■日本代表

■アジア8枠という“堕落”(その2)

前回のつづき

 なんでFIFAが2026年からW杯出場国を48に拡大し、アジアを「優遇」して8もの出場枠を割り振ったのかと言えば、ウン十億円単位の移籍金をポンと出して欧州四大リーグから選手を次々に爆買いするような中国マネーに目がくらんだからではないでしょうか。

「アジア枠を8に拡大すれば中国でもW杯に出場できるだろうから、巨額の中国マネーがサッカー界に落ちるだろうし、13億人のマーケットにサッカーを浸透させられる。今から10年後には人口で中国を追い抜くと言われているインドが強くなってW杯に出場してくれたら、もっとカネがもうかる!」

これが今のFIFAのホンネだろうと思います。

FIFAは2年連続で赤字決算が続いており、だから「カネの亡者」になっているのでしょうが、それは自浄能力を欠いた幹部たちの相次ぐ汚職が原因です。

その穴埋めのために、W杯で行われるサッカーの質を落してでも出場国を増やし、サッカーは弱いけどカネをもっている国が予選を突破しやすくなるようにしようというのであれば、クォリティの低いゲームをたくさん見せられる私たちサッカーファンが最大の犠牲者となるわけで、たまったものではありません。

2026年大会で、片方のチームが5バックをゴール前にベタ引きして90分のあいだ専守防衛に努めたにも関わらず、0-7や0-8で惨敗みたいな試合が続出すれば、W杯の権威は失われるでしょう。

どんなお金持ちでも1日に使える時間は24時間しかありません。よってサッカーのようなスポーツは、他の娯楽と消費者の「可処分時間」を奪い合う競争をしているわけです。

W杯の質が落ちてつまらないゲームが続出すれば、目の肥えた消費者はUEFAチャンピオンズリーグなど良質のサッカーコンテンツに逃げるでしょうし、あるいはWBCで盛り上がったばかりの野球やバスケットボール、映画やオンラインゲームなど他の娯楽へ向かうかもしれません。

そうなればFIFAはW杯の放映権料やスポンサー料を高く売りつけることができなくなりますから、めぐりめぐってFIFAの幹部たち自身のクビが締まることになります。

参加国が48にも拡大すれば、一つの国でW杯を開催する場合にそれだけ経費負担が重くなりますし、W杯の人気低下によって放映権や広告を売ることで得られる収入も減少ということになれば、まさにFIFAのオウンゴールであり、「これって誰得?」という話です。

 中国の「爆買いマネー」を当てにして2026年W杯の出場国を48に増やしたのだとして、これから9年も時間があるのにFIFAの思惑通りになるでしょうか?

FIFAの前会長であったジョセフ・ブラッターは、アフリカ諸国から組織票をもらうことで会長選挙に勝利できたので、その見返りとして2010年W杯の開催権をアフリカに与えたと言われています。

そして2004年3月のFIFA会議で実際に2010年W杯の開催地が南アフリカに決まるのですが、有色人種への差別政策であるアパルトヘイトを撤廃し、歴史上はじめて全人種参加の民主的な選挙を行い、ネルソン・マンデラ氏を中心に国づくりを再スタートさせた南アフリカに対する国際社会からのイメージが非常に良かったこと、金やプラチナ・ダイヤモンドなど豊富な地下資源に恵まれた南アフリカがアフリカ大陸随一の経済大国であったことも、開催地決定に大きく関係していました。

2014年W杯がブラジルに決まったのは2007年4月ですが、これも当時のブラッター会長が2014年大会を南米大陸でやるとあらかじめ決めていて、ブラジル以外の南米諸国が開催地立候補を取り下げたため、無投票で決まりました。

そして2010年に、2018年W杯開催国がロシアに、2022年大会がカタールに決まります。

2010年大会が南アフリカ・2014年がブラジル・2018年ロシア、世界経済について良く勉強している人ならこの組み合わせにピンとくるのではないでしょうか。

そう“BRICS”です。

BRICSとは、B=Brazil R=Russia I=India C=China S=South Africaの頭文字をとったもので、世界最大の投資銀行の一つゴールドマン・サックスが最初に提唱した経済用語です。

