■より高度なパスサッカー(その1)

 前回のつづき

 2015クラブワールドカップはFCバルセロナが南米代表のリーベルプレートを圧倒して優勝を決めたばかりですが、 パスサッカーという戦術を採用しているチームで、世界で最も成功しているのはFCバルセロナであるということに、ほぼ異論はないと思います。

バルサのパスサッカーに多大なる影響を与えたのは、FIFAによって「20世紀最優秀監督」に選出されたリヌス・ミケルスであり、彼の「トータルフットボール」という戦術をプレーで表現し、のちにバルサの監督にもなったヨハン・クライフであったのは有名な話です。

スペイン・カタルーニャ地方に本拠を置くバルサですが、そのパスサッカーのルーツは国で言えばオランダ、クラブで言えばアヤックス・アムステルダムにあり、ベップ・グアルディオラやルイス・エンリケといったバルサのスペイン人選手に(引退後は指導者としても)大きな影響を与えることになります。

パスサッカーをやっているチームは世界に一つではありませんが、今のところ世界で最も組織的で、最も合理的で、なおかつ最も輝かしい成功をおさめているのはオランダ流のパスサッカーであるというのが、当研究所の結論です。

前回まではパスサッカーの基本編として、グラウンダーのパスの重要性と、それを主体にしたパスサッカーの具体的なやり方の二点について見てきました。

今回から始まる、より高度なパスサッカーをやるための応用編では、オランダ流のパスサッカー戦術を参考に、日本のサッカーにも取り入れた方が良いと当研究所が考えるものについて述べていきます。

もちろん、これまで解説してきた「パスサッカーの基本」の約束事を守った上で、これから述べる応用編の戦術を実行しなければならないのは今さら言うまでもないことです。

<セーフティ・ネットの構築>

 世界のサッカー界では、見て楽しい「スペクタクルなサッカー」と「試合に勝つためのサッカー」を両立させることは非常に困難であるという考え方が長らく支配的でした。

やはり守備的なサッカーよりも攻撃的なサッカーの方が見ていて面白いのですが、相手陣内へ攻め込む時間が長ければ長いほど、相手のカウンターを食らって失点するリスクが高まります。

バルサも攻めている時間が長い傾向にあるチームですが、リーガエスパニョーラ・チャンピオンズリーグの双方でこれまで数えきれないほどの優勝カップを獲得しており、「スペクタクルなサッカー」で観客を魅了しながら「試合に勝って結果を残す」ということを見事に両立させてきました。

「それはバルサの選手の個人技がスーパーで、めったにボールを奪われないからだ」と考える方もおられるかもしれませんが、それはバルサのサッカーの半分しか本質が見えていないと思います。

バルサは卓越した技術で、いつもやりたい放題に相手チームを攻撃しているように見えるかもしれませんが、ボールを失っても致命的なカウンター攻撃を浴びるようなリスクを減らすために、パスをつないで攻撃するのと同時に組織的なセーフティ・ネットも常に構築しているので、選手も安心して攻撃に集中することができ、圧倒的に相手を攻めたてながら失点を最小限に抑えることができているのです。

その戦術を実行するのに、メッシやネイマールのような特別な才能の持ち主として生まれてくる必要はありません。日本のサッカー選手でも普通にやれるはずのものです。

 バルサのゲームを見ていると、ボールホルダーのナナメ後ろに2人、最低でも1人の選手が、常に影のように付き従っていることに気づきます。

これがバルサが構築している「セーフティ・ネット」です。

図にすれば、下のようになります。

コペルトゥーラ
(クリックで拡大 以下同様)

この隊形自体、サッカーの守備戦術としては基本中の基本で特に目新しいものではありません。日本のサッカーファンにも「ディアゴナーレ」という単語でおなじみのグループ戦術ですね。

