■守備ブロックを崩す攻撃戦術

 先日のシンガポール戦で、相手に引かれるとカウンターサッカーが機能しづらくなることが改めて証明されました。

引いた相手を崩すにはパスサッカー(ポゼッションサッカー)が一つの解決策となりますが、日本代表のパスサッカーはブラジルW杯からアジアカップ2015、そして今回のシンガポール戦とほとんどレベルアップできていません。

ゴール前30mでいかに相手を崩して点を奪うか、それを自分たちの頭で考えプレーで表現するのはフットボーラーにとって最高の喜びであり、それを見て楽しむ側も、選手たちにゴール前30mでの創造性を求めたいところです。

日本人はよく「教え魔」で「教えられたがり魔」だと言われますし、その意味からもこれまであえて控えてきたのですが、次のW杯のための予選はすでにスタートしていますし、時間がもうありません。

そこで今回はやむをえず、守備ブロックをつくって引いた相手をパスサッカーでどう崩せばよいのか、日本代表のために攻撃戦術の集中講座を開きたいと思います。

ヒントにするのはFCバルセロナのそれです。

バルサも、守備を固めた相手と対戦するケースが多いのですが、それでもボカスカ点を取って勝ち続けているわけで、参考になることも多いのです。

メッシやネイマールのような天才たちが超絶個人技で崩しているから参考にならないと思われる方もいるかもしれませんが、もちろんそういうケースは多々あります。

しかし試合を見ていると、バルサは相手の守備ブロックを崩すための戦術パターンをいくつかもっていることがわかりますし、それが極めて有効に機能していることも見逃せません。

図1
悪い例
(クリックで拡大 以下同様)

 上の図は、W杯のギリシャ戦やアジアカップのUAE戦など、日本代表が引いた相手に苦戦するときの典型的なパターンですが、それはバイタルエリアにいる選手全員がゴールに背を向け、足を止めて味方のボールホルダーを見ている状態です。

特にシンガポール戦では、両サイドハーフが相手の4バックとほぼ同じ横幅しかとっておらず、攻撃に幅が欠けています。

4-2-3-1や4-1-2-3は、サイドハーフ(ウイング)がワイドに張り、それを攻めに生かすためのフォーメーションですが、これでは意味がありません。

トップ下の香川選手も相手の最終ラインまであがって一直線となり、しばしば4トップのような形になっていました。これでは攻撃に深さもなくなり、相手を崩してゴールを奪うのは難しくなります。

こうしたシチュエーションではボールを持つ柴崎・長谷部の両ボランチはパスの入れどころがなく、相手バックを背負った岡崎・香川の足元へパスを出してもバックにフィジカル負けしてボールを失うか、無理矢理スルーパスを出して4トップがそれに追いつけないかのどちらかになるケースが非常に多いですね。

図2
幅をつくる

相手の守備ブロックを崩すためには、上の図のようにサイドハーフが攻撃に幅をつくり、まず相手の4バックを横に広げなければなりません。

それでも相手がペナルティエリアの横幅から出てこなければ両サイドにスペースが空きますので、サイドハーフはそこを使って攻めれば良いですし、もし相手4バックがコンパクトな横幅を保ちながらボールサイドへスライドしてきたら、それは逆サイドに大きなスペースができていることを意味しますから、すばやくサイドチェンジして反対サイドから攻めれば良いわけです。

サイドチェンジが直接ゴールにつながらなくても、守備ブロックを左右に振りまわすことで相手を疲れさせることができれば、時間がたつにつれて守備ブロックが間延びしたりプレスが遅れ気味になります。

それがゴールへの助けになるわけで、サイドチェンジのパスはスピードと正確性が重要となります。

図3
深さをつくる

攻撃には深さをつくることも重要です。

上図のように、守備側がラインをそろえることができずジグザグの形にさせられると、ウラヘ抜けるFWをオフサイドにかけることが難しくなり、DFラインは極めて脆弱になります。

そうした状況をつくり出すためには、センターフォワードやサイドハーフがダイアゴナルに相手DFラインのウラヘ走りこんだり、逆に1人が相手バックを引き連れて味方ボールホルダーに寄る一方で、別のプレーヤーがそのスペースを利用して相手のウラヘ走りこむといった連動が必要となります。

バルサの場合、MFのシャビやイニエスタあるいはカットインしたメッシらがバイタルエリアで前を向いてボールをもったタイミングで「ブロック崩しのスイッチ」が一斉に入り、両ウイングやセンターフォワード、あるいはサイドバックがダイアゴナルランで相手DFラインのウラヘ抜け、そこへタイミング良くグラウンダーのスルーパスを出して、ゴールを決めさせます。

