■地のサッカー

 サッカー選手にはそれぞれ体に染みついたサッカースタイル、いうなれば「地のサッカー」みたいなものがあると思います。

スペインであれば、華麗なドリブルを交えた美しいパスサッカー。

ドイツなら、手堅い組織サッカーと絶対にあきらめない「ゲルマン魂」。

ブラジルなら、組織がないわけではありませんが、高い個の能力を前提として、その局面で感じ合った選手同士がからんで即興的に攻撃を創造していくサッカー。

特に、自分たちより強い相手との試合や負けている時など、苦しい状況であればあるほど、にわか仕込みの戦術なぞすっかり忘れ、たちまち「地のサッカー」が顔を出すというのが私の持論です。

 それでは日本の「地のサッカー」はどのようなものでしょうか?

私は、お正月にやっている高校サッカーのスタイルがそうだと思います。

日本代表やJリーグで活躍する選手の多くが、高校サッカーできびしい競争を勝ちぬいてきました。

今では違うスタイルの学校もボチボチ現れ始めていますが、高校サッカーのスタイルは、前線へ浮き球のロングボールを放り込む攻撃が主体です。


(クリックで拡大)

DFやボランチあたりから前線へ浮き球のロングボールを放り込み、FWがオフサイドラインの裏へ抜けそれを受けてシュート、

あるいは、ロングボールをFWなどがサイドのスペースで受けて基点をつくる、

上図には書いてありませんが、ロングボールを最前線のターゲットマンに当てて、味方にボールを落として攻めの基点にする、

というのが典型的な高校サッカースタイルではないでしょうか。

どれも、パスの出し手と受け手の二人だけがからむ単純で初歩的なものですし、日本人指導者が書いたサッカーの教科書にも、しばしばこうした攻撃方法がのっています。

 どうして高校サッカー界でこういうスタイルをとっているかといえば、高校野球で1アウトからでもバントして得点圏に走者を送るのと一緒で、一回でも負けたら終わりのトーナメント戦では、中盤で細かくつないだパスをカットされてカウンターから失点したくない、それが試合の勝敗を決める決勝点になるのが怖い、という消極的な考え方が強いからだと思います。

 それでは、こうした「日本の地のスタイル」が世界で通用するか?と言えば、残念ながら答えはNOでしょう。

浮き球のロングボールを多用する攻撃の最大の弱点は、パスを受ける地点がDF側に容易にわかってしまうということです。

浮き球のパスは必ず地球の引力に引かれて落下しますから、そこがパスを受ける地点です。

よってDFはボールが空中にある間に落下地点を予測し、当然そこへポジショニング修正をします。

そうなれば、よほど広いスペースでもないかぎり、DF視点で言いかえればDF側のポジション修正が間に合わないほど遠い場所でパスを受けない限り、パスを受ける味方とDF側との個人能力の勝負となり、それに負けた方がボールを失います。

つまり、浮き球のロングボールを多用する攻撃は、個の能力とくにフィジカル能力が相手より強くないと、多くの場合通用しません。

 高校サッカーのように、フィジカル能力であまり差がない日本人選手同士でこうしたスタイルをやっている分には問題はないでしょう。そして日本代表やJリーグで活躍する日本人選手は、こうした個の勝負で勝ち残ってきた選手たちです。

しかし、世界レベルで見た場合、日本人選手のフィジカル能力はあまり高い方ではありませんし、技術面でも南米選手にはまだ劣ります。

残念ながら浮き球のロングボールを多用する「日本の地のサッカー」は、世界に出ると行きづまってしまうのです。

 市立船橋高校の名監督・布啓一郎さんが、2004年ごろU-17日本代表の監督をやっていたことがありましたが、そこでやっていたのがまさしく「日本の地のサッカー」である高校サッカースタイルでした。

藤枝で行われたU-17アジア選手権の日本対北朝鮮戦のテレビ中継を当時見ましたが、正直こりゃだめだなと思いました。

日本の単調なロングボール攻撃は、フィジカルが強い北朝鮮DFにことごとく跳ね返されて攻めの糸口がみつからず、逆にソ連にルーツを持つ北朝鮮のパスサッカーにゲームを支配されて苦しい展開でした。

この試合は何とかドローに持ちこんだものの、続くタイ戦に敗れて結局グループリーグ敗退。有利な日本開催にもかかわらずFIFA U-17世界選手権大会の出場権を失ってしまいました。

 ジーコジャパンの場合、「日本人が自分の頭で考えて正解を導き出せば、すごい進歩になる」という方針のもと、当時のジーコ監督はほとんど自由放任主義だったので、ジーコジャパンはブラジルスタイルではなく、事実上、日本人の、日本人による、日本人のためのサッカーでした。