同じイタリア語を使うなら、コペルトゥーラ(カバーリング)という単語を使いたいと当研究所は考えているのですが、どちらを使っても意味が相手に正しく通じればOKです。

バルサがパスをつないで攻撃をするときに、常にコペルトゥーラの隊形をとる理由は二つあると思われます。

一つ目は、図のAの選手がボールを持っていて、前方へのパスコースがまったく無い場合に、BもしくはCにバックパスすることで、安全に攻撃の組立てを再構築できること。

二つ目は、今回の最重要テーマである「セーフティ・ネットの構築」のためです。

例えば、図のAの選手がボールホルダーだったときにボールを奪われた場合、BもしくはCの選手が相手のボール保持者にすみやかにプレスをかけ、前方へのパスを防ぐことで相手に有効なカウンター攻撃ができないようにするというふうにです。

あるいはBの選手がAの選手にパスをしたところ、途中で相手にボールをカットされた場合、パスの出し手であるBもしくはCの選手が相手のボール保持者にすみやかにプレスをかけに行き、前方へのパスを防ぐことでカウンター攻撃の基点をつぶすわけです。

コペルトゥーラのトライアングルの一辺は7m前後で、それ以上距離が遠くなると、ボールを奪われた時にプレスをかけに行っても間に合わなくなり、相手のカウンターを有効にする前方へのパスを許してしまう確率が高くなります。

バルサがボールを失ってもトランジション(攻守の切り替え)が恐ろしく速く、相手のボールホルダーにすぐさまプレスがかけられる秘訣は、常にコペルトゥーラの隊形をつくりながらパスを回しているからです。

パスサッカーの基本編で、パスをつないで攻撃していくときは常にトライアングルをつくれと言いましたが、ここでもトライアングルの形をつくることがキーポイントとなっているのです。

 それでは日本代表にコペルトゥーラ戦術を導入するとどうなるか、選手の動き方の一例をあげてみます。

カンボジア戦

上の図は直近のW杯アジア予選・カンボジア戦終盤の日本代表のフォーメーションですが、これを頭の中に入れながら見てください。

コ1

GK西川からパスを受けた槙野がボールを持って上がったとき、右センターバックの吉田と左サイドバックの藤春で、コペルトゥーラ(カバーリング)の隊形をつくります。もし槙野がボールを奪われたら、2人いっぺんに飛び込まず、吉田か藤春のどちらか一方がすみやかに相手のボールホルダーにプレスをかけます。できれば藤春がプレスをかけてピッチ中央寄りにいる吉田が藤春をカバーした方がベターですが、相手の選手配置によっては吉田が行った方が適切な場合もあり得ます。(上図)

コ2

槙野は前方へパスの出しどころがなかったので、いったん吉田へバックパスします。今度は吉田がボールをもってあがりますが、そのときに右サイドバックの長友は前方へ上がってしまっていたので、槙野が下がって1人でコペルトゥーラします。(上図)

コ3

吉田は左サイドバックの藤春へサイドチェンジしました。すると槙野が藤春の方へ寄り、しっかりカバーリング。(上図)

コ4

藤春が、守備的なボランチである山口へパス。これを槙野と吉田の両センターバックでがっちりカバーリングします。(上図)

コ5

山口は自分の左ナナメ前方にいる攻撃的なボランチである柏木へパス。山口はここで不用意に攻め上がらず、まず柏木をカバーリングするポジショニングを取ります。
もし左サイドで藤春が攻め上がって来ていれば、山口と藤春でコペルトゥーラをつくり、仮に山口が柏木へパスを出したときに相手にカットされたら山口自身がすぐさまプレスをかけに行くか、藤春が代わりに相手のボールホルダーに向かいます。(上図)

コ6

柏木は右ナナメ前方にいるトップ下の香川へパス。柏木と山口で香川をカバーリングするためコペルトゥーラ。(上図)

コ7

香川から左サイドハーフの原口へパス。柏木はすみやかに原口に寄って行ってカバーリングのポジショニングを取り、藤春は原口よりピッチ中央寄りに動くことで、より安全性が高まります。(上図)

