■日本代表、まだ足りない「勝負への厳しさ」

 日本代表のアジアカップ第二戦となった対シリア戦は2-1で日本が大会初勝利をあげました。

この試合の相手シリアは、やはり国内組を主力としクウェートやベルギーなど海外でプレーする選手が数人いる程度。

ホームでもアウェーでも日本が勝つぐらいの戦力差があると評価していましたが、2-1で日本の勝利という結果は良かったです。

アジアカップ96でも日本はシリアと対戦していますが、シリアに先制されて苦しみながら高木琢也選手(当時・広島)のゴールなどで2-1と逆転勝利した試合をつい思い出してしまいました。

この試合、同点にされてしかも一人少ない不利な状況から勝ち越し点を奪ったことは評価できますが、内容は良いとは言えないものだったと思います。

 まず試合経過を振り返りましょう。

前半は、引き分けでも十分なシリアが引きぎみで守るのに対し、勝たなければならない日本が押し込むという展開。

10分、右サイドからの内田のクロスをゴール前で完全にフリーになった前田がヘッド、しかしゴール左に外してしまいます。

18分、シリアがカウンターからワントップへロングボールを放りこみ、日本の選手がヘッドでクリアしましたがゴール前へボールがこぼれ、反応良くJ.アルフセインがシュートするも空振りで助かります。

25分過ぎぐらいから徐々にシリアの元気が無くなっていき、日本が相手にとって危険なチャンスをつくりはじめます。

34分、遠藤の左CKから競り勝った今野がヘッドするが惜しくもGK正面へ。

35分、本田のドリブルから香川がパスを受け、ゴール右へ持ちこんでから切り返しシュート! これは一旦防がれますが松井が拾って相手をブロックしながらバックパス。長谷部が正確なシュートをゴールへ流し込み日本が待望の先制点。

 後半はロッカールームで監督からカツが入ったのか、シリアが攻勢に出てきます。

6分、シリアのロングスローがバウンドしたところをハティブがシュートに行くが、GK川島が胸ではじいてCKへ逃れます。

17分、CKからディアブが強いヘディングシュートを放つも川島の正面で助かります。

26分、中盤でボールを奪われ最終ラインで4対3の危険な状況をつくられてしまいます。一旦はボールを奪い返したものの長谷部のバックパスを長友と川島が一瞬お見合い状態となり、出遅れた川島のミスキックがハティブの正面へ。

ゴール前でハティブからのパスを受けようとしたマルキを川島が倒したとして一発退場。そしてPK献上。

線審がオフサイドの旗をあげており日本の選手が猛抗議するも主審は認めず、ハティブがPKを左隅に決めてシリアにとって貴重すぎる同点弾、相手より一人少なくなってしまったこともあり日本のグループリーグ突破に黄色信号が点灯します。

一人少ないながらも死に物狂いで攻め始めた日本。

35分、今度はペナルティエリアに侵入した岡崎をシリアの選手が二人がかりで倒したとして日本がPKゲット。
本田が正面に蹴ったボールは横っ飛びしたシリアGKの両足の間を抜けていきヒヤッとさせられましたが、再び日本がリードします。

43分に強烈なシュートを西川が防いだのがシリアのラストチャンスで6分という長いロスタイムを守りきり、苦しみながらも最後まであきらめなかった日本が勝ち点3を獲得しました。

 それでは試合内容を分析していきますが、ヨルダン戦よりはいくぶん良くなったものの日本代表はまだまだ「勝負への厳しさ」「勝つためのリアリズム」に欠けていると思います。

監督始めフィジカルコンディションの不調を指摘していますが、試合内容が不安定になっている最大の要因は選手一人一人がまだ心のどこかでアジアでの勝負を甘く見ているからでしょう。

相手が「格下」であったり世界のメディアが「日本が優勝候補No.1」と騒ぎ立てたりしていることで、地に足をつけたサッカーができていないのかもしれません。

悪い意味で余裕を持ってプレーしすぎです。

南アフリカW杯におけるデンマークやカメルーンに日本がなってしまい、あの時の日本のひた向きなサッカーを今ヨルダンやシリアがやっています。

シリアがPKを獲得した時、ベンチにいたシリアの控え選手が涙を流してシュートが決まることを祈っていましたが、これに比べて日本の選手たちの心構えはどうだったでしょうか。

