■2015年12月

■より高度なパスサッカー(その2)

 前回は、より高度なパスサッカーをやる上で必要不可欠な戦術である“コペルトゥーラ”によって、ボールを失ったときに相手のカウンター攻撃を浴びるリスクをできる限り低くするための
セーフティネットを構築しておくことの重要性について、見ていきました。

そこで賢明な読者の皆さんは、「常にコペルトゥーラをつくりながらパスをつないで攻撃するためには、無秩序なポジションチェンジはできない」ということに、お気づきになったはずです。

FCバルセロナに代表されるオランダ流のパスサッカーをやるチームは、両サイドバックが攻め上がるとき以外は、4-1-2-3なり4-2-3-1といったフォーメーションをなるべく維持しながらパスをつないで前進していく傾向があります。

フォーメーションを大きく崩して良いのは、ゴールを奪うために行う「攻撃の最終ステージ」に突入するときで、つまりバイタルエリアでボールを持って前を向いた選手が、相手DFラインのウラヘダイアゴナルランする味方へスルーパスを出し、その選手がそのままシュートするか、両サイド方向に抜け出した選手から中央にいる味方へグラウンダーのパスでマイナスのクロスをするか、そうした攻撃の最終局面に突入するまでは、ピッチ上の選手配置をなるべく維持しながら攻撃していくことになります。

もしポジションチェンジを行う場合は、ある選手が動くことで誰もいなくなったそのポジションを別の選手が埋めるように動くことで、フォーメーションと選手配置のバランスの維持を図ります。

わかりやすく言えば、ポジションチェンジでそのポジションにいる選手の背番号は変わっても、右ウイングやアンカーといったポジションそのものがなくなることはなく、フォーメーションやピッチ上の選手配置自体はあまり変わらないということです。

それではどうやってポジションチェンジを行うときにフォーメーションやそのバランスの維持を図るのか、カンボジア戦終盤の日本代表(下図)を使って、いくつか例をあげてみましょう。

カンボジア戦
(クリックで拡大 以下同様)



<フォーメーションのバランスの維持>

 まずタテの関係のポジションチェンジです。

pc1

吉田が右ボランチの方へ攻めあがったので、彼がボールを持っていてもいなくても、右ボランチの山口が下がって右センターバックのポジションを取ります。そして吉田をカバーリングするためにコペルトゥーラの形を取っています。(上図)


pc2

次に山口がトップ下の方向へ攻め上がったので、彼がボールを持っていてもいなくても、トップ下の香川が下がって右ボランチのポジションと入れ替わり、山口をカバーするためコペルトゥーラ。(上図)


pc3

センターフォワードの本田がボールを受けるためにトップ下の方へ下がってきたので、トップ下の香川がセンターフォワードの位置に入り、フォーメーションのバランスを取ります。(上図)

つづいて、ヨコの関係のポジションチェンジです。

pc4

相手が2トップで来たのに対し、こちらがセーフティに3人のDFでボール回しをしていたところ、左サイドバックの藤春がボールを受けて攻め上がったため、槙野が左サイドバックの位置に入り、空いた左センターバックのポジションを吉田がスライドして埋め、右センターバックのポジションにはボランチの山口が下がってくることで3バックを維持し、相手の2トップに対して数的優位を確保します。もちろん槙野は藤春をカバーリングするためコペルトゥーラ。(上図)


pc5

アタッキングサードで香川がボールを持って前を向いたとき、右サイドハーフ(ウイング)の南野が、パスを受けるためにピッチ中央方向へポジションチェンジ。センターフォワードの本田は、空いた右サイドハーフのポジションを埋めることで、右サイドの攻撃の幅を確保するとともに、敵に守備の的をしぼらせないよう、香川に複数のパスコースを用意してやります。(上図)

もし私が監督だったら、選手一人ひとりがどれだけポジションチェンジをしてもフォーメーションを崩すことなくパスをつないで、チーム全体を相手ゴールに向かって前進させることができるように、こういうポジションチェンジのトレーニングをみっちりとやります。

 なぜポジションチェンジをしても、フォーメーションそのものは維持する必要があるのか理由は二つあります。一つは質の高い守備のため、もう一つは質の高い攻撃をするためです。

まず一つ目の理由ですが前回解説したように、ボールを失ったときに相手のカウンターから失点するリスクをできる限り少なくするため、常にコペルトゥーラをつくりながらパスをつないで攻撃する必要があるからです。

ポジションチェンジによって、ボールホルダーの左右ナナメ後方をカバーリングする選手がまったくいなくなってしまうと、ボールを奪われた瞬間、相手のボール保持者へプレスをかけるのが遅れ、自由に前方へのドリブルやパスを許してしまう結果、失点のリスクが高まります。

岡田ジャパンが南アフリカW杯直前のテストマッチで守備が崩壊した原因はまさにそれでした。

岡田ジャパンは、センターバックを除くフィールドプレーヤー8人が自分の好き勝手にポジションチェンジしていたので、両サイドバックはもちろんダブルボランチまでがガンガン攻め上がって行き、相手にボールを奪われた瞬間、こちらのセンターバック2枚が敵選手4~5人の前で丸裸という、とんでもなくヤバい形になっていることもしばしばでした。

アジア予選レベルではそれでも良かったのですが、W杯の直前に本番を見据えて強豪国とのテストマッチを組んだとたん、センターバックの前のバイタルエリアや両サイドに空いた広大なスペースを相手に自由に使われることで大量失点を重ね、守備が完全崩壊。南アフリカW杯本大会では「固く守ってカウンター」という戦術への急転換を強いられることとなりました。