コ8

原口がバイタルエリアへドリブルでカットインして、相手DFラインのウラヘダイアゴナルランする味方へスルーパスを出せば、攻撃の最終ステージに突入することになりますが、まだもうひと手間必要と感じて、右ナナメ前方いるセンターフォワードの本田へパスした場合は、原口が適度な距離を保ちつつ本田の方へ寄り、香川と一緒にコペルトゥーラの隊形を取ります。(上図)

 コペルトゥーラの全パターンの図を作って、いちいち解説するのは大変なので、右サイドの動き方は、前述の左サイドの動き方をひっくりがえして考えてください。

バルサの場合、後ろでカバーリングをしている選手が相手のボールホルダーへプレスをかけに行ったら、フィールドプレーヤー10人が組織的に連動して相手をサイドへ追い込み、なるべく相手陣内でボールを奪い返して、そこからショートカウンターをかけることを狙いますが、ボール奪取力に劣る現在の日本代表にはハードルが高い戦術かと思われます。

よって今のところは、最初の選手が相手のボール保持者にプレスをかけている間に、残りの9人がすみやかに帰陣し、まず4-4のコンパクトな守備ブロックをつくって、そこからプレスをかけてボールを奪い返すようにした方が無難です。(特に相手が個の能力で上回っている場合)

パスをつないで攻撃しながら常にコペルトゥーラの隊形を整えておくことで、相手のカウンター攻撃に対する備えを怠らず、チームとして組織的なセーフティネットを準備しておけば、パスの出し手は、自分の背後を必ずカバーしてくれるであろうチームメートを信じて、自信を持って前方へ「攻めのパス」を出すことができますし、「自分の出したパスがミスになってカウンターから失点したらどうしよう」などと余計な心配をせず、自信を持ってパスを出せるからこそ、パスを誰に出すかの決断が速く的確になるのです。(ココ、非常に重要なポイントです)

その結果、相手のプレスの動きよりもこちらのパス回しの方が速くなり、相手はプレスが空回りしてこちらのボール保持者にうかつに飛び込めなくなります。そうなればしめたもので、相手の守備が後手後手を踏む中で、こちらのパスが更に良く回るようになるという好循環に導くことができます。

もし私が監督で自分のチームの主戦術をパスサッカーにすると決めたら、すべての選手がコペルトゥーラを完璧にできるようになるまで、みっちりトレーニングしますし、バルサがやっているようなコペルトゥーラをつくらず、相手のカウンター攻撃に対して無防備なままやっているパスサッカーは、レベルが高いとは言えないと思います。

で、日本代表監督で誰が一番先にコペルトゥーラ戦術を導入するのかなと思ってずっと見ているのですが、ハリルジャパンになっても、相手のカウンターに対する組織的なセーフティネットが構築されているようにはまったく見えません。

むしろ相手にボールを奪われると、「敵のボールホルダーを誰が見るの?」と選手同士が顔を見合わせてモタモタしているうちに、敵選手がドリブルで10~20mあっという間に前進するのを許してから、ようやく大慌てで誰かがプレスをかけに行くという場面をしばしば目にします。

 ポゼッション(パス)サッカーをかかげてブラジルW杯に挑んだ日本代表がコートジボアールに負けてしまったのは、相手のカウンターに対するセーフティネットをまったく用意していなかったことが最大の原因であると個人的に考えています。

(当ブログ過去記事・勇気に欠けた日本代表、失敗を恐れて自滅)

コートジボアール戦は、本田選手の先制ゴールで幸先の良いスタートが切れたはずでした。しかしそこから日本の歯車は大きく狂っていくことになります。

日本の選手たちは先制したことで気持ちが守りに入り、極端にミスを恐れるようになります。特に自分の出したパスがミスになり、そこから相手のカウンターを浴びて失点することに対する恐怖のあまり、金縛りのような状態に陥ってしまいました。

日本のボール保持者は相手にパスをカットされないよう慎重になりすぎて、どこへパスするかさんざん迷って時間をかけているうちに、フリーだった味方にすべて相手のマークがつき、苦しまぎれにマークにつかれた味方へパスすると、フィジカルの強いコートジボアールの選手に難なくボールを奪われて逆襲を浴び、それがミスパスに対する日本の選手の恐怖をいっそう強めていきます。

