■ザッケローニ監督の功罪

 (まずはじめに、コメントをくださった読者のみなさんに感謝いたします。みなさんの日本サッカーを良くしたいという情熱がひしひしと伝わってきました。こうしたサポーターがたくさんいるかぎり、日本サッカーの未来は明るいと確信しています)


 これまで2回にわたり、ブラジルW杯における日本代表の戦いぶりを総括してきましたが、4年間監督をつとめてきたザッケローニ氏の「功」と「罪」を検証し、つぎの4年間で日本サッカー界はどうすれば良いかを考えることで、このシリーズのしめくくりにしたいと思います。

 前任の岡田武史氏のあとを引き継ぎ、2011年に日本代表監督に就任したザッケローニ氏ですが、彼は日本サッカー界がようやく手に入れた、攻守において世界標準の組織戦術を選手たちに教えることのできる指導者でした。

岡田前監督は、守備の戦術をかためるのがギリギリ間に合った状態で南アフリカW杯に突入したので、固く守ってカウンターというサッカーをやるしか選択肢がありませんでした。

しかし、ザッケローニ監督が就任してから攻撃の組織戦術が日本代表に新たに導入され、アジアカップ2011で優勝してコンフェデの出場権を獲得、これまで勝ったり負けたりと苦しんできたW杯アジア予選も順調に勝利を重ねて余裕をもって首位通過するなど着実な成果をあげます。

守備についても、それまで相手が使えるスペースを限定するためにフィールドプレーヤー10人が協力して守備ブロックを形成するという概念がなかなか根付かなかった日本サッカー界に、世界標準の組織戦術を導入した彼の功績は大きかったと言えます。

さらに長友選手がインテルミラノに移籍してキャプテンを任されるようになるなど貴重な経験を積んできた過程で、ザッケローニ監督による助言や支援も相当あったことでしょう。

日本がブラジルW杯で失望させられる結果に終わったことで、まるでこの4年間がまったくの無駄であったかのように、スポーツ新聞がザックジャパンをひどい言葉で一斉に叩いていますが、ちゃんと評価すべきところは評価しなくてはいけません。

ここまでがザッケローニ監督の「功」です。

 彼が不運だったのは、長谷部・内田・吉田の各選手が大けがをし、W杯の直前に長期離脱を余儀なくされたこと、遠藤・今野両選手が所属するG大阪がW杯の前年にJ2に落ちたこともあって、両選手が高いレベルでのサッカーができなくなり、ブラジルW杯を前にして彼らの能力が下降線をたどるようになってしまったこと、そしてCSKAモスクワのギネル会長がもうけを欲張り移籍金をつりあげて交渉を長引かせた結果、本田選手のACミラン行きが遅れ、W杯の半年前という状況でミランへの適応に苦しんだ不調を彼がそのままブラジルへとひきずってしまったことです。

ザックジャパンの中心選手たちに相次いで訪れたアクシデントが、ブラジルでの日本の結果にマイナスに働いてしまったことは事実でしょう。

ただしザッケローニ氏にも問題はあって、イタリア人らしい保守的な選手起用がそうした事態を招いてしまったという面もあると思います。

W杯アジア予選が非常にうまくいったので、せっかく良い結果を出している先発メンバーをあえていじる必要性はありませんでしたし、クラブと違って代表チームはめったに集まって練習することができませんから、数か月ごとに行われるテストマッチでは、レギュラー陣がこれまで積み上げてきたサッカーを忘れないように優先的に先発起用されたことも理解できます。

しかし、ずっと控えに甘んじていてレギュラー組をまったく脅かすことのできない選手を惰性のようにいつまでも選び続けるのではなく、新顔の選手をどんどん招集してチャンスを与えたり、失敗が許されるテストマッチでもっといろいろな選手を試すべきだったと思います。

そうすれば代表選手たちの間でもっと競争をうながすことができましたし、メンバーの固定化を避け、なるべく選手層を厚くして、誰が出てもそれなりの結果が出せる日本代表をつくっていくべきでした。