2003年ごろから始まり2007年いっぱいまで続いた世界経済の拡大局面でこの5つの新興国は好景気に沸き、急速な経済成長をとげたことで世界的に注目を浴びたわけですが、2010年W杯が南アフリカに、2014年W杯がブラジルに決まったのは、ちょうどこの期間です。

2018年W杯開催国がロシアに、2022年大会がカタールに決まったのは、2008年にいわゆるリーマンショックが起こって世界経済が大ダメージを負った直後の2010年でしたが、まだこのときは原油相場が高くて、ロシアやカタールのような産油国に好景気の余韻が残っていた時期です。

で、何が言いたいかというと、FIFAはその時その時の「景気が良くてカネを持っている国」につられる傾向が強いということ。

ところが4年というW杯の開催サイクルよりも速く世界経済というものは動いていくので、FIFAの思惑が大ハズレになることもしばしばなんですね。

南アフリカ大会は何とか乗り切れましたが、リーマンショック以降、原油や鉄鉱石・大豆などの価格が下落してその輸出に頼るブラジル経済は一気に不況へ。

コンフェデをやったW杯の1年前から本番直前までブラジル全土でW杯反対の大規模デモが何度も発生したことは皆さんご存知だとは思いますが、それは「不況で生活が苦しいのに何でカネのかかるW杯なんてやるんだ? そんな予算がブラジル政府にあるなら国民の福祉に回せ」という怒りが原因でした。

スタジアム建設もなかなか進まず、ブラジルW杯はセレソンの成績と合わせてボロボロの大会になってしまいましたね。

そして今現在は原油・天然ガス価格が急落し、その輸出に頼るロシアが不況で苦しんでおり、政府もお金が無くてこちらもカツカツの状態です。

ロシアは事実上の独裁国家なので、W杯反対のデモが起こりそうになれば政府が力づくで押さえつけるとは思いますが、ロシアの原油マネーにつられたFIFAの思惑が外れて、ロシアの副首相が「FIFAに払う2018年W杯のTV放映権料が高すぎる。何とかしてくれ」と、今になってクレームをつけているのはそういう事情があってのことです。

FIFAは2026年W杯で、「選手爆買い」の中国マネーを当てにしているようです。

昨年に外国人選手の獲得に費やした額が円換算で520億だとか、カルロス・テベス一人のサラリーが2年間で94億円だとか言われていますが、サッカーのビジネスとして将来にわたって持続可能なのか疑問に感じます。

どう考えても、中国クラブのサポーターから得られる入場料収入やレプリカユニホームなどのグッズ売上から、爆買いに必要な資金がまかなえているとは思えません。

ではそんな巨額のカネがいったいどこから出てきたのかといえば、やはり中国で現在進行中の「不動産バブル」のおかげでしょう。

中国スーパーリーグ1部16チームのうち、ざっとあげただけでも広州恒大・広州富力・河北華夏・河南建業・石家荘永昌・吉林亜泰・杭州緑城などなど、マンションの建設販売が代表例ですが親会社がなんらかの形で不動産業と関係しているクラブが少なくありません。

中国経済において、不動産業は金融や製鉄・セメント製造・海運などあらゆる業界と密接につながっていますから、もし不動産バブルが崩壊すれば、北京国安や上海上港も含め、ほぼすべてのクラブが壊滅的打撃を受けるのは避けられないと思います。

中国の不動産バブルが崩壊するのかしないのか、するとすればそれはいつなのか、それは誰にもわかりませんが、FIFAの思惑通りに2026年W杯開催の時点でも中国の不動産バブルを資金源とする爆買いは持続可能なのか、疑問に思います。

かつてFC東京がワンチョペを、C大阪がフォルランを獲得して大失敗したことがありましたが、Jリーグでも中国の金満クラブのマネをして大金を払って世界から大物選手を連れて来ようという動きがありますが、それはやめた方が賢明だと思います。