 ポジションチェンジをしてもなるべくフォーメーションを維持し、選手配置のバランスを取ることがなぜ重要なのか、その理由の二つ目はスペースを有効に使い、効果的な攻撃をするためです。

パスサッカーの基本編で、3人以上の敵選手に囲まれたスペースでのボールの受け方、スペースの使い方についてお話をしました。(下図)

適切


3人以上の敵選手に囲まれたスペース(図の白い部分)を「一つのスペース」と数えるようにすると、例外的な状況はあるものの、基本的に「一つのスペース」を利用してプレーする選手は「1人で十分」であり、「一つのスペース」に2人以上の味方選手が侵入してしまうと、余計な敵選手をマーカーとして引っ張ってきたり、味方の選手同士が重なることで、フリーでプレーするためのスペースを自分たちでつぶしてしまうことになります。(下図)

p01


日本代表の攻撃でしばしば見かけるのが、下の図のようなシチュエーションです。

ng

もうすでにセンターフォワードがいるバイタルエリアの真ん中のスペースにMFまで侵入することで、相手のボランチをマーカーとして引っ張ってきてしまい、敵味方3人の選手でフリーでプレーするためのスペースをつぶしてしまっています。

もともとザックジャパン時代にも見られたまずいスペースの使い方で、これがブラジルW杯のギリシャ戦で最後まで得点が奪えなかった原因の一つだったのですが、ハリルジャパンになってからパスサッカーの質がさらに低下しており、0-0で引き分けた埼玉スタジアムでのシンガポール戦などは、図のバイタルエリアの一つのスペースにセンターフォワードにトップ下、さらに左右ウイングまで4人もの味方選手が同時に入ってきてしまい、バイタルエリアのスペースを有効に使ってそこからゴールにつながるような攻撃をすることがまったくできませんでした。

こういう場合はすでに解説したとおり、例えば右サイドハーフの南野がバイタルエリア中央のスペースへポジションチェンジしたら、センターフォワードの本田はそのスペースからいったん出ていって南野がフリーでプレーするためのスペースを残しておいてやり、本田は右サイドハーフのポジションを埋めることで、右サイドに攻撃を幅をつくり、相手のバックラインを広げつつボール保持者の香川に複数のパスコースを用意してやることで、相手DFに攻撃を読まれにくくなり、香川はゴールにつながるようなパスを出しやすくなるというわけです。(下図)

pc5


ゴール前の重要なスペースで、選手が一か所に何人も重なったり、逆に本来いて欲しいスペースに誰もいないということがないように、ポジションチェンジをしてもフォーメーション全体のバランスを維持することがとても重要なのです。

 バイタルエリアの一つのスペースに、同時に4人もの選手がいるかと思えば、その隣のスペースには誰もいないというアンバランスなことがひんぱんに起こっているから、シンガポールやカンボジアのようなレベルの相手を崩せずに大苦戦するのであり、それに対する危機感が、私にパスサッカーについて基本から応用までの連載記事を書く決意をさせました。

日本式ポゼッションサッカーには、「効果的な攻撃あるいは守備をするために、フォーメーション全体のバランスを維持する」という思想がまったくありません。

この欠点を修正しないかぎり、シンガポールや中東レベルの相手であっても、引かれたら苦戦する可能性が高くなりますし、W杯でよりレベルの高い相手に当たったとき、例えばギリシャのように日本に1点もやらないと決意して守りを固めた相手からはもっとゴールが奪えず、決勝トーナメントへの進出は難しくなるでしょう。

日本代表はポゼッション(パス)サッカーをやったからブラジルW杯で負けたのではありません。

コペルトゥーラをつくってパスをつなぐことをせず、ポジションチェンジをしてもフォーメーション全体のバランスを維持することもせず、守備でも攻撃でも、パスサッカーの質が低かったから負けたのです。

4-1-2-3にしろ4-2-3-1にしろ、ピッチ上に選手がそのように配置されているのにはちゃんと意味があります。

いくらポジションチェンジを行ったとしても、なるべくフォーメーションそのものは維持し、選手配置のバランスを取り続けることが、ゴールを奪うための攻撃面でも、失点を防ぐ守備面でも重要なのです。

日本の育成組織でも、「ポジションチェンジは良いぞ、どんどんやれ」だけではなく、ポジションチェンジをしたら必ず別の選手がそのポジションを埋めて、攻守両面でチーム全体のバランスを維持することを教えなければなりません。

つづく



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■より高度なパスサッカー(その1)

 前回のつづき

 2015クラブワールドカップはFCバルセロナが南米代表のリーベルプレートを圧倒して優勝を決めたばかりですが、 パスサッカーという戦術を採用しているチームで、世界で最も成功しているのはFCバルセロナであるということに、ほぼ異論はないと思います。

バルサのパスサッカーに多大なる影響を与えたのは、FIFAによって「20世紀最優秀監督」に選出されたリヌス・ミケルスであり、彼の「トータルフットボール」という戦術をプレーで表現し、のちにバルサの監督にもなったヨハン・クライフであったのは有名な話です。

スペイン・カタルーニャ地方に本拠を置くバルサですが、そのパスサッカーのルーツは国で言えばオランダ、クラブで言えばアヤックス・アムステルダムにあり、ベップ・グアルディオラやルイス・エンリケといったバルサのスペイン人選手に(引退後は指導者としても)大きな影響を与えることになります。