本来得意でない左サイドでの香川選手の起用に最後までこだわったことも含めて、召集されるメンバーの顔ぶれとその起用法が硬直的だったこと。

これが「罪」の一つ目です。

ザッケローニ氏は自分が呼んだ選手を絶対に批判しない方でしたね。
むしろ試合の結果や内容が悪いときでも選手をかばうような発言が多かったです。

みんなの見えないところでパフォーマンスの悪い選手を監督室に呼び、こっそり注意していたのかもしれませんが、少なくとも公式会見や報道陣への受け答えなど表に出てくる場面での選手への厳しい注文というのを聞いた記憶がありません。

それはザッケローニ氏なりの紳士的な配慮だったのかもしれませんが、チームや特定の選手のプレー内容が悪いときは悪いと指摘するのも指導者の重要な役目です。

控え組も含め結果が出せない選手はどんどん入れ替えて、チーム内に厳しい競争原理を導入し、パフォーマンスが悪い選手には改善のヒントを与えつつも、悪い点は悪いとハッキリ指摘することで代表選手たちに適度なプレッシャーがかかり、メンタル面の強さが養われます。

少なくともザックジャパンはブラジルW杯でベスト16に進出するポテンシャルはあった、それができなかったのは主に選手のメンタルの弱さが原因で実力を発揮できなかったから、というのが私の評価です。

もともと日本人はプレッシャーに強い方ではないのかもしれませんが、重要な試合ほど新顔にチャンスを与えない保守的な人事と、自分が呼んだ選手をほとんど批判しないというザッケローニ氏のポリシーが、代表選手たちのメンタルの弱さを助長してしまった一つの原因ではなかったかと考えています。

 ザッケローニ氏が、最後の最後まで3-4-3システムの完成にこだわり続けたことも、「罪」の一つだったのではないでしょうか。

そのしわ寄せが、センターバックというポジションに来てしまったように思います。

当研究所は、岡田ジャパンを支えた中澤・闘莉王の両センターバックの高齢化を見すえ、ザックジャパンの発足いらいずっと、彼らの後継者育成をと訴えてきました。もちろん今年に入ってからもです。

今日から代表合宿スタート

私がセンターバックのポジションにまず求めることは「相手に点をやらないこと」です。

フィジカルの強さや読みの的確さで、相手チームが組み立てようとしている攻撃を破壊し、相手チームのもっとも危険な選手を無力化させることでゴールを与えないこと。センターバックにこれより優先順位の高い仕事はないはずです。

攻撃的なポゼッションサッカーであろうと堅守速攻型であろうと、センターバックの守備能力が高いに越したことはありません。

ザッケローニ氏はセンターバックというポジションに、どちらかといえば守備の強さよりも足元のパスによる展開力を優先的に求めていたように思います。

彼がやろうとしていた可変式の3-4-3というシステムはサイド攻撃を有効に行うため、3人のバックの特に両端の選手に高いパス展開力を求めるからです。

そのため、普段のゲームでは4-2-3-1を採用しつつも、3-4-3がいつでもやれるようにセンターバックの人選を行い、そうした基準で選ばれていたのが今野選手であり吉田選手でした。

控えのセンターバックも伊野波選手がずっと呼ばれていましたし、W杯の直前になってようやく森重選手が使われるようになりました。

ところが3-4-3システムは最後まで未完のままで終わり、足元のパスによる展開力を優先させて選ばれたセンターバックだけが残されることになります。

ブラジルW杯における失点の責任をすべてセンターバックに押しつけるのは酷というものです。

しかしコートジボアール戦での2失点は、左サイドがやぶられたことばかりが強調されますが、1点目はゴール前でヘッドしたボニーに森重選手が競り勝っていれば防ぐことは可能でしたし、2点目も吉田選手がジェルビーニョをフリーにしていなければなかったかもしれません。