同じお金をかけるなら日本人選手の育成にかけるべきで、Jリーグ各クラブはあくまでも地に足をつけて、長期にわたって持続可能な成長を目指すべきです。

ACLで中国クラブと対戦すれば、日本人選手が欧州四大リーグに移籍しなくてもオスカルやフッキ・パウリーニョみたいなワールドクラスの選手と戦って自分の能力を高めることができるわけですから、そういう形でチャイナマネーを利用すれば十分でしょう。

 それではまとめですが、中国の不動産バブルマネーにつられたFIFAが2026年W杯の参加国を48に拡大したものの、アジア予選が簡単になりすぎて日本代表の強化が難しくなり、予選も本大会もつまらないゲームが増加して、サッカーコンテンツとしての代表戦の魅力が低下してしまったということになれば、われわれサポーターにとって最悪の結末となります。

FIFAは汚職がらみで辞任したブラッター前会長に代わってインファンティーノ氏率いる新体制となったばかりですが、新しくなったFIFA技術委員会がオフサイドを廃止しようと提案して世界中から袋叩きにあったり、サッカーのクォリティ低下やグループリーグを3チームで戦うことによって不公平が生じるなど非常に問題が多い、W杯参加国の急拡大を強行しようとするなど、しょっぱなから迷走しているように見えます。

サッカーを良く知らない素人(本職は弁護士だとか)の方が、世界のサッカーをメチャクチャにしてしまったなんてことにならなければ良いのですが...。

<了>



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■アジア8枠という“堕落”(その1)

 2026年W杯の出場国が48に拡大される予定になっていることは皆さんすでにご存知のことと思いますが、先月30日国際サッカー連盟(FIFA)が各大陸ごとの出場枠を発表しました。

それによりますと、ヨーロッパが13から16に、アフリカが5から9、南米が4.5から6、北中米カリブ海が3.5から6、オセアニアが0.5から1にそれぞれ拡大される予定です。

問題のアジア枠なんですが、現在の4.5から8に拡大されることになっています。これで46ヵ国。

残り2の出場国を決めるため、ヨーロッパを除く各大陸から
1ヵ国づつと、W杯開催国を出した大陸からの1ヵ国を加えた、計6ヵ国で争われるプレーオフも実施されるので、アジアから最大9ヵ国が2026年W杯に出られる可能性があり、この案は5月のFIFA理事会で最終決定される予定となっています。

 W杯出場枠を48に拡大するという案について当研究所は反対というのは以前お話した通りですが、アジア枠が現行のほぼ倍となる8というのは、アジア各国のブラジルW杯における成績を踏まえてみれば、かなり無理があるように思います。

現在行われているロシアW杯アジア3次予選の成績に当てはめれば、A・B組それぞれ4位のシリアとUAEにまで無条件で出場権が与えられることになるわけです。

さらにアジアの8枠を東アジアと西アジアで4づつ分配しようというトンデモナイ話まで出ています。

現時点における東アジア諸国のFIFAランキングをもとに、
日本・オーストラリア・韓国・中国をシード国とし、2026年W杯アジア最終予選・東アジア地区A組の組み合わせをシミュレーションしてみると、例えばこんな感じに。


A組

日本 香港 ベトナム カンボジア ラオス


この予選で1位になったチームがW杯出場権獲得なんて、堕落以外の何物でもありません!

今から10年後に、日本以外の4ヵ国が劇的に強くなってサウジやオーストラリアのレベルになったり、W杯でグループリーグを突破できるぐらいの実力をつける可能性がゼロとは言いませんが、難しいと思います。

クラブと違って代表チームは実質的な活動日数が限られており、W杯予選やアジアカップのような真剣勝負の公式戦は、数少ない貴重なチーム強化の場となっています。

現在行われている予選も、サウジやオーストラリア・UAEのような世界と戦う上で最低限のレベルの相手と、負ければW杯に行けなくなる真剣勝負を繰り広げていることが、日本人選手の成長や代表チームの強化にとってプラスになっていることは間違いありません。

W杯の直前に欧州や南米の強豪国とテストマッチをやればいいじゃないかと言う人がいるかもしれませんが、テストマッチはたとえ負けてもW杯に行けなくなるという実際の痛みを伴わないので、日本人選手はほとんどプレッシャーを感じることなく、自分の実力をほぼ100%発揮してのびのびプレーすることができます。