パスサッカーをやっているチームは世界に一つではありませんが、今のところ世界で最も組織的で、最も合理的で、なおかつ最も輝かしい成功をおさめているのはオランダ流のパスサッカーであるというのが、当研究所の結論です。

前回まではパスサッカーの基本編として、グラウンダーのパスの重要性と、それを主体にしたパスサッカーの具体的なやり方の二点について見てきました。

今回から始まる、より高度なパスサッカーをやるための応用編では、オランダ流のパスサッカー戦術を参考に、日本のサッカーにも取り入れた方が良いと当研究所が考えるものについて述べていきます。

もちろん、これまで解説してきた「パスサッカーの基本」の約束事を守った上で、これから述べる応用編の戦術を実行しなければならないのは今さら言うまでもないことです。

<セーフティ・ネットの構築>

 世界のサッカー界では、見て楽しい「スペクタクルなサッカー」と「試合に勝つためのサッカー」を両立させることは非常に困難であるという考え方が長らく支配的でした。

やはり守備的なサッカーよりも攻撃的なサッカーの方が見ていて面白いのですが、相手陣内へ攻め込む時間が長ければ長いほど、相手のカウンターを食らって失点するリスクが高まります。

バルサも攻めている時間が長い傾向にあるチームですが、リーガエスパニョーラ・チャンピオンズリーグの双方でこれまで数えきれないほどの優勝カップを獲得しており、「スペクタクルなサッカー」で観客を魅了しながら「試合に勝って結果を残す」ということを見事に両立させてきました。

「それはバルサの選手の個人技がスーパーで、めったにボールを奪われないからだ」と考える方もおられるかもしれませんが、それはバルサのサッカーの半分しか本質が見えていないと思います。

バルサは卓越した技術で、いつもやりたい放題に相手チームを攻撃しているように見えるかもしれませんが、ボールを失っても致命的なカウンター攻撃を浴びるようなリスクを減らすために、パスをつないで攻撃するのと同時に組織的なセーフティ・ネットも常に構築しているので、選手も安心して攻撃に集中することができ、圧倒的に相手を攻めたてながら失点を最小限に抑えることができているのです。

その戦術を実行するのに、メッシやネイマールのような特別な才能の持ち主として生まれてくる必要はありません。日本のサッカー選手でも普通にやれるはずのものです。

 バルサのゲームを見ていると、ボールホルダーのナナメ後ろに2人、最低でも1人の選手が、常に影のように付き従っていることに気づきます。

これがバルサが構築している「セーフティ・ネット」です。

図にすれば、下のようになります。

コペルトゥーラ
(クリックで拡大 以下同様)

この隊形自体、サッカーの守備戦術としては基本中の基本で特に目新しいものではありません。日本のサッカーファンにも「ディアゴナーレ」という単語でおなじみのグループ戦術ですね。

同じイタリア語を使うなら、コペルトゥーラ(カバーリング)という単語を使いたいと当研究所は考えているのですが、どちらを使っても意味が相手に正しく通じればOKです。

バルサがパスをつないで攻撃をするときに、常にコペルトゥーラの隊形をとる理由は二つあると思われます。

一つ目は、図のAの選手がボールを持っていて、前方へのパスコースがまったく無い場合に、BもしくはCにバックパスすることで、安全に攻撃の組立てを再構築できること。

二つ目は、今回の最重要テーマである「セーフティ・ネットの構築」のためです。

例えば、図のAの選手がボールホルダーだったときにボールを奪われた場合、BもしくはCの選手が相手のボール保持者にすみやかにプレスをかけ、前方へのパスを防ぐことで相手に有効なカウンター攻撃ができないようにするというふうにです。

あるいはBの選手がAの選手にパスをしたところ、途中で相手にボールをカットされた場合、パスの出し手であるBもしくはCの選手が相手のボール保持者にすみやかにプレスをかけに行き、前方へのパスを防ぐことでカウンター攻撃の基点をつぶすわけです。

コペルトゥーラのトライアングルの一辺は7m前後で、それ以上距離が遠くなると、ボールを奪われた時にプレスをかけに行っても間に合わなくなり、相手のカウンターを有効にする前方へのパスを許してしまう確率が高くなります。

バルサがボールを失ってもトランジション(攻守の切り替え)が恐ろしく速く、相手のボールホルダーにすぐさまプレスがかけられる秘訣は、常にコペルトゥーラの隊形をつくりながらパスを回しているからです。

パスサッカーの基本編で、パスをつないで攻撃していくときは常にトライアングルをつくれと言いましたが、ここでもトライアングルの形をつくることがキーポイントとなっているのです。

 それでは日本代表にコペルトゥーラ戦術を導入するとどうなるか、選手の動き方の一例をあげてみます。

カンボジア戦

上の図は直近のW杯アジア予選・カンボジア戦終盤の日本代表のフォーメーションですが、これを頭の中に入れながら見てください。

コ1

GK西川からパスを受けた槙野がボールを持って上がったとき、右センターバックの吉田と左サイドバックの藤春で、コペルトゥーラ(カバーリング)の隊形をつくります。もし槙野がボールを奪われたら、2人いっぺんに飛び込まず、吉田か藤春のどちらか一方がすみやかに相手のボールホルダーにプレスをかけます。できれば藤春がプレスをかけてピッチ中央寄りにいる吉田が藤春をカバーした方がベターですが、相手の選手配置によっては吉田が行った方が適切な場合もあり得ます。(上図)

コ2

槙野は前方へパスの出しどころがなかったので、いったん吉田へバックパスします。今度は吉田がボールをもってあがりますが、そのときに右サイドバックの長友は前方へ上がってしまっていたので、槙野が下がって1人でコペルトゥーラします。(上図)