コロンビア戦の1点目は今野選手が相手を倒してPKを献上し、4点目はハメス・ロドリゲスとの1対1で吉田選手が完敗しています。

私が言いたいのは、いまさら彼らの責任をあげつらおうということではなくて、「サッカーにおいて、いかにセンターバックの守備力が重要であるか」ということです。

サッカーにおいてサイドからのクロスを100%防ぐことはほぼ不可能ですし、相手のカウンター攻撃にさらされることも良くあることです。

その場合であっても、"最後の砦"であるセンターバックさえしっかりしていれば、かなりの部分で失点は防げるのです。

当研究所が口を酸っぱくしてセンターバックの強化を求めていた理由はそれです。

「自分たちがやりたい攻撃サッカーをやりぬく」と日本の選手たちが自信をもって発言していましたから、コートジボアール戦において、日本の選手がカチンコチンになって能力をまったく発揮できないまま負けてしまったのは、ザッケローニ氏も予想外のことだったでしょう。

そしてザッケローニ氏が特別の思い入れを持っていた3-4-3システムが完成せず、ブラジルで選手たちがやりたかった「相手を押し込む攻撃サッカー」ができなかったとき、センターバックの守備力の低さという弱点がモロに露呈してしまいました。

結果的にセンターバックが弱ったため、ザックジャパンには自分たちがやろうとしていた「プランA」である攻撃的サッカーができなかった場合でもコートジボアール戦を引き分けに持っていくような、最低限試合に負けないための「プランB」を用意することができませんでした。

ただ、本田選手や香川選手・岡崎選手など攻撃的なポジションの選手が欧州リーグで活躍する例がボチボチ現れ始めていますが、世界レベルの日本人センターバックはいまだ皆無です。

世界からどんなに優秀な監督を呼んだとしても、優秀な日本人センターバックがいなければどうしようもありませんから、これから日本サッカー界全体で、世界に通用するセンターバックを集中的に育てていかなければなりません。

こんどこそ絶対に失敗は許されません。

これに関連して、吉田選手をオーバーエージで2012年夏のロンドン五輪へ参加させたのは完全な失敗でした。

当研究所は、ロンドン五輪でのオーバーエージ枠で吉田選手を参加させることに強く反対していました。

日本代表、スタートダッシュに成功

ドリームチームは必要ない

しかし日本サッカー協会(JFA)が吉田選手のロンドン五輪出場を強行した結果、体を休める期間がほとんどなくなり、グロインペイン症候群を発症した彼はプレミア12-13シーズンの後半を欠場し、股関節痛を隠してコンフェデ2013に参加したことでサザンプトンのポチェティーノ監督に批判され、クロアチア代表DFのロブレンに押し出される形で13-14シーズンにおける出場機会を失ってしまいました。

日本では五輪サッカー競技の評価が異常に高くて、「準ワールドカップ」みたいな位置づけになっていますが、あくまでも年齢別の大会であり、サッカーのレベルとしてはそれほどでもありません。

吉田選手にとっても日本サッカー界全体の利益にとっても、シーズンオフにしっかり体の手入れをし、ブラジルW杯までの2年間プレミアでスアレスやアグエロ・ファンペルシー・ベンテケなんかと毎週マッチアップして経験を積むことで、センターバックとしての能力を高めるほうがよっぽど大事だったと思います。

すべてのつまづきはロンドン五輪への出場を強行して疲労蓄積からケガをしてしまったことで、プレミアにおける貴重な出場機会を失い、世界に通用するセンターバックに成長するための経験を積むことができなくなってしまいました。

それもブラジルW杯で露呈した日本センターバック陣の弱さの一因となったのであり、JFAは「物事の優先順位」をまちがえるようなことを今後一切無いようにしていただきたいです。

 最後に、ブラジルW杯において日本代表の調整が失敗したのではないかという読者さんからのご指摘がありました。

FIFAの公式データによれば、日本はグループCにおいてチーム走行距離が1位だったものの、出場32ヵ国全体では20位の317.5kmとなっています。南アフリカW杯のときは331.4km走って32ヵ国中2位でしたから、日本の「相手に走り勝つサッカー」は大きく後退したことになります。

選手が過緊張におちいると精神的な疲労が肉体的疲労につながりますから、それで他のチームより走れなくなってしまったのか、それとも従来暑さに強いと言われていた日本人選手の多くが冷涼な欧州で生活してプレーするようになったのが原因でブラジルの暑さに適応できなかったのか、それはわかりません。

