする選手は「1人で十分」であり、「一つのスペース」に2人以上の味方選手が侵入してしまうと、余計な敵選手をマーカーとして引っ張ってきたり、味方の選手同士が重なることで、フリーでプレーするためのスペースを自分たちでつぶしてしまうことになります。(下図)

p01


日本代表の攻撃でしばしば見かけるのが、下の図のようなシチュエーションです。

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もうすでにセンターフォワードがいるバイタルエリアの真ん中のスペースにMFまで侵入することで、相手のボランチをマーカーとして引っ張ってきてしまい、敵味方3人の選手でフリーでプレーするためのスペースをつぶしてしまっています。

もともとザックジャパン時代にも見られたまずいスペースの使い方で、これがブラジルW杯のギリシャ戦で最後まで得点が奪えなかった原因の一つだったのですが、ハリルジャパンになってからパスサッカーの質がさらに低下しており、0-0で引き分けた埼玉スタジアムでのシンガポール戦などは、図のバイタルエリアの一つのスペースにセンターフォワードにトップ下、さらに左右ウイングまで4人もの味方選手が同時に入ってきてしまい、バイタルエリアのスペースを有効に使ってそこからゴールにつながるような攻撃をすることがまったくできませんでした。

こういう場合はすでに解説したとおり、例えば右サイドハーフの南野がバイタルエリア中央のスペースへポジションチェンジしたら、センターフォワードの本田はそのスペースからいったん出ていって南野がフリーでプレーするためのスペースを残しておいてやり、本田は右サイドハーフのポジションを埋めることで、右サイドに攻撃を幅をつくり、相手のバックラインを広げつつボール保持者の香川に複数のパスコースを用意してやることで、相手DFに攻撃を読まれにくくなり、香川はゴールにつながるようなパスを出しやすくなるというわけです。(下図)

pc5


ゴール前の重要なスペースで、選手が一か所に何人も重なったり、逆に本来いて欲しいスペースに誰もいないということがないように、ポジションチェンジをしてもフォーメーション全体のバランスを維持することがとても重要なのです。

 バイタルエリアの一つのスペースに、同時に4人もの選手がいるかと思えば、その隣のスペースには誰もいないというアンバランスなことがひんぱんに起こっているから、シンガポールやカンボジアのようなレベルの相手を崩せずに大苦戦するのであり、それに対する危機感が、私にパスサッカーについて基本から応用までの連載記事を書く決意をさせました。

日本式ポゼッションサッカーには、「効果的な攻撃あるいは守備をするために、フォーメーション全体のバランスを維持する」という思想がまったくありません。

この欠点を修正しないかぎり、シンガポールや中東レベルの相手であっても、引かれたら苦戦する可能性が高くなりますし、W杯でよりレベルの高い相手に当たったとき、例えばギリシャのように日本に1点もやらないと決意して守りを固めた相手からはもっとゴールが奪えず、決勝トーナメントへの進出は難しくなるでしょう。

日本代表はポゼッション(パス)サッカーをやったからブラジルW杯で負けたのではありません。

コペルトゥーラをつくってパスをつなぐことをせず、ポジションチェンジをしてもフォーメーション全体のバランスを維持することもせず、守備でも攻撃でも、パスサッカーの質が低かったから負けたのです。

4-1-2-3にしろ4-2-3-1にしろ、ピッチ上に選手がそのように配置されているのにはちゃんと意味があります。

いくらポジションチェンジを行ったとしても、なるべくフォーメーションそのものは維持し、選手配置のバランスを取り続けることが、ゴールを奪うための攻撃面でも、失点を防ぐ守備面でも重要なのです。

日本の育成組織でも、「ポジションチェンジは良いぞ、どんどんやれ」だけではなく、ポジションチェンジをしたら必ず別の選手がそのポジションを埋めて、攻守両面でチーム全体のバランスを維持することを教えなければなりません。

つづく



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