コ3

吉田は左サイドバックの藤春へサイドチェンジしました。すると槙野が藤春の方へ寄り、しっかりカバーリング。(上図)

コ4

藤春が、守備的なボランチである山口へパス。これを槙野と吉田の両センターバックでがっちりカバーリングします。(上図)

コ5

山口は自分の左ナナメ前方にいる攻撃的なボランチである柏木へパス。山口はここで不用意に攻め上がらず、まず柏木をカバーリングするポジショニングを取ります。
もし左サイドで藤春が攻め上がって来ていれば、山口と藤春でコペルトゥーラをつくり、仮に山口が柏木へパスを出したときに相手にカットされたら山口自身がすぐさまプレスをかけに行くか、藤春が代わりに相手のボールホルダーに向かいます。(上図)

コ6

柏木は右ナナメ前方にいるトップ下の香川へパス。柏木と山口で香川をカバーリングするためコペルトゥーラ。(上図)

コ7

香川から左サイドハーフの原口へパス。柏木はすみやかに原口に寄って行ってカバーリングのポジショニングを取り、藤春は原口よりピッチ中央寄りに動くことで、より安全性が高まります。(上図)

コ8

原口がバイタルエリアへドリブルでカットインして、相手DFラインのウラヘダイアゴナルランする味方へスルーパスを出せば、攻撃の最終ステージに突入することになりますが、まだもうひと手間必要と感じて、右ナナメ前方いるセンターフォワードの本田へパスした場合は、原口が適度な距離を保ちつつ本田の方へ寄り、香川と一緒にコペルトゥーラの隊形を取ります。(上図)

 コペルトゥーラの全パターンの図を作って、いちいち解説するのは大変なので、右サイドの動き方は、前述の左サイドの動き方をひっくりがえして考えてください。

バルサの場合、後ろでカバーリングをしている選手が相手のボールホルダーへプレスをかけに行ったら、フィールドプレーヤー10人が組織的に連動して相手をサイドへ追い込み、なるべく相手陣内でボールを奪い返して、そこからショートカウンターをかけることを狙いますが、ボール奪取力に劣る現在の日本代表にはハードルが高い戦術かと思われます。

よって今のところは、最初の選手が相手のボール保持者にプレスをかけている間に、残りの9人がすみやかに帰陣し、まず4-4のコンパクトな守備ブロックをつくって、そこからプレスをかけてボールを奪い返すようにした方が無難です。(特に相手が個の能力で上回っている場合)

パスをつないで攻撃しながら常にコペルトゥーラの隊形を整えておくことで、相手のカウンター攻撃に対する備えを怠らず、チームとして組織的なセーフティネットを準備しておけば、パスの出し手は、自分の背後を必ずカバーしてくれるであろうチームメートを信じて、自信を持って前方へ「攻めのパス」を出すことができますし、「自分の出したパスがミスになってカウンターから失点したらどうしよう」などと余計な心配をせず、自信を持ってパスを出せるからこそ、パスを誰に出すかの決断が速く的確になるのです。(ココ、非常に重要なポイントです)

その結果、相手のプレスの動きよりもこちらのパス回しの方が速くなり、相手はプレスが空回りしてこちらのボール保持者にうかつに飛び込めなくなります。そうなればしめたもので、相手の守備が後手後手を踏む中で、こちらのパスが更に良く回るようになるという好循環に導くことができます。

もし私が監督で自分のチームの主戦術をパスサッカーにすると決めたら、すべての選手がコペルトゥーラを完璧にできるようになるまで、みっちりトレーニングしますし、バルサがやっているようなコペルトゥーラをつくらず、相手のカウンター攻撃に対して無防備なままやっているパスサッカーは、レベルが高いとは言えないと思います。

で、日本代表監督で誰が一番先にコペルトゥーラ戦術を導入するのかなと思ってずっと見ているのですが、ハリルジャパンになっても、相手のカウンターに対する組織的なセーフティネットが構築されているようにはまったく見えません。

むしろ相手にボールを奪われると、「敵のボールホルダーを誰が見るの?」と選手同士が顔を見合わせてモタモタしているうちに、敵選手がドリブルで10~20mあっという間に前進するのを許してから、ようやく大慌てで誰かがプレスをかけに行くという場面をしばしば目にします。

 ポゼッション(パス)サッカーをかかげてブラジルW杯に挑んだ日本代表がコートジボアールに負けてしまったのは、相手のカウンターに対するセーフティネットをまったく用意していなかったことが最大の原因であると個人的に考えています。

(当ブログ過去記事・勇気に欠けた日本代表、失敗を恐れて自滅)

コートジボアール戦は、本田選手の先制ゴールで幸先の良いスタートが切れたはずでした。しかしそこから日本の歯車は大きく狂っていくことになります。

日本の選手たちは先制したことで気持ちが守りに入り、極端にミスを恐れるようになります。特に自分の出したパスがミスになり、そこから相手のカウンターを浴びて失点することに対する恐怖のあまり、金縛りのような状態に陥ってしまいました。

日本のボール保持者は相手にパスをカットされないよう慎重になりすぎて、どこへパスするかさんざん迷って時間をかけているうちに、フリーだった味方にすべて相手のマークがつき、苦しまぎれにマークにつかれた味方へパスすると、フィジカルの強いコートジボアールの選手に難なくボールを奪われて逆襲を浴び、それがミスパスに対する日本の選手の恐怖をいっそう強めていきます。