その原因はJFAがこれから分析するでしょうが、湿度が低く涼しいイトゥでキャンプを行い、試合直前に蒸し暑い会場に入れば大丈夫というのがJFA側の説明でしたが、それが失敗だった可能性はあると思います。

南米のW杯予選において、ラパスやキトなど酸素の薄い高地で戦わなければならないアウエーチームが、高山病などの症状が出る前に試合を終わらせるため、キックオフ直前にスタジアム入りする例はありますが、それはあくまでも低酸素対策であって、もしこれと同じ発想で涼しいキャンプ地から高温多湿のスタジアムに直前に入ればいいと、JFAが考えていたのであれば、失敗だった可能性が十分あります。

むしろ、高温多湿の場所でキャンプして、なるべく冷房を使わないようにして普段から選手に汗をかかせ、そういう気候に慣れさせたほうが良かったのではないでしょうか。

JFAはこの問題を良く調査して、仮に試合会場が高温多湿なのに、湿度が低く涼しいキャンプ地を選んでしまったのが失敗だったとわかったら、2度とそのようなミスを繰り返さないようにしなければなりません。

 というわけで、ザッケローニ監督の「功罪」について見てきましたが最後にまとめです。

彼の「功」は、日本代表に攻守にわたって世界標準の組織戦術を植えつけることに成功したことです。

これによってアジアレベルでは頭抜けた強さを身に着けることができました。ベルギー遠征までの強化策は決して悪いものではなかったと思います。

南アフリカW杯における日本のパス成功率が32ヵ国中31位と最低レベルでしたが、ブラジルW杯のグループリーグが終わった時点で、10位にまでジャンプアップしました。

つまり南アフリカでは「専守防衛」だった日本が、ブラジルではパスで攻撃を組み立て相手陣内まで攻め込むことができるようになるまで進歩したということです。

あとは日本人選手のシュート決定力をいかに高めていくことができるかが、攻撃面における最重要強化ポイントになってきます。

「罪」の方は、彼の保守的で変化を嫌うような選手選考が日本人選手のメンタル面での弱さを助長する結果になってしまったこと、最後まで自分の思い入れの強い3-4-3システムの完成にこだわり続け、センターバックの守備力強化が後回しになってしまったことがあげられます。

私は、戦術家としてのザッケローニ氏に合格点をつけたいのですが、勝負師としてはやや弱気な人だったなと思います。

彼は、具体的な目標をかかげることを最後まで避けていましたが、目標を達成できなかった場合に批判されることを恐れていたのかもしれません。

ブラジルW杯にのぞむ日本代表メンバー発表!

もしそうであれば自分が失敗することを恐れながらチームを指揮していることになり、それはやはり弱気だと思いますし、勝者にふさわしいメンタリティではありません。

ギリシャ戦では点を取りにいかなければいけなかったのに、ザッケローニ氏は自分たちのストロングポイントを放棄してでも相手の良さを消しに行くという決断をしましたが、彼の性格的な弱気さはそういうところにもあらわれていたと思います。

日本代表、ギリシャを攻めきれず

具体的な目標をかかげろと言っても、代表戦のチケットに監督が100%確実に勝利することの保証をつけろ、もし負けた場合は監督が自腹でチケット代を返却してくれと言いたいのではありません。

勝負事ですからうまくいくこともそうでないこともありますし、1試合負けただけで監督を代えていては強化なんてできません。

私が望むことは、監督さんが「次の試合で勝利を目指す」「W杯の目標はベスト8以上」といった具合に具体的な目標を立て、代表を応援する人たちに自信を示しつつ、目標達成に向かって全力を尽くしてくれることです。

当研修所は「サッカーとは弱気で消極的なチームや選手が罰を受けるスポーツである」と繰り返してきましたが、今あらためてその言葉をかみしめています。

 次回は、2018年ロシアW杯までの4年間で、日本のサッカーをどう強化していくか、次の代表監督にふさわしいのはどういう人物かということについて考察したいと思います。



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