逆に欧州や南米の強豪国の選手たちにとっても、テストマッチに勝ったところでご褒美としてW杯決勝トーナメントへの出場権がもらえるわけではありませんから、「ケガをしないように適当にプレーしておくか」となりやすく、テストマッチでいくら好成績を残しても真剣勝負であるW杯の本番の成績とはあまり関係がありません。

それは予選突破後のテストマッチで怖いもの知らずでプレーしてオランダと引き分け、ベルギーにアウェーで勝利して大会前に「ベスト8も狙える」と言われたザックジャパンが、ブラジルW杯では「好成績を残さなければ」という精神的プレッシャーのためか各選手が金縛りにあったように動きが重く、先にナーバスな状態から脱して自分たち本来のプレーができるようになったコートジボアールに初戦で逆転負けを喫し、結局グループリーグ敗退に終わってしまったという事実からも明らかです。

2018年からUEFAネーションズリーグが始まる予定であったり、他大陸の国とのテストマッチは最低2試合組まなければ実施できないなどといった縛りができるなど、日本が欧州や南米の強豪国とテストマッチを組むことが年々難しくなっている事情もあります。

ですから日本代表のチーム強化にとって、W杯アジア予選が簡単になりすぎるというのは非常に問題なのです。エンターテインメントとしての面白さ・スポーツファンにとって魅力あるコンテンツという視点からもどうなんですか、これ。

ましてや東アジアと西アジアで4つづつ出場枠を分け合うなんて、とんでもありません!

体の線が細い東アジア人(モンゴロイド)は、体格がゴツい白人や黒人と比べてフィジカルコンタクトに一番弱い傾向があります。

最近はだいぶ改善されてきましたが、足元の細かい技術がそこそこある東南アジアのチームが、これまでなぜW杯出場権やアジアカップの優勝トロフィーが取れなかったのかと言えば、身長が低く(今から10年ぐらい前まではチームの平均身長165㎝とかザラだった)フィジカルコンタクト能力が日本やオーストラリア・韓国・中東各国などと比べて絶望的に低かったからです。

W杯出場権のアジア枠を東西に分け、日本が東・東南アジアのチームとだけ予選をやることになれば、相手のフィジカルコンタクト能力が弱すぎて、日本人選手個々の強化につながらず、W杯の本番で欧州や南米・アフリカのチームと対戦したときに、相手のフィジカルの強さに対応できなくなる恐れがあります。

当研究所としては日本代表の強化にとって何が一番大事かを考えて、W杯出場枠を48に拡大することも、アジア枠を東西で4づつに分け合うことも大反対なんですが、もしアジアの出場枠が8になった場合でも、イラン(ほとんどが白人)やアラブ諸国(白人・黒人とその混血の混成)などフィジカルコンタクトに強い中東のチームと日本が対戦できるようなW杯アジア予選のフォーマットに、せめてなって欲しいものです。

日本サッカー協会からは、アジア8枠はもろ手を挙げて大歓迎みたいな話しか聞こえてこないのですが、何が日本サッカーの進歩・発展のために大切なのか、見失っているように見えます。

ところで、なぜFIFAはW杯の出場国を急拡大したり、アジアを超優遇して8も出場枠をくれたのでしょうか?

次回はそのあたりをツッコんで考えてみましょう。

つづく



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当ブログ関連記事・新年のごあいさつ



  

■日本代表、不安の残る大勝劇(その3)

前回のつづき

 選手個々で特筆すべき活躍だったのは、まず香川選手。
ゴール前で久保選手のクロスを受け、シュートフェイントで相手2人を滑らせてから冷静に先制ゴールを決めてくれました。久保選手がクロスボールを蹴る態勢に入った瞬間、もう数歩ゴールから遠ざかってポジショニングすることで自分の前にシュートを打つためのスペースを空けておけば、後ろに戻りながらクロスを受ける必要が無くなるので、もっと楽にゴールできたのではないでしょうか。
ショートパスのコンビネーションからゴール前で山口選手にボールを落してダイレクトシュートを導き出すなど、チャンスメークの面でもまずまず良かったと思います。