こうした悪循環から、しだいにコートジボアールが日本を一方的に攻めたてる展開となり、後半ついに我慢しきれなくなって同点ゴールを浴びると、あとは逆転されるまであっという間でした。

試合後、「日本代表が負けたのはポゼッション(パス)サッカーのせいだ」という、まったく的外れな主張が日本のマスメディアの一部からあがることになりますが、彼らは質の高いパスサッカーがどのようなものであるかを見抜く目をもっていません。

コペルトゥーラ戦術のように相手のカウンター攻撃に対するセーフティネットをまったく構築していなかった日本代表は、パスサッカーのレベルが低いと言わざるを得ませんし、あれをパスサッカーと呼んだらバルサの関係者から「一緒にすんな」と怒られてしまいます。

逆に、もしあのとき日本が常にコペルトゥーラ隊形をつくりながらパスをつないで前進することで攻撃できていたら、日本の選手は自分の後ろを気にすることなく、自信をもって前方へ「攻めのパス」を出せていたでしょうし、それによってどこへパスを出すかの決断が速く的確になることで、コートジボアールのプレスを空回りさせ、日本が主導権を握って試合を優位に進め、勝利をおさめることができていたかもしれません。

ザッケローニ元監督は当時、「日本の選手は自分の後ろを気にしすぎている。後ろのことは後ろでカバーしている選手がやるから気にするな」と繰り返していたはずですが、戦術マニアの国イタリア出身の彼がコペルトゥーラを知らないはずがありませんし、どうしてああいう結果になってしまったのか今でも謎です。

ちなみに、なでしこジャパンが戦った女子W杯カナダ大会の第二戦、カメルーン戦でも同じようなことが起こっています。

カメルーンに2-0としたところまでは良かったのですが、パスがミスになってカメルーンのカウンターを食らうようになると、なでしこの選手たちは、自分のミスでボールを奪われ失点することを極度に恐れるようになり、足がパタリと止まってしまいます。

女子の選手は正直で、試合後に阪口夢穂選手は「パスをカットされてカウンターを受けはじめてから、私も含めてみんなボールを受けるのが怖くなった」と言っています。

ボール保持者はどこへパスをするか迷い、周囲の選手も足を止めて味方のボールホルダーを見ているだけで、それによってパスがまったくつながらなくなると、試合の主導権を握ったカメルーンに一方的に攻めたてられてついに失点。

男子と違ったのは、そこで何とか踏ん張れたことでしょうか。

ともかく日本式のポゼッションサッカーには、相手のカウンター攻撃に対する組織的なセーフティネットがまったくないんです。

もしW杯で勝ちたいなら、今すぐコペルトゥーラの隊形を常につくりながら、パスをつないでチームを前進させるような攻撃のしかたをトレーニングするべき!!

これがブラジルで日本が悔しすぎる負け方をして得た教訓です。

カウンターサッカーをやる場合であっても、こちらが攻めに転じたあとすぐにボールを奪い返されると、逆カウンターを浴びる可能性だってあるわけですから、ポゼッションにせよカウンターサッカーにせよ、コペルトゥーラをつくりながらパスをつないでおいて損はありません。


次回につづきます。



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(当ブログ関連記事・ポゼッションサッカー悪玉論は間違い)

(当ブログ関連記事・ポゼッションサッカー悪玉論は間違い(その2))


  

■パスサッカーの基本(その2)

前回のつづき

<グラウンダーのパスでスムーズに攻撃するための基本>

 それではバイタルエリアにいる味方へボールを届けるために、どうやってグラウンダーのパスを相手チームの守備ブロックの中で正確につないでいくかですが、よほどフィジカルコンタクトの戦いに自信のある選手でない限り、相手からボディコンタクトを受けてバランスを崩しているような状態では正確なプレーを続けるのは困難であり、なるべくミスのない確実なプレーをするためには相手に自分の体を触らせないためのスペースが必要不可欠ということになります。

例えるなら、攻撃側の選手はスペースという“お金”を守備側の選手に支払って、フリーでプレーする時間を買うわけです。

ですから、相手DFの10cm横で足を止めているような怠け者の“貧乏人”プレーヤーは支払う“お金”がないので、味方からボールを受けたとたん相手DFに体を寄せられて、たちまちつぶされてしまいます。(下図)

不適切
(クリックで拡大 以下同様)

攻撃側の選手がどうすれば守備側の選手に支払うための“お金”を稼げるのかと言えば、局面局面で常に最適なポジショニングを取ることで、自分の足でスペースを稼ぎ出すしかありません。

相手DFラインの前で、複数の敵選手に囲まれたスペースでプレーする場合、相手チームのどの選手からも等しく、かつ一番遠い距離となる一点でプレーすれば、自分が稼げる“お金”つまりスペースが最大となります。(下図)


2人の敵選手に挟まれたスペースの場合
2人の間

3人以上の敵選手に囲まれたスペースの場合
適切

パスの出し手の視点に目を移しても、複数の敵選手に囲まれているスペースにいる味方へグラウンダーのパスを出すのに最適な場所も、基本的にはその一点ということになります。

パスの出し手と受け手のこうした共通理解は、パスサッカーをやる上で非常に重要なポイントです。

このことを知っていれば、パスの出し手と受け手の間に共通理解が生まれ、パスの出し手と受け手で、どの地点でパスを受けるべきか、どのタイミングでパスを出すべきかの意図にズレが生じ、そのために起こるミスを防ぐことができます。