こうした悪循環から、しだいにコートジボアールが日本を一方的に攻めたてる展開となり、後半ついに我慢しきれなくなって同点ゴールを浴びると、あとは逆転されるまであっという間でした。

試合後、「日本代表が負けたのはポゼッション(パス)サッカーのせいだ」という、まったく的外れな主張が日本のマスメディアの一部からあがることになりますが、彼らは質の高いパスサッカーがどのようなものであるかを見抜く目をもっていません。

コペルトゥーラ戦術のように相手のカウンター攻撃に対するセーフティネットをまったく構築していなかった日本代表は、パスサッカーのレベルが低いと言わざるを得ませんし、あれをパスサッカーと呼んだらバルサの関係者から「一緒にすんな」と怒られてしまいます。

逆に、もしあのとき日本が常にコペルトゥーラ隊形をつくりながらパスをつないで前進することで攻撃できていたら、日本の選手は自分の後ろを気にすることなく、自信をもって前方へ「攻めのパス」を出せていたでしょうし、それによってどこへパスを出すかの決断が速く的確になることで、コートジボアールのプレスを空回りさせ、日本が主導権を握って試合を優位に進め、勝利をおさめることができていたかもしれません。

ザッケローニ元監督は当時、「日本の選手は自分の後ろを気にしすぎている。後ろのことは後ろでカバーしている選手がやるから気にするな」と繰り返していたはずですが、戦術マニアの国イタリア出身の彼がコペルトゥーラを知らないはずがありませんし、どうしてああいう結果になってしまったのか今でも謎です。

ちなみに、なでしこジャパンが戦った女子W杯カナダ大会の第二戦、カメルーン戦でも同じようなことが起こっています。

カメルーンに2-0としたところまでは良かったのですが、パスがミスになってカメルーンのカウンターを食らうようになると、なでしこの選手たちは、自分のミスでボールを奪われ失点することを極度に恐れるようになり、足がパタリと止まってしまいます。

女子の選手は正直で、試合後に阪口夢穂選手は「パスをカットされてカウンターを受けはじめてから、私も含めてみんなボールを受けるのが怖くなった」と言っています。

ボール保持者はどこへパスをするか迷い、周囲の選手も足を止めて味方のボールホルダーを見ているだけで、それによってパスがまったくつながらなくなると、試合の主導権を握ったカメルーンに一方的に攻めたてられてついに失点。

男子と違ったのは、そこで何とか踏ん張れたことでしょうか。

ともかく日本式のポゼッションサッカーには、相手のカウンター攻撃に対する組織的なセーフティネットがまったくないんです。

もしW杯で勝ちたいなら、今すぐコペルトゥーラの隊形を常につくりながら、パスをつないでチームを前進させるような攻撃のしかたをトレーニングするべき!!

これがブラジルで日本が悔しすぎる負け方をして得た教訓です。

カウンターサッカーをやる場合であっても、こちらが攻めに転じたあとすぐにボールを奪い返されると、逆カウンターを浴びる可能性だってあるわけですから、ポゼッションにせよカウンターサッカーにせよ、コペルトゥーラをつくりながらパスをつないでおいて損はありません。


次回につづきます。



サッカー ブログランキングへ
↑いつもポチッと応援ありがとうございます。


(当ブログ関連記事・ポゼッションサッカー悪玉論は間違い)

(当ブログ関連記事・ポゼッションサッカー悪玉論は間違い(その2))


  

■コメント

■コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

 



管理人多忙につき、マメにレスを差し上げられません。
ゴメンナサイ。
もちろん、すべてのコメントは拝見させていただきますが、サイトポリシーに違反したものは、予告なく削除します。
悪しからずご諒承ください。

プロフィール

  • Author:スパルタク
  • FC2ブログへようこそ!

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク






   

ブログ内検索