これが、バルサが守備ブロックを崩すときの戦術パターンの一つです。

特に、ボールホルダーへ体を向けている相手DFの死角になっているアウトサイドからウラヘ抜け出す両ウイングによるダイアゴナルランの破壊力は絶大です。(図3の右ウイングの動きがそれ)

バルサがグラウンダーのショートパスをつないで攻撃するのは、空中戦を得意としないMFあるいはFWがバイタルエリアでボールをもって前を向くというシチュエーションをつくり出すためといっても過言ではなく、味方がバイタルエリアでボールを持ち前を向いたら3トップを中心にどう動くべきかチーム全体に共通理解があるので動きに迷いが無く、よって連携プレーもスムーズに決まるのだと思います。

これを日本代表に当てはめてみましょう。

図4
良い例


まず相手バックラインの前のバイタルエリアに香川選手が走り込み、柴崎選手からのパスを半身で受けてすばやく前を向きます。

この瞬間一斉に攻撃のスイッチが入り、右サイドからダイアゴナルランした本田選手にグラウンダーでスルーパスを送り、そのままゴール対角線のファーポスト側へシュートしてそれで決まればOK。もし相手GKがセービングでボールを前へこぼしたら、宇佐美選手が詰めます。

あるいは岡崎選手がバックを引き連れながら香川選手に寄って行き、その裏にできたスペースへ向かって左サイドから宇佐美選手がダイアゴナルラン、香川選手はオフサイドに気をつけながらスルーパスを通し、宇佐美選手はファーポスト側へシュート、もし相手GKがさわって前へこぼしたら本田選手が詰めるといった具合です。

このシチュエーションをつくり出したらもうやることは決まっているのですから迷いは禁物

パスの出し手が「自分のパスがカットされてカウンターを浴びたらどうしよう」などとグズグズ迷っていたら、ダイアゴナルランした味方はみんなオフサイドポジションになってしまうか、相手DFにつかれてフリーではなくなってしまいます。

トップ下がバイタルエリアに入ったらフリーでいられる間にボランチは迷わずパスし、そのパスを受けたトップ下は相手のウラヘダイアゴナルランする味方のうち、最適と思われる1人にジャストタイミングでスルーパスを送る決断をしなければなりません。

この戦術が最も破壊力を増すのは、相手のバックが下がりながら守備をせざるをえない状況です。

よって中盤における攻撃の組み立ての段階からテンポよく、ワンタッチ・ツータッチですばやく前方へパスを入れていかなければなりません。足を止めた選手、動きを止めたボールからは良い攻撃は生まれません。

 ここまでは相手守備ブロックを中央から崩す場合ですが、今度はサイドから崩すやり方を見てきましょう。

その前に日本代表のサイド攻撃を分析します。

図5
悪い例2


日本のサイド攻撃は、上図のようにハーフにしろバックにしろサイドをタテに突破してそのまま浮き球のクロスというパターンが非常に多いですね。

そしてFWやトップ下は相手4バックの間に入ってシュートを狙うという形です。というか、ほぼこのワンパターンと言ってよいと思います。

これは決して間違いではありませんが、相手選手を抜きながら正確なクロスをあげ、それを相手DFの間にいる味方にピンポイントで合わせるというのは、難易度が高いプレーです。かなりの程度、偶然にも左右されます。

ワールドクラスのバックが相手でも空中戦に絶対の自信を持つ選手がいるわけでもなく、多くの場合、相手のGKかDFにクリアされることになりますが、柴崎・長谷部の両ボランチがペナルティエリアから遠くにいることが多いので、こぼれ球を詰めることすらできません。

これに対してバルサのサイド攻撃は、グラウンダーのクロスを多用します。 今の日本代表に当てはめてみましょう。

図6
良い例2


図4の、右サイドからダイアゴナルランした本田選手に香川選手のスルーパスが通ったあとの続きだと思ってください。

スルーパスが通ったものの相手DFラインの戻りが速く、ゴールへの角度もなかったので、本田選手(あるいはサイドバックの酒井選手)がシュート狙いからクロスへ切り替えたとします。

サイドを突破されたDF側は、相手ボールホルダーの位置つまりペナルティエリアの中までラインを下げざるを得ません。

すると相手バックラインの前に、一本の道のようなエリアが現れる瞬間があります。これを当研究所は“クロスの道”と呼んでいますが、バルサはこの道の真ん中を狙ってグラウンダーのクロスを通してきます。