当研究所が4-2-3-1のトップ下に求めることは、

(1)ゲームの流れを的確に読み、チームがゴールを必要としているときは中盤で攻撃を組み立てるための前方へのパスを出し、相手に攻められてチームが苦しいときは、味方と協力しながらトップ下が中心となってボールをキープすることでチームに一息つかせるような、いわゆる「ゲームメーク」の仕事。

(2)攻撃の最終局面で、味方のゴールにつながるラストパスを出したり、自分でゴールをあげたりする、いわゆる「結果を出すプレー」。

香川選手の場合、どちらか片方ができるともう一方ができなくなってしまうことが多く、このタイ戦は(2)はできていたのですが、(1)についてはまだまだ課題が多いです。

味方が良い形でボールを奪い返した瞬間、相手の守備態勢が整っておらず、さぁゴールするためにこれから攻め込むぞという局面で、トップ下がボールをキープするためのヨコパス・バックパスをして落ち着かせてしまったのでは、チームから攻撃の勢いがそがれてしまいますし、逆に、中盤でパスがつながらず反撃の手段が見つからないため、チームが敵から波状攻撃を受けてアップアップの状態なのに、トップ下がダブルボランチから遠く離れたゴール前で張っていて、味方からのパスを待っているというのも大きな問題です。

香川選手は、ゲームの流れを的確に読み、今(1)と(2)のどちらの仕事をやるべきなのかを正しく選択するというところに課題を抱えています。(1)(2)を両方そつなくこなすのは大変だとは思いますが、名波・中田英・中村俊・遠藤・本田など代表の歴代ゲームメーカーが乗り越えてきた課題であり、それが日本代表のトップ下、10番のポジションの役割ですのでがんばって欲しいです。同じ課題は清武選手も抱えています。

岡崎選手の正確なヘッドからのゴールは素晴らしかったですね。
ただし、相手バックのレベルが格段に高いプレミアだと、空中戦で競り負けてしまって、あのシュートをワクの中に入れさせてもらえないことがほとんどです。それを解決しないとW杯本大会で代表のセンターFWは任せられません。足のシュート精度が低すぎることも長年の課題です。

久保選手は、右サイドからのクロスで香川・岡崎両選手のゴールをアシストし、スローインを受けてからの正確なミドルシュートで苦戦するチームを助ける、1ゴール2アシストの大車輪の働きは評価が高いです。ダブルタッチで相手を抜くドリブル突破という武器は、ウイングというポジションでこそ威力を発揮しますから、チャンスがあったらチャレンジして欲しいです。
ハリルジャパンの守備戦術にも問題はありますが、相手ボールのときは久保・原口の両ウイングがダブルボランチのラインまで下がって、DF4人MF4人のコンパクトな守備ブロックをつくって守っていたら、あれほどタイに攻められることもなかったと思います。

川島選手は、相手がボールを蹴るギリギリの瞬間まで我慢してからの横っ飛びで見事なPKストップ。タイのワク内シュートもビッグセーブで何本も防いで守備面で最大の貢献。
PKのときに相手が蹴るだいぶ前にヤマをかけて飛び、それを見切った相手にパネンカで逆を取られ失点してしまうようなGKとどっちが実力が上か、プロの監督なら練習中のプレーを見たらわかると思うのですが、ハリルホジッチさんの選手を見る目を疑ってしまいます。
「守備力に自信がないからゴール数で貢献しようというセンターバックを使ってくれる監督さんはまずいない」と以前書きましたが、吉田選手は「守備力を上げるためならどんな犠牲も払う」という努力をしたからこそクラブでレギュラーを取れたわけです。浦和の西川選手もGKとしての守備力向上という課題から逃げてはいけないと思います。

吉田選手は、コーナーキックからの見事なヘディングで久々のゴールをあげてくれましたが、後半に自分の真上に上がったボールから目を離してしまったことでボールのゆくえを見失い、危険なシュートを浴びてしまったことは反省点です。