この試合における両チームの戦略目標の違いは、最悪引き分けでも良いシリアに対して、日本がグループリーグを突破するためには絶対に勝たなければならないというもので、実力が下とは言え相手のカウンターを警戒しながら守りを固めた相手から先にゴールしないといけないという、日本の方が相手よりも困難なことを成し遂げなければならない状況に追い込まれていました。

日本にとって、この試合は大量点を取るための試合ではなくて、是が非でも勝ち点3を確保しなければいけない試合でした。

W杯ベスト16を経験した今の代表なら、先制したあと引き過ぎる必要はありませんから普通に守備ブロックをつくってシリアの反撃をいなし、1点のリードを絶対に失わないようにリスクマネジメントしながら虎視眈々と追加点を狙うような大人のサッカーができたはずです。

それが「地に足をつけたサッカー」であり「勝利へのリアリズム」というものではないでしょうか。

しかし「格下だから大丈夫だろう」という意識があったのか、その後も高い失点リスクを冒しながら不用意に追加点を狙いに行ってしまいました。

前半終了まで時間がない中でセンターバックが攻めあがってしまったりと、間延びした陣形のまま3人ぐらいで守り7人かけて相手陣内深くまで攻めこむようなことを繰り返したことは、今の日本代表に「実戦でのしたたかさ」や「勝利へのリアリズム」が欠けていたと言わざるをえません。

選手達もミスの原因は良くわかっていると思いますが、失点の場面はレフェリーのミスジャッジうんぬん以前に、絶対に同点にさせてはいけないのに日本の最終ラインが整わない状態で4対3の危険な状況をつくられたのがまず敗因で、長谷部選手が前方へ大きくクリアしておけばリスクはもっと少なかったはずですが、相手選手が3人もプレスをかけてきている中で最終ラインでボールをつなごうとしてバックパスしたのが2番目の敗因、最悪タッチラインへ蹴り出しても良かったのですしバックパスを長友選手が主体的に処理しておけばまだ大丈夫だったはずですが、GK川島選手へボールを譲ってしまったために一瞬出遅れた川島選手のキックミスと一発退場を招いてしまったのが第3の敗因でした。

優先順位
(クリックで拡大 以下同様)

ピッチを三分割して自分達が守るゴールに1番近いゾーンである「ディフェンディング・サード」では、たった一つのミスが即失点につながりますので、シンプルで何よりも安全第一なプレーが求められます。

ましてや絶対に勝ち点3を取らなければ優勝どころかグループリーグ敗退も有り得る状況で、意味の無いハイリスクなプレーを繰り返した日本代表は、「勝負への厳しさ」がまだ足りないと思います。

 守備の組織戦術でも前回指摘したチーム陣形のタテヨコの間延びがほとんど修正されていません。

ここまで日本の守備が不安定なのはこれが最大の原因でしょう。

スカスカ

ヨルダン戦の失点シーンが象徴していますが、上図のように4バックがヨコに間延びしているため、バイタルエリアに危険なスペースを広く空けてしまっています。

これではボランチが一人抜かれると、センターバックのカバーが間に合いません。

日本の選手同士が前後左右に離れすぎていて大きなスペースが空いているために、相手がロングボールを放りこんでくる単純な攻撃でも日本の選手がクリアしたボールを相手に拾われて、2次攻撃・3次攻撃を受けてしまう危険性を大きくしています。

引いた相手から得点するためにリスクをかけなければならない時は前後の間延びは多少やむを得ないところはありますが、相手がどこであれ相手にボールを奪われたら守備への切り換えを早くして、W杯でやったように両サイドハーフが引いてきてフラットな4-4-2で守備ブロックをつくり、相手が使えるスペースを限定しなければいけません。

コンパクト


この試合のように勝ち点3が取れなければ負けに等しい、絶対に1点もやれない状況ではなおさらです。

守備のときチーム陣形が前後左右に間延びしていることはザッケローニ監督もわかっているはずですが、どうして修正しろという指示が出ないのかちょっとわかりません。

選手が自分で気がついて修正するのをあえて待っているのか、それともアジア各国を甘く見て間延びした陣形でも大丈夫だろうと油断しているのか。

どちらにせよ、ディフェンスリーダーの今野選手がリーダシップをとって、若い吉田選手や両サイドバック、さらには遠藤・長谷部の両ボランチに的確な指示を出して守備組織をまとめていかなければなりません。