そしてワールドカップという厳しい試合において顔を出したのが、やはり「日本の地のサッカー」でした。

初戦のオーストラリア戦は、フィジカルが圧倒的に強い相手に浮き球のロングボールを多用する攻撃が通用せず、ほとんどの時間ゲームを支配されてしまいました。

交通事故のような相手GKのミスで先制したものの、試合終了間際にオーストラリアのパワープレーからダムが決壊するように日本は大敗しました。

当ブログ関連記事・オーストラリア戦・傾向と対策

 誤解のないように言えば、「日本の地のサッカー」を絶対にやってはいけないと言っているわけではありません。

前線へ浮き球のロングボールを放り込み、FWがオフサイドラインの裏へ抜けそれを受ける、といった攻撃はサッカーの基本と言えます。

問題なのは攻めが単調になってしまうことであり、ロングの放り込みが通用しない相手の場合、代わりの攻撃オプションが用意されていないことです。

浮き球のロングボールを放り込み、FWがオフサイドラインの裏へ抜けそれを受けるといった攻撃は、やる方にとっては簡単かつ初歩的なので、当然相手DFも一番警戒しています。

相手のレベルが高ければ高いほど、初歩的な攻撃は通用しなくなるでしょう。

 また、こうした攻撃ばかりやること自体が、別の攻撃オプションを用意できなくなる最大の原因となってしまうことも深刻な問題です。

浮き球のロングボールを前線へ放り込む攻撃ばかりをやる弊害を、パスを受ける方の選手から見ていくと、

1.FWがオフサイドラインの裏へ抜けてパスを受けようとする動きばかりをしてしまう。

2.パスの出し手が、浮き球のパスを出すなりドリブルで相手をかわすなり、個人で局面を打開するまでその場で待ってしまい、その間パスの受け手がプレーに関与しない「死に駒」となってしまう。

3.浮き球のパスは、パスの出し手と受け手を結ぶ直線上に敵選手がいても、敵選手の頭上を超えてパスを出すことができるので、パスの受け手が自分からポジショニング修正をしてグラウンダーのパスを受けよう、味方のボール保持者をサポートして複数のパスコースを用意してあげようとする習慣が身につかない。


 次にパスの出し手の面から見た弊害は、

1.パスの出し手は、ボールを受けたらルックアップしてオフサイドラインの裏へ抜け出そうとする味方を一生懸命探そうとするため、どうしてもボールの持ちすぎにつながりやすい。

そのため相手チームにマーク修正の時間を与えることになり、それから方針転換してグラウンダーのショートパスで相手を崩す攻撃をやろうとしても、もともとパスの受け手にボール保持者へのサポート意識が乏しいのでフリーの味方がいなくなっている。やはりロングの浮き球を前線に放り込むか、意味のない横パス・バックパスに逃げるしかなくなる。

このためパスの出し手は、浮き球のロングパスの精度を極限まで高めようとし、そのことが余計、浮き球のロングパス以外の攻撃オプションを持てない原因となっていく。

2.パスの出し手はパスをしたあとその場で足を止めて、パスの受け手のプレーを見てしまう。
これが習慣になってしまうと、浮き球のロングパスの場合はもちろんショートパスを出したときでもその場で足を止めてゲームウオッチャーになってしまい、ワンツーやオーバーラップのようにパスの受け手から再び自分がパスをもらって相手を崩しシュートするような、より高度な攻撃能力が身につかない。

3.浮き球のパスを相手DFの裏へ出す場合、オフサイドにならないように注意すること以外あまり制約がない。よって、様々な制約がある、複数の敵選手に囲まれた狭いスペースにグラウンダーのパスを出す場合に必要とされる、高度な判断力がなかなか身につかない。


以上のような理由から、浮き球のロングボール攻撃ばかりしていると、パスの出し手と受け手の二人だけでやるような初歩的なレベルのサッカーからなかなか脱出することができず、別の攻撃オプションを持つことができない原因ともなります。

人もボールも動いてスムーズに中盤の攻撃を組み立て、ショートパスに2人3人とからんで相手の最終ラインを崩していくような高度な攻撃をやるのも困難です。

こうしたサッカーではパスの出し手(使う方)とパスの受け手(使われる方)の仕事が固定化される傾向があり、中盤における攻守のサポート・チャンスメーク・ゴールゲットと、様々な仕事を高度なレベルでこなすポリバレントな選手が生まれにくいという問題点もあります。

 高校サッカーで長年こうしたスタイルが主流だった弊害はとても大きかったと思います。

日本のユース世代の強化がはかどっていない理由として、大切な時期に受験に時間をとられることなどがあげられていますが、高校で主流となっているサッカースタイルも原因なのではないでしょうか。

大人になってから、例えば西野監督率いるガンバ大阪やフィンケ監督率いる浦和に入団して、改めてショートパスのつなぎ方を勉強しなおすというのはとても非効率ですし、世界の強豪国と比べて遅すぎるのではないでしょうか。

スペインやブラジル、オランダなどの強豪国は、ユースチームでもA代表とほとんど同じスタイルのサッカー、大人のサッカーをしてくるのとは対照的です。

 オシム氏が種をまき、岡田さんが引き継いだ日本代表の「人とボールが動くサッカー」ですが、中盤の組み立てまでは良くても、アタッキングサードに侵入して敵ゴール前のいわゆるバイタルエリアまでくると攻撃のアイデアに乏しく、どうしても攻めがつまってしまうのは、自分たちの体に染みついた「日本の地のサッカー」が大きく影響していると思います。

日本のサッカーが世界で大きく飛躍するためには、もっとレベルの高いサッカーを、選手の体に染みついていて無意識にでもやることできる「日本の地のサッカー」にしていく必要があるでしょう。




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