清武選手は、コーナーキックから吉田選手のゴールをアシスト。セットプレーから正確なキックが蹴れる数少ない選手として貴重です。チームがボールをキープできない状態が続き苦しかったところで、彼が適度にボールをキープすることでタイに行っていたゲームの流れを引き戻したことも評価できます。
ただ、返す返すも日本に帰って来てしまったことが残念。海外でプレーするための障害をクリアできるのであれば、サッカー選手としての実力をあげるためにも、今年の夏あたりにブンデス中堅クラブあたりにセレッソが保有権をもったままレンタル移籍できないものでしょうか。

 逆に、長友選手はゴール前でのクリアが味方に当たってしまったのは不運でしたが、そこから大慌てしすぎてしまいましたね。ボールを蹴ろうとして立ち足がすべり、空振りして倒れたことで、さらに焦って相手を倒してしまいました。ゴールの中にGKとフィールドプレーヤーが2人カバーしていましたから、あそこまで焦る必要はなかったように思います。

森重選手は前半35分、ティーラシンに股間を抜かれるミドルシュートを打たれてしまいました。両足をそろえて立つから股間を抜かれてしまうわけで、片足を前に出して構えておけば、たとえ自分の正面にシュートが来ても足に当てて防げたはずです。
彼のフィードが基点となったゴールがありましたが、ドリブルで前方へ持ち上がってからのパスミスで相手からショートカウンターを浴びてしまうなどミスが多かったです。

山口・酒井高・酒井宏の各選手は、3m前方にいる相手選手にボールをぶつけ、逆襲を食らうようなパスミスが非常に目立ちました。 
ただ、酒井高選手はボランチが本職ではありませんし、中盤にボールをキープしてタメをつくれるような選手を誰も置かなかった監督さんの選手起用のミスもありましたから、責めるのは酷というものかもしれません。
酒井高選手がボールを持ったとき、山口選手が後方に下がってカバーのポジションを取ることが多かったのですが、酒井選手のナナメ後方をバック2枚がカバーしているのであれば、酒井選手のナナメ前方にポジショニングして、トップ下と共に酒井選手に複数のパスコースをつくってあげると、スムーズに中盤でボールが回るようになると思います。

        ☆        ☆        ☆

 それではまとめです。

タイに4-0で勝利という結果は良かったのですが、日本代表のゲーム内容には問題が山積です。

久保選手にロングボールが入って右サイドで基点をつくり、そこからゴール前へクロスを入れて香川・岡崎両選手がゴールをゲットしたまでは良かったのですが、タイが日本の両ウイングをケアすることでそこへのパスが通らなくなると、ロングボールを使ったカウンターサッカーしかできないハリルジャパンはたちまち行き詰ってしまいました。

それならば、タイの守備ブロックの中でショートパスを使ったポゼッションサッカーで相手を崩すという戦術に転換できれば困難な状況を打開できたはずですが、それができませんでした。

タイにプレスをかけられると、個でもチームとしてもボールをキープできないので、ロングボールを前へ大きく蹴るか、3m前の相手にパスをぶつけて奪われ、タイの猛反撃にいっぱいいっぱい。

日本は、DF5人と守備的MF1人にFW4人で組む4-2-4みたいなフォーメーションだったので、そもそも中盤がスカスカでボールをキープしてタメをつくれるような選手が誰もいませんでしたから、カウンターとポゼッション戦術の使い分けなど望むべくもありません。

こういうスタメンを平気でピッチに送り出してしまうハリルホジッチ監督のプレーヤーの特徴・長所短所を見抜く能力に、強い疑問を感じざるをえません。

昨年から当研究所がヘーレンフェーンの小林選手を呼ぶことを推奨している理由は、それが正しいか間違っているかは別として、今回のタイ戦みたいなことが起こらないように、二手三手先のことを考えたからです。

昨年6月のキリンカップでボスニアに負けたことで、浦和の柏木選手や川崎の大島選手のような、小柄で守備力の低いプレーヤーをボランチにいれてしまうと、W杯に出てくるような攻撃力の高いチームが相手だと守りきれないということが露呈しました。それはロシアW杯3次予選のUAE戦・イラク戦でも失点の一因となってしまいます。

そこで遅まきながらハリル監督は、長谷部・山口両選手でダブルボランチを組ませるようになったのですが、今度は逆に中盤でのボールキープ力やパス展開力が不足し、日本の攻撃力が低下してしまうという問題が出てきました。