昨年のW杯やテストマッチのアルゼンチン戦・韓国戦では日本の守備ブロックがまさに鉄壁を誇っていましたが、アジアカップでそれをやめてしまったのは、「格下相手にいちいち守備ブロックなんかつくっていられるか。日本は優勝候補No.1なんだ」という勝負への甘さが、やっぱり心のどこかにひそんではいないでしょうか。

こういうことはフィジカルコンディションの問題とあまり関係ないと思います。

 反面攻撃は、ヨルダン戦よりも少し良くなりましたね。

しかしシュートへの意識がまだ足りず、パスやドリブルで相手を完璧に崩しきってやろうという悪い意味で余裕がありすぎる「格上プレー」も見受けられます。

ボールを支配するものの、前半10分の前田選手のヘディングシュートから20分間ぐらい流れの中からシュートがまったく無かった時間帯があったように思いますし、相手が引いて2人も3人も待ち構えているところへ単騎ドリブルを仕掛けていってボールを失い、時間ばかり無駄にするようなシーンも目立ちました。

引いて守らなければならないようなレベルの高くないチームは、サイドからクロスが入ってくるときボールウオッチャーになりやすい傾向にあります。

サイド攻撃から鋭く曲がって落ちるクロスを上げてヘディングシュートをもっと使っても良かったのではないでしょうか。

 選手個々では、やはり岡崎選手がひたむきな泥臭いプレーでチームに活気を与えていると思います。

前田選手、本田選手、松井選手もヨルダン戦よりは少し調子があがってきたように見えます。

開始10分の前田選手のヘッドは惜しかったですね。

代表で得点していないという精神的プレッシャーがあるのか、力みすぎて頭を振りすぎてしまったようですが、同じサッカーですから難しく考えすぎず、クラブの試合でやっているように普通にシュートすればおのずと結果はついてくるでしょう。

香川選手はフィジカルの強い相手による厳しいマークに苦しみました。トップ下の方が合うのかもしれません。

 一人少ない状況で最後まであきらめず2-1で勝つという結果を出したことは良かったですが、こちらのミスからPKを与えGKが一発退場するなど試合内容、特に日本の不用意なゲーム運びが目につきました。

その最大の要因は、日本代表に「勝負への厳しさ」がまだ足りないからではないでしょうか。

球際の競り合いはまだぬるいところがありますし、こぼれ球への反応もにぶいところがあります。

この試合絶対に勝たなければいけない日本は、0-0の状態でもコーナーキックのときにボールをセットするまで時間をかけてゆっくりやるなどチームに危機感が感じられません。

悪い意味で余裕を持ちすぎています。

他と比べて日本が入ったグループBは決してレベルの高いところのようには見えません。

今はだましだましできても、厳しいグループを勝ち抜いてきて勝負勘が鋭く研ぎ澄まされた抜け目のないチームと負けたら終わりの決勝トーナメントで対戦した場合、ぬるい環境でやってきた日本代表が「格下」相手に思わぬ足元をすくわれかねません。

「格上」や「優勝候補No.1」なんていう意識はきれいさっぱり捨て去って、W杯直前に4連敗したとき、南アフリカで必死にボールを追っていたとき、自分たちがどんなことを考えてサッカーをやっていたのか、もう一度原点から自分を見つめ直して欲しいと思います。

次の対戦相手サウジは、07年アジアカップの準決勝でやられた相手です。

あの時も、1992・2000年とアジアカップ決勝で2度も日本に敗れてリベンジに燃えるサウジに対し、日本は余裕を持ちすぎて相手の攻撃に受けて立ってしまい、2度サウジにリードされて追いついたものの、3度目にリードを奪われた時には、すでに日本には追いつく時間も体力も残されていませんでした。

アジアカップにおける日本代表最強の敵は案外、選手一人一人の心の中にひそんでいるのかもしれません。

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    2011.1.13 スハイム・ビン・ハマドスタジアム(ドーハ)

 
       シリア  1  -  2  日本


   ハティブ 76'(PK)       長谷部 35’
                     本田  82’(PK)



    GK バルホウス        GK 川島

    DF アブドルダイブ      DF 内田
       ディアブ            今野
       サバグ             吉田
       ディカ              長友

    MF J.アルフサイン      MF 遠藤
      (アルアグハ 77)       長谷部
       A.アルフサイン        松井
       イスマイル          (細貝 90+)
       アヤン             本田圭
       アワド              香川
      (ハティブ 46)        (岡崎 65)

    FW アルゼノ         FW 前田
      (マルキ 64)         (西川 74)





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