 しかし、パスサッカーをやるうえで、この約束事を守るだけでは十分ではありません。

味方からグラウンダーのパスを常に受けられるようにするためには、「自分を取り囲んでいる相手チームのどの選手からも等しく、かつ一番遠い距離となる一点」という条件を満たした上で、「味方のボール保持者と自分とを結ぶパスコースに敵選手が立ちふさがるようなことがない位置」という条件も同時に満たすことができるポジショニングをとることが不可欠です。

それがいわゆる「顔出しの動き」と呼ばれるものであり、相手選手の死角にいるために味方からグラウンダーのパスを受けられない場所でボケーッと立ち止まっているような選手など論外です。(下図)

顔出し

ザックジャパンがW杯アジア最終予選を戦っていたときは、「顔出しの動き」が非常に良くできていたように思うのですが、ハリルジャパンになってから、味方のボール保持者を見ながら相手選手の死角で立ち止まっている選手が多くなってきているように感じます。

 次に守備側の選手の動きを加えることで、パスサッカーのレベルをワンランク上げていきましょう。 

もちろん相手チームもこちらの攻撃を指をくわえて見ているわけではなく、プレスをかけることでパスコースを寸断し、ボール保持者が孤立するように囲い込むことで、ボールを奪い返すことを狙った守備をしてきます。

それでもスムーズにパスをつないで攻撃を継続していくためには、これまで述べた決まり事を満たしつつ、ボール保持者を周囲の選手がサポートして、常に複数のパスコースを選択肢として用意してやることが必須であり、その場合は3人でトライアングルの形をつくったり、4人でダイアモンドの形をつくってサポートすべきです。

グラウンダーのパスを出すコースとなるトライアングルやダイアモンドの一辺は6~7mぐらいが最適の距離ですが、相手選手の配置状況によっては、4mから12mぐらいまで臨機応変に伸び縮みさせる必要性が出てくる可能性はありえます。(下図)

トライアングル・ダイアモンド

なぜトライアングルやダイアモンドの形でサポートするのかといえば、そうすることでパスが自然とダイアゴナル(斜め)になり、受け手が半身でボールを受けることで前方へターンしやすくなり(下図)、シュート・ドリブル・パスといった次のプレーにスムーズに移行しやすいことが一つ目、

ボディシェイプ

パスがミスになって相手ボールになった場合、横パスをカットされるといっぺんに2人の味方選手が敵に抜かれてしまいますが、ダイアゴナルパスであれば、パスの出し手がボールをカットした敵選手にすぐさまプレスをかけられるので、守備の安全性が高まるというのが理由の二点目です。(これについては次回詳述します)

もし相手がトライアングルやダイアモンドの一辺に立ちふさがることでパスコースを切ってきたら、ボールを持たない選手がポジショニングを微調整する(「顔出しの動き」をする)ことで、常にトライアングルやダイアモンドの形が維持できるようにします。

 効果的なパスサッカーをするためには、「パスをするためにパスをする」のではなく、「ゴールを奪うためにパスをする」のでなくてはなりません。

そのためには、なるべく相手が自陣に戻って守備陣形を整える前に、味方の選手が相手のバイタルエリアでボールを持って前を向き、フィニッシュにつながるようなパスを出せるシチュエーションをつくり出す必要があります。

それは「時間との勝負」ということになります。

スピーディーなパスサッカーをするためには、1試合中に1人のプレーヤーが1回にボールを保持する平均時間を、なるべく2秒以内にすべきです。

(ちなみにブラジルW杯で優勝したドイツ代表は、レーヴ監督の計画的なトレーニングによって平均1秒台まで短縮した)

ボール保持者の球離れを早くするためには、ボールを持っている選手の努力のみならず、サポートする周囲の選手の協力が不可欠です。

次にパスの出し手となることが予測されるプレーヤーがボールを受ける瞬間までに、周囲にいる複数の選手が「顔出し」の動きを終え、パスを受けるための準備を整えておけば、パスの出し手は必要最小限のシンキングタイムで次のパスを出すことが可能になります。

ある局目において、パスの受け手がどういうポジショニングを取るべきかは、これまで説明したとおりであり、パスの出し手も受け手もそれはあらかじめ分かっていることなのですから、次のパスの出し手に向かってボールが動いている間に、パスの受け手となるべき選手が適切なポジションを予測してあらかじめ移動しておくことで、連続したダイレクトパスで攻撃を組み立てることができるようになり、相手選手のプレスを上回るスピードでパスをつなぐことで相手チームの守備を無力化し、効果的で流れるようにスムーズな攻撃が可能になるのです。(下図)

予測と準備が大切

 4-1-2-3や4-2-3-1あるいは3-4-3など、チームがどういうフォーメーションを採用していたのだとしても、となりあった選手同士でピッチ上にトライアングルやダイアモンドの形をいくつも作って適切な距離でサポートしあいながら、グラウンダーのパスをつないでボールをすばやく前方へ運んでいき、バイタルエリアでボールを持って前を向いた選手が、相手DFラインのウラヘ向かってダイアゴナルランする味方へスルーパスを出し、その選手がGKとの一対一を制してゴールすることを狙います。

これがパスサッカーであり、相手が自陣にベタ引きでも、DFラインを高めに設定してコンパクトな守備ブロックをつくっている場合でも、どちらでも有効に機能させられる攻撃戦術なのです。

バイタルエリアでボールを持って前を向き、ゴールにつながるラストパスを出す局面、つまりパスサッカーにおける攻撃の最終ステージについては、次回以降の記事「より高度なパスサッカー」で詳しく見ていくことにします。