じゃあ、体が大きくて守備力があって、しかも足元の技術が高く、ボールキープが出来てパス能力もあるボランチを育成すればいいじゃないか、それならオランダでプレーしている小林祐選手が候補の一人になるのではないか、と当研究所は考えたわけです。

今オランダ代表はボロボロですけど、ちょっと前でいえばファンボメルみたいなプレーヤーに成長してくれないかなと思ってます。香川・清武両選手の成長が頭打ちになるようであれば、トップ下のスナイデルでも構いません。

(当ブログ過去記事・オマーン戦・サウジ戦に向けた日本代表発表!) 

確かに小林選手は経験が少ないですし、攻撃的なボランチとして覚えなければいけないことはまだいっぱいあります。しかし「経験が無い」と言って代表に呼ばなければ、永久に経験を積むことはできません。

彼が代表に招集されて、長谷部・山口・今野選手らのプレーを間近で見ることで得られるものもあるでしょうし、W杯予選でも2-0あるいは3-0で日本が勝っているゲームの後半のような、プレッシャーがかからない場面で使ってあげて、少しづつ実戦経験を積ませることもできます。

ところが、失敗が許される昨年11月のテストマッチにせっかく彼を招集しても後半から20分間プレーさせただけで、それ以降は呼ばれもしません。これでは成長できないでしょう。

それで今回のタイ戦では、サイドバックが本職の選手をボランチに入れて、ボールキープも攻めのパスも出せずに苦戦しているのですから、ハリル監督の選手を見る目、二手三手先を考えてチームを強化していく手腕を疑ってしまうのです。

 この試合は、日本の選手が個の能力で相手を上回っていたから勝てただけで、W杯本大会でこちらより個の能力が高い相手と当ったときにこんな低レベルのサッカーをしていたら行き詰ってしまう可能性が高いです。

それに比べれば、選手個々の能力で劣りながらチーム組織でそれを補い、シュート数で日本を上回る攻撃で冷や汗をかかせた、キャティサック監督のパスサッカー戦術は見事だったと思います。

もしタイ人選手の個の能力が本格的に上がってきたら、5年後10年後にタイに圧倒的にボールをポゼッションされた上に、試合結果でも負けてしまうという悪夢のような未来がやってきかねません。

狭いスペースにいる味方に正確なパスを通すことが要求されるパスサッカーという戦術が、足元の技術やパスセンスに優れたプレーヤーを育てるという側面があります。

パスサッカーを掲げたザックジャパンが、ACミランの本田・ドルトムントの香川・インテルの長友といった選手を成功に導き、
日本の成功を見たキャティサック監督のタイ、マフディ監督のUAE、ポステコグロウ監督のオーストラリア、ファンマルバイク監督のサウジなどが続々とパスサッカーに転換する中で、なぜパスサッカーで成功した日本が、今から10年前のアジアでよく見られた、個の能力頼みのタテポンサッカーへ退化しようとしているのかサッパリ理解できません。

霜田さんがJFA技術委員会のトップだったとき、ザックジャパンがブラジルで負けたのはポゼッションサッカーというたった一つのことが原因だという間違った分析をし、ポゼッションサッカーを毛嫌いして、カウンターサッカーしか戦術の引き出しがないハリル監督を招聘したツケが、このタイ戦でも表面化しました。

霜田さんは「日本サッカー百年の計」を誤ったのではないでしょうか。

◇    ◇     ◇     ◇     ◇     ◇    ◇

          2017.3.28 埼玉スタジアム2002

            日本 4 - 0 タイ

        香川 8'
        岡崎 19'
        久保 57'
        吉田 83' 



        GK 川島        GK カウィン

        DF 長友        DF トリスタン
           森重           アディソン
           吉田           コラピット
           酒井宏         ピーラパット

        MF 酒井高      MF ティーラシン      
           山口           ワッタナ
           香川           タナポーン
          (清武 74)        チャナティップ
                         シロク
        FW 原口          (ヌルン 73)
          (本田 66)    
           岡崎       FW アディサック
           久保
          (宇佐美 84)





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