それがあらかじめ分かっていてペナの境界線あたりで待っている選手(ここでは香川と柴崎)がクロスボールに向かって走り込み、相手DFが対応する時間を与えないよう、できるだけダイレクトのシュートをゴールの枠内に正確に叩き込む、というのがバルサのサイド攻撃のパターンの一つです。

もし相手がそれを防ぐためにバックラインを押し上げたら、GKとバックラインの間にクロスを通して岡崎あるいは宇佐美選手がプッシュすれば良いわけです。

ここで重要なのはグラウンダーのクロスを使うということで、今シーズンこそスアレスがいますが、メッシやイニエスタ・シャビなど、もともと空中戦が得意ではない選手が多いことがその理由でしょう。これは日本代表にも当てはまります。

グラウンダーであれば、ノートラップで正確なシュートが打ちやすいということもあります。

ちなみにこちらが守備側にまわったら、バックラインの前にすばやくMFが戻り「クロスの道」を消さないといけません。

 大学生チームなどにお願いして、4-4の守備ブロックをつくってベタ引きにしてもらい、これまで述べてきた2つの攻撃パターンを用いて相手を崩す練習をひたすら繰り返すと良いと思います。

高い技術が要求されるのは、オフサイドにならないようダイアゴナルランする味方へ正確なスルーパスを通すコンビネーションの部分と、グラウンダーのクロスボールをダイレクトかつ正確に、ゴール枠内のGKのいないところへ狙ってシュートするところです。

どの選手どのチームでもできる戦術ではありませんが、日本代表クラスの技術を持っていれば可能だと思います。

このように、こういうシチュエーションではこういうやり方で攻めるという戦術上の約束をチーム全体で共有し、それを練習で繰り返して精度を高めていけば、いざ実戦で迷いが出ることもなくなるはずです。

その上で、実際の状況に応じて臨機応変に複数の戦術パターンを使い分けたり、応用したりすれば良いわけです。

 これを見ている人で香川選手と直接コンタクトが取れる人がいるなら、すぐに教えてあげて欲しいのですが、ドルトムントでのプレーを見ていると、彼は図5のように相手ゴール前に近すぎるポジションをとってしまうことが圧倒的に多いですね。

ゴール数が伸び悩んでしまう大きな原因の一つがこれです。

得点から遠ざかりスランプに陥っている選手はゴールがより遠くに見えるのでしょう、ゴールの近くへ近くへと寄っていく習性があるように思います。

しかしゴール前3mの間接FKが案外入らないように、ゴールに近ければ得点の確率が必ずアップするというものではありません。

ゴールに近いということは相手GKにも近いということを意味します。GKも相手FWと一対一になったら距離を縮めてシュートコースを消せと教えられますよね。

実際、香川選手のシュートはどれもGK正面をついてしまい、絶好のクロスボールは彼の背後を通過するだけです。浮き球のクロスを相手DFに競り勝ち、ヘッドでゴールすることが得意な選手でもありません。

彼はドルトムントの最初のシーズンと比べ、ゴールに近すぎるんです。

そうではなくて図6のようなポジショニングを取って、自分がシュートを打つスペースを確保すべきです。

ここに早く気づかなければ、いくらドルトムントでゲームに出ても時間を無駄にするだけになってしまいます。

毎日漫然と試合や練習をこなすのではなくて、現在と過去のプレー映像を見比べながらどうすればゴールできるのか、自分の頭でたえず考えて、研究しつづける努力も欠かせません。

 というわけで、日本代表のパスサッカーをレベルアップさせるために、守備ブロックをつくって引いた相手を崩す場合に用いられる、いくつかの攻撃戦術を見てきました。

ブラジルW杯が惨敗に終わったことで、「パスサッカー(ポゼッションサッカー)のせいで日本は負けた」とか、「パスサッカーはもう終わりだ」といった声がいっせいにあがりました。

しかし、ブラジルでやった日本のサッカーは「パスサッカーのできそこない」であり、特に相手ゴール前30mの攻撃に大きな問題を抱えていて、日本代表はいつもそこで攻撃が行き詰ってしまうということをずっと感じていました。

ブラジルW杯やアジアカップ、先のシンガポール戦は大変残念な結果に終わりましたが、それは日本サッカーのレベルをアップさせるために避けて通れない試練だったのだと思います。

その試練を乗り越えるために、この記事が少しでも役立つことがあれば、当研究所としても嬉しいかぎりです。




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