 以上、パスサッカーをやるために最低限必要となる基本戦術について見てきましたが、こうした約束事の多くは「パスサッカー(ポゼッションサッカー)」をやる場合はもちろんのこと、そうでない場合であっても、すべての選手がユース年代を終えるまでには完璧に身に着けておくべきサッカー戦術の基本中の基本です。

こういった基本をおろそかにして手を抜くようなチームに、サッカーの勝利の女神が微笑みかけることはないでしょう。

日本サッカー界の育成組織は、こういった一つ一つの基本を大切にして子供たちにサッカーを教えるべきですし、プロを目指しているプレーヤーならせめて20歳になる頃までには、W杯のような重要なゲームでどんなに緊張していても、ここに書いてあるすべてのことが完璧にできるようになっていて欲しいです。

もちろんキックの技術が高いのは素晴らしいことなんですが、局面ごとの適切なポジショニング(=スペースの使い方)やボールを受ける時の正しいボディシェイプなど、サッカー選手には他にも覚えなければいけない基本事項は沢山あり、日本の育成はややもすると足元の技術指導に偏重しすぎていたきらいがあったのではないでしょうか。

特にパスサッカーをやる上では、グラウンダーのパスを使うことが決定的に重要であり、これまで述べたようにグラウンダーのパスには数多くの長所があるのですが、相手選手によって死角になっているスペースに直接出そうとすると、ボールが相手選手にぶつかってしまうという短所があります。

よって、質の高いパスサッカーをやるためには、ピッチに立っていながら自分がいるピッチ全体をあたかも上空から3Dで俯瞰して見ているような映像を頭の中に思い浮かべ、時々刻々と変化する敵味方の選手配置と、それによって生み出されるスペースとをリアルタイムで忠実にイメージしながら適切なポジショニングを取ってプレーできるような優れた空間認知能力を、選手一人一人が備えることが求められますし、育成組織もそういう能力を持ったプレーヤーを数多く育てることが一つの目標となります。
 
 香川選手はまだFCバルセロナでプレーするという夢をあきらめていないと思いますが、こうしたパスサッカーの基礎一つ一つを決しておろそかにせず、普段の練習やゲームにおいて自分のプレーで地道に表現していかないと、バルサに振り向いてもらうことは難しいのではないでしょうか。

それにはもちろんチームメートの協力が欠かせませんし、ドルトムントのトゥヘル監督がやろうとしている戦術と食い違うところが出ないように、香川選手のやりたいことと監督の戦術とを、十分すりあわせておくことも必要になるでしょう。

次回につづきます。



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■パスサッカーの基本(その1)


 前回記事では、0-0の引き分け狙いの相手がベタ引きで自陣から出てこないという、カウンターサッカーが機能しづらい状況があることをハリルジャパンが想定しておらず、引いた相手からゴールを奪うためにパスサッカーに戦術を変更する必要が出てきても、これまでロングボールを多用するカウンターサッカーしかやってこなかったので、久しぶりにやったらパスサッカーの連動性が落ちており、それがシンガポールやカンボジアに大苦戦する原因の一つとなったというお話をしました。

「カウンターがダメだったらザックジャパン時代のポゼッションサッカーに戻せばいいじゃないか」という、パスサッカーという戦術の奥深さ・難しさをまったく理解していない、大いなる誤解が日本サッカー界に存在していて、それがハリルジャパンの現在の苦戦につながっているように思えます。

そこで今回から年末スペシャル企画として、何回かに分けてパスサッカー(ポゼッションサッカー)という戦術を基礎から見直していき、日本代表を戦術面からもう一度叩きなおしたいと思います。

<パスサッカーの目的とグラウンダーのパスの重要性>

 パスサッカーに限ったことではありませんが、すべての攻撃戦術の最終目的はゴールを奪うことですから、まずそこから逆算していきますが、ゴールできる確率が一番高い攻撃の形は、オフサイドにならずに味方の選手とボールを相手DFラインのウラへ送り込み、GKと一対一になることです。

(無人のゴールに流し込むだけという形が一番確率が高いのでは?と思われる方もおられるでしょうが、ゴールにはたいていGKが張りついていますし、日本のサッカーチームにありがちなんですが、GKを誘い出して無人のゴールに流し込むだけという形をつくり出すために、ペナルティエリアの中まで細かくパスをつないで時間をかけていると、その間に相手DFが戻ってきてシュートチャンスそのものをつぶされてしまう恐れがあります)

では、オフサイドにならずに味方の選手とボールをDFラインのウラへ送り込んでGKと一対一になるような形をどうすれば一番つくりやすいのかと言えば、バイタルエリアで前を向いた選手がグラウンダーのスルーパスを出して、ウラヘ抜け出した味方にボールを受けさせる形が最も確率が高いと思われます。

これに対して日本サッカー界では、簡単に使える浮き球のロングボールを相手DFラインのウラヘ放り込むプレーが伝統的に好まれてきましたが、世界のサッカー先進地域ではこういうプレーに対する守備戦術は既に確立しています。

もしボール保持者にプレスがかかっていれば、DFラインを押し上げて相手選手をオフサイドゾーンに置き去りにし、ボール保持者にプレスがかけられない状態では、DFラインのウラヘ抜け出そうとする相手選手に最後までついていくことで対処されてしまい、たまに上手くいくこともありますが次からは相手にしっかり警戒されて、対戦チームのレベルが高くなればなるほど、そう何度も使える手ではありません。

どっかの国に「すぐに使えるものは、すぐ役立たなくなる」ということわざがあったはずですが、まさにそれです。

そもそも敵チームがベタ引きで、相手のDFラインとゴールラインとの間に挟まれたスペースが非常に狭くなっているような状況では、DFラインのウラヘロングボールを放り込んでも、前進してきた相手GKにキャッチされるか、敵GKも取れないけれど味方も追いつけずボールが直接ゴールラインを割ってしまうか、そのどちらかになる可能性がほとんどです。

だからハリルジャパンの浮き球のロングボールを多用するカウンターサッカーが、相手に引かれると途端に機能しなくなるのです。

相手バックのウラには、果てしなく広大なスペースがいつでも存在していて、自分がパスをもらってドリブルすると地平線のはるか彼方からゴールがせりあがってくるなんていうのは、キャプテン・○のような漫画の世界の話であって、現実のサッカーでは絶対にありえません。

相手チームがDFラインを高く設定するか低く設定するかによって、バックラインのウラのスペースも広くなったり狭くなったりするのだというサッカー戦術の常識を日本人選手が今ひとつ理解しておらず、ベッタリ引いた相手DFのウラヘロングボールを盛んに放り込み、相手のゴールキックを一生懸命増やしているシーンをしばしば見かけるのは、某国民的サッカー漫画の影響なのかもしれませんね。

仮に、オフサイドにならずに相手DFラインのウラでパスを受けられたとしても、浮き球のボールをシュートやドリブル・パスといった次の動作へと確実につなげるためには、足や胸でボールを一旦トラップしてコントロールすることが必要となりますし、その時間だけDFが攻撃側の選手に体を寄せてミスプレーを誘ったり、シュートコースを消したりする余裕が生まれます。

相手DFに体を寄せる時間を与えれば、日本人選手のようにフィジカルコンタクトに強くない方が不利になります。

自分の後方から来た浮き球のボールをダイレクトでボレーシュートすることも不可能ではありませんが、ボールを足で扱うのでミスプレーがどうしても多くなるサッカーというスポーツの性質上、シュート決定率が高いプレーとは言えません。
(浮き球のクロスボールをヘディングシュートする場合は別)

その点グラウンダーの短距離のパスであれば、自分の前方にいる2人の敵DFの間を抜けるだけのスピードがあれば良いので、浮き球のロングボールよりもパススピードが遅くても済み、相手DFのウラにある、パスを出したいスペースが狭くても、オフサイドを回避しながら敵GKより先に味方の選手が追いつける確率が高いパスを出すことが可能になります。

グラウンダーのパスであれば、来たボールをそのままシュートやドリブル・パスといった次のプレーに正確につなげやすいですし、来たボールをトラップする時間が必要ない分だけ、相手のGKやDFもボールホルダーの次のプレーが予測しづらく対処が困難になります。

パスの受け手が処理しやすく、シュートやドリブル・パスといった次のプレーに正確につなげやすいものこそが「良いパス」であり、そうした「良いパス」を出せる選手が「良いパサー」です。パスの出し手は常にそうした配慮ができなくてはなりません。

以上、グラウンダーのパスが持っている様々な長所を見てきましたが、グラウンダーのスルーパスを使えば、オフサイドにならずに味方の選手とボールをDFラインのウラへ送り込んでGKと一対一になる形をつくることがより容易であり、相手がDFラインを高く保っている場合はもちろんのこと、相手が自陣にベタ引きでウラのスペースが狭くなっているような状況では特に、グラウンダーのパスを主体として攻めるパスサッカーが有効なのです。

 バイタルエリアで前を向いた選手がグラウンダーのスルーパスを出せば、オフサイドにならずに味方の選手とボールをDFラインのウラへ送り込んでGKと一対一になる形をつくりやすいことはわかりました。

それでは、相手DFラインの前のスペースであるバイタルエリアで、味方の選手がボールを持って前を向くという形をどうすれば一番つくりやすいのでしょうか。

バイタルエリアはDFラインのウラと並んで、守備側がもっとも厳しくケアしてくるスペースです。

もしバイタルエリアで多くの敵選手に囲まれている味方に向かって浮き球のロングボールを放り込んだとしても、相手DFにヘッドでクリアされるなどして、味方にパスを通すのは容易なことではありません。

浮き球のロングボールを空中で競り合う場合、選手の身長やジャンプ力が互角であれば、自分の背後からボールがやってくる攻撃側よりも、自分の方に向かってボールが飛んでくる守備側の方が有利で、クリアがより容易であることが一般的です。

よって、フリーでプレーするための時間とスペースが限られているバイタルエリアにいる味方に対しては、やはりグラウンダーのパスを使った方が、通る確率が高くなります。

特に、相手がコンパクトな守備ブロックをつくり自陣に深く引いているような状況において、相手DFラインの前でスペースに出せるパスというのはサイドチェンジのパスかゴール前でのクロスボールぐらいで、それ以外は基本的に足元へのグラウンダーのパスを使って攻める場合がほとんどということになります。

現在、世界最高レベルのパスサッカーをやっているのはFCバルセロナであり、バルサにオランダ流のパスサッカーを導入したのがヨハン・クライフであったのは有名な話です。彼はこう言っています。

「私にとってフットボールとは両足でプレーするものであり、
ボールがピッチから離れることはない」 

               サッカーマガジン2011年2月1日号

クライフが現役時代、ボールが空中を飛んでピッチから離れることになる「浮き球のパス」をまったく使わなかったということは無かったでしょうし、少々誇張された表現だとは思うのですが、パスサッカーにおいて、それぐらいグラウンダーのパスが重要だということを、言いたかったのではないでしょうか。


